挑戦の車載電池市場。日本が失った市場を取り戻すためには官民一体となった投資判断が不可欠
EVの生産コストの3~4割を占めるのが車載電池だ。EVを広く普及させるためには車両コストの引き下げが必須となるが、コストの大半を占める電池をいかに調達するか各社苦慮している。外部調達か、合弁工場での生産か、自前生産か。頭を悩ませるところだ。
しかし中国の猛攻、アメリカや欧州勢の歩みを考えると、日本勢も電池に関する各方面への投資を止めるわけにはいかない。
現在、その電池領域において日本勢の悩みをよそ目に突き進むのが中国、韓国の電池メーカーだ。
調査会社テクノシステム・リサーチ(TSR)によると、中国勢はCATLとBYDの2強で世界シェアの約5割を占有、韓国勢も上位3社合計すると25%以上を占めている。
この激戦区において日本勢で奮闘しているのはテスラと歩んできたパナソニックホールディングスのみ。残念ながら日本勢の合計シェアは1割にも満たないというのが実情だ。
日系自動車メーカーも中韓勢から電池を調達していることからも状況が見て取れる。
日本勢はどう戦うべきか。
目次
日本勢の投資が鈍化する中、中国、韓国の積極投資により市場に変化が
EV向け電池は日本勢がリードしていた時代もあった。特にEVの先駆けとなった日産自動車の「リーフ」、三菱自動車の「アイミーブ」などに搭載されていた電池は日本製だ。テスラにも長くパナソニックが独占供給していた。
しかしトヨタやホンダがこの10年間力を入れてきたHEV(ハイブリッド車)によって良くも悪くも市場は大きく変化する。国内外で非常に好調なHEVは、環境性と走行性のバランスがよく、高い実用性が評価されていた。もちろんコストパフォーマンスも高い。ユーザーにとっては高価でインフラが未整備なEVよりも、手が届きやすく燃料への不安が少ないHEVは魅力的な選択肢となった。
EVが保有する社会性、EVを保有することは脱炭素に向けた重要なアクションとなることは各自十分理解しつつも、未来の環境問題より直近の生活問題を優先するというユーザーの気持ちは理解できる。
夢物語ではなく現実的な選択をするというユーザーの動向、それによる市場の変化に対し、日産もリーフも予算を絞られてしまいヒット作品を続けることが難しくなったようだ。
結果として次世代自動車の需要が伸び悩み、日系電機メーカーは車載用電池から続々撤退していく。
日本勢がEVへの投資に懸念を抱き始めていた頃、中国では2020年前後から新型EVが堰を切ったように登場し始める。2023年の中国新車販売3000万台のうち2割をEVが占めた。この急激な需要増で急成長した電池メーカーが「規模の経済」を武器に電池コストを積極的に引き下げたことでEV、PHEV(プラグインハイブリッド車)などの値下げに繋がった。この急激な流れに乗った中国はEV、電池とも市場をリードする存在となっている。
また、韓国勢は中国とは異なる戦いで活路を見出しており、主にEVに積極的な欧米自動車メーカーに拡販することで一定の地位を築いている。
欧米自動車大手各社は電池メーカーを探してはいたものの、当時その要請に応えられる日本勢は非常に限定されていた。官民一体となった積極投資、電池事業の分社化、電池事業の上場といった前傾姿勢の経営が目立つ韓国勢に対し、慎重を期す日本勢は明らかに出遅れてしまった感がある。
他国の積極的な支援策と比較し、日本は国としての支援策が不十分だった面もある。自国の需要増大を背景に急拡大してきた中国は別として、韓国勢が切り開いてきた道には日本勢にもチャンスがあったように見える。
この日本勢の出遅れ、その原因の一つとして投資判断の遅さもある。新規の工場建設には数千億円単位の投資がかかるため、数量の確約もしくは国の支援なしにアクションをとることは当然ながら難しい。しかし自動車メーカーの立場からは簡単に数量を確約できないのが現状だ。当たり前だが確保した電池分よりも販売台数が少なかった場合工場は赤字となる。
2022年CATLはハンガリーのEV電池工場に約1兆円を、同年BYDは約5700億円を中国向上に投資している。これらは彼らが投資を行ってきた中のごく一部だ。
巨額の設備投資競争についていけず海外勢にシェアを奪われる構図は、かつての家電や現在の半導体の姿とも重なってしまう。