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エンジンテクノロジー超基礎講座094|軽自動車用エンジンの仕立て方:スズキのエンジニアに質問してみた

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エンジンテクノロジー超基礎講座094|軽自動車用エンジンの仕立て方:スズキのエンジニアに質問してみた
スズキの軽自動車用エンジン・R06A

排気量制限がある軽自動車のエンジンは、3気筒なら気筒当たり220cc、ボア径は64mmである。欧州のエンジニアは「冷却損失が大きすぎて燃費追求には不向き」と言う。しかし、日本の軽メーカーは敢えてそこに挑戦し続け、さまざまな成果を挙げている。
TEXT:牧野茂雄(Shigeo MAKINO)
(*本記事は2013年10月に執筆したものです。肩書きは当時)

660ccで3気筒。軽のエンジンを分解して感じるのはボアの小ささである。よくこんな燃焼室で仕事をするよなぁ、と。しかも、コストはかけられない。「生活ぐるま」である軽は、車両価格も維持費も安さが命だ。エンジン性能はコツコツとちりつも(塵も積もれば山になる)をやるしかない。

近年の軽は日本のJC08モード燃費で「リッター30km以上」が珍しくなくなった。「たかがモード」と言うなかれ。されどモードだ。一般のお客さんが燃費を横並び比較(厳密には重量区分が変われば直接比較はできないが)できる唯一の物差しであり、営業戦略上、絶対におろそかにはできない。では、スズキは軽の660ccクラスと、その上の4気筒1200ccクラスを、どのように考えているのだろうか。単に燃費だけを追うのではないということはモーターファン・イラストレーテッド83号で四輪技術本部の笠井公人・副本部長にインタビューしたときに何度も聞いた。だから余計にスズキの方針が聞きたくて、4つの質問をぶつけてみた。以下はその回答である。

【質問1】 冷却と点火が重要テーマ。この点についての将来像は?

新しいR06A型の660ccエンジンでは、冷却系はヘッド側とブロック側は共通です。たしかに冷却系はまだ手を入れる余地がたくさん残っています。我われもヘッドとブロックを別回路に分けるべきかどうかスタディしています。

一方、K12Bにはいちばん新しい考え方の冷却系を入れました。「デュアルジェット」というサブネームが付きましたが、生産ラインの要件は厳守しなければならないマイナーチェンジですから、いま出来る範囲での改良によってヘッド側に多く冷却水が流れるように改良しました。ブロック側の鋳物形状を少し変えて水路内に板を差し込んだだけです。これだけでも、我われがねらった水流にはなっています。

当然、今後はR06Aも冷却系に手を入れると思います。性能上、温めるべきところと冷やすべきところがあります。ブロック側のシリンダー慴動部はオイル温度を上げて粘度を落としたいから温めたい。逆にヘッド側はノッキング回避のために冷やしたい。しかし冷やし過ぎもダメです。それぞれの部分をねらった温度にするメリハリのある冷却系というのが方向です。スズキは前方排気でエンジンを積むので、エンジンルーム内の空気の流れも考慮しながら、いろいろなスタディをやっています。

それと点火系は、以前のK06型660ccからR06A型に変わったときもエネルギーは上げていません。上げることで得られるポテンシャルは研究しました。R06A開発当時は、従来のままでいいという判断でしたが、今後はわかりません。たしかに点火も重要なテーマです。

エンジン性能が上がり冷却が重要になってきた。写真でシリンダーボアと排気側の水路が確認できる。R06A型を開発していた09年ごろは、現在ほどセンシティブな冷却系設計は求められていなかったため、K06比では大規模な変化ではないが、13年登場のデュアルジェットではここにメスが入った。最近2〜3年間のエンジン設計術の進歩がいかにすさまじいかが見て取れる。
著者
牧野 茂雄
テクニカルライター

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産業界を取材してきた。中国やシンガポールなどの海外媒体にも寄稿。オーディオ誌「ステレオ時代」主筆としとてオーディオ・音楽関係の執筆にも携わる。

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