アメリカ規制後の新時代で加速する中国レガシー半導体産業、日本に求められるのは未来を見据えた人材育成政策
現在、中国では「レガシー半導体」の増産が進む。
その理由の一つとしてアメリカ政府が主導する対中制裁措置が挙げられる。
バイデン政権は、2022年に発表した「国家安全保障戦略」において、「世界秩序を再編する意図と、それを成し遂げるための経済・外交・軍事・技術力とを併せ持つ唯一の競争相手」として中国を位置付けた。
もはやアメリカの経済安全保障に脅威を与える存在になった中国に対抗するために、同盟国やパートナーと協力しながら、貿易・投資などを規制することを通じて先端技術の中国への流出を止めなければならないと主張、規制を強めている。
中国はこの規制により最先端分野である集積回路(IC)生産が困難となり、その影響として大量の資金や政策支援がレガシー分野へと移動を始めている。
この流れがさらに加速するならば中国のEVや半導体製造装置メーカーが今以上に国際競争力を高めることになるだろう。
その結果として日本の産業へ影響を及ぼす可能性も十分に考えられる。
日本が競争力を保ち続けるためには半導体産業を担う企業、人材の新規参入を急ぐ必要がありそうだ。
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アメリカの規制を受けて投資が加速する中国半導体市場。日本が競争力を持つ産業が脅かさせる恐れも
アメリカ政府は2022年10月、特定の演算用ICの開発・生産に関わる製品などへの包括的な対中規制を導入した。この規制が影響したかのように中国向けの装置販売額は減少していたが、現在では再び増加している。
半導体業界の国際団体SEMIなどの報告によれば、国向けの2023年4〜6月期の装置販売額は75億5,000万ドル(約兆1,300億円)だったようだ。前年同期比で15%増加での着地となる。
中国政府が2015年に公表した産業振興策である「中国製造2025」等には半導体産業に注力することが明記されており、以前から中国は半導体産業の育成に取り組んできた。国政を軸とした上意下達の投資目標を達成するため、制裁下においても実現性が高いレガシー分野に資金が集まる。
現在では中央・地方政府の合計で10兆円規模とされる投資ファンドを整備済みだ。さらに、アメリカとの対立長期化を受けて4〜6兆円規模の新ファンド構想も報じられている。
この資金を利用した主な生産品目としては、電圧や電流の制御に使用されるパワー半導体が挙げられる。調査会社の富士経済の予測を借りるなら、パワー半導体の世界市場は2030年に約7兆7,000億円となるようだ。
このパワー半導体には電子機器のエネルギー利用効率の向上が期待できることから、脱炭素社会を目指すグリーントランスフォーメーションに欠かせない基幹部品として注目が集まっている。
しかしこのパワー半導体、三菱電機やロームなどの日本メーカーが競争力を保有している数少ない分野でもある。
中国メーカーは窒化ガリウムなどの新素材を使った次世代パワー半導体の研究開発にも前向きな姿勢であり、近い将来日本勢の強力なライバルとして立ちはだかる可能性が高い。そうなると日本のパワー半導体の競争力は低下してしまうことも考えられるだろう。