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マツダ・G-Vectoring Control/同Plusの開発者に訊く「ヨーモーメント制御の研究とGVCの実現」

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マツダ・G-Vectoring Control/同Plusの開発者に訊く「ヨーモーメント制御の研究とGVCの実現」

2016年発売のアクセラに世界初搭載されたG-Vectoring Control(以下、GVC)は、ドライバーの運転技量にかかわらず、日常走行から高速走行、それにワインディング走行や緊急回避時に至るまで、あらゆる状況でクルマを意のままに操ることができる技術だ。GVC/GVCPlusの共同開発者であり、本技術の学術的根拠となる論文の著者である神奈川工科大学の山門誠教授に話を訊いた。
(FIGURE:Makoto YAMAKADO/MAZDA)

エンジンでシャシー性能を高めるという発想が新しかったGVC。その効果が高く評価されたのはご存知のとおり。そして18年10月には、GVCはGVCPlusへとアップデートされてCX-5/CX-8に搭載されている。新たにステアリングを戻した際のブレーキによる車両姿勢安定化制御(直接ヨーモーメント制御)をプラス。より高い走行安定性を実現した。

日立製作所の車両システム開発担当研究者であった山門氏は、車両運動力学の第一人者である神奈川工科大学安部正人教授(現・神奈川工科大学名誉教授)の指導の下で「コーナーを上手く曲がる時の車両の動きを数式化する」ことを目指して研究を開始した。そして08年に博士論文を完成させる。

山門 誠:神奈川工科大学 創造工学部 自動車システム開発工学科 教授 博士(工学) ヴィークルダイナミシスト
ドライバーが受け取るさまざまな情報
車両横加加速度Jerk(ジャーク)に基づくヨーモーメント制御手法を検討した際の基本方針。スキルの高いドライバーはさまざまな情報を受けて、自ら構築した車両運動の統合的なイメージに近づくような操作を行なう。このドライバーの操作を、車両運動力学的に内容を吟味したうえで模倣しようというのが山門教授の研究の狙いだった。

「手本としたのはエキスパートのドライバーです。レーシングドライバーの動きも参考にしました。最初に彼らの滑らかな運転を徹底的に分析しました。エレベーターの動きをイメージして頂けるとわかりやすいのですが、速度が一定だと、人間は上下動を感じ取れません。ところが加速度、加加速度(加速度の増減の度合い)があれば変化を感じ取れる。エキスパートドライバーの運転は、人間が不快に感じないどころか、その変化が爽快に感じるほど滑らかです。その理由をつぶさに分析して実験した結果、車両の加減速と車両横方向の加加速度の間に強い相関があることがわかりました。非常に簡単に言ってしまえば、コーナー進入時にハンドルを操作すると同時にブレーキを少しかけているのです。これを『加減速指令値=横加加速度×車両固有のゲイン』として定式化したのが私の博士論文です。ちゃんと『安部先生よりG-Vectoring制御と命名頂いた』と書いてあります(笑)」

ハンドルを切った瞬間の応答性を高めるデバイス
車両運動に関わる技術者が解決を目指す永遠の課題が、ハンドルを切った瞬間の応答性のさらなる向上である。それに対応すべくDYC(ダイレクト・ヨーモーメント・コントロール)技術やアクティブステア技術が開発されたが、いずれも運動制御用アクチュエーターが必要なためコストと重量の増加を招いていた。
著者
川島礼二郎
テクニカルライター

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系専門書の編集者等を経て独立。フリーランスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに執筆している。

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