欧州電池産業の旗手ノースボルトに立ち込める暗雲、結実しないギガファクトリーへの大規模投資の行方は
スウェーデンのリチウム電池メーカー「ノースボルト」。
同社は再生可能エネルギーで工場に電力を供給し、資源の使用を最小限に抑えることで電池リサイクルにも注力する。石炭ベースのエネルギーを使用して製造されたものよりもカーボンフットプリントが80%低い電池を提供することや、2030年までにセルの年間生産量を150GWhとする目標を掲げている。
アジア圏に一日の長があったリチウムイオン電池製造だが、今後欧州は欧州地場企業のバッテリーを主に採用していく意向を示しており、欧州では現地化が進むと考えられる。
市場の地殻変動に備え数々の戦略を水面下で張り巡らせているノースボルト、そこに立ち込める暗雲。ノースボルトは今岐路に立たされている。
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スウェーデンの風力発電と水力発電のみからエネルギーを獲得する仕組みを構築したノースボルト
2017年に設立されたノースボルトは、テスラの調達担当幹部だったピーター・カールソン氏がCEOを務める。設立間もないころは電池の商用生産を行っていなかったのにもかかわらず、欧州の自動車メーカーや産業界の期待を集める電池メーカーとして知られていた。
カールソン氏は、テスラに入社する前にNXP(旧フィリップスセミコンダクターズ) やソニーエリクソンなど、複数の著名企業で最高製品責任者を務めていたという経歴を持つ。2015年末にこれらの職を辞し起業、アドバイザー、エンジェル投資家としての活動も行う。同年2015年にSGFエナジーという企業を設立し、2017年に社名をノースボルトに変更した。
創業後は欧州投資銀行と融資契約を締結したほか、ゴールドマン・サックスやVW、BMW、ボルボなど様々な企業から巨額の資金を調達しており、計550億ドル(約7兆8350億円)を超える受注に支えられている。
結果、ノースボルトは欧州域内で唯一の大手電池メーカーとして知られるまでに至った。
同社はバッテリーセルの生産に必要なエネルギーをスウェーデン北部の地域で発電される風力発電と水力発電からのみ得ることを目指している。2021年、スウェーデンのスケレフテオにEVバッテリーの生産工場の建設を開始した。
ボルボと共同で、スウェーデンのヨーテボリ(ボルボの自動車工場の近く)で電池セル工場を建設。この工場は年間最大50GWhの生産能力が見込まれており、2026年に稼働を計画している。また、スウェーデン北部シェレフテオで建設中の工場では水力発電由来の電力を利用し、60GWhの電池セルを生産する計画も進む。
さらに2024年3月25日ドイツ北部のシュレスビヒ・ホルシュタイン州のハイデで、リチウムイオン電池のギガファクトリー建設に着工したと発表した。2026年に操業開始を予定している新工場では、今後約3,000人を雇用する。同工場でも年間最大生産能力は60GWhだ。
2030年には150GWhの電池セルを供給する計画を進める。
EV化が進む欧州では、中国やアジアの企業からではなく、欧州の企業から電池を調達したいという思惑もある。そのためCATLやLGに対抗するヨーロッパの電池企業としてノースボルトに注目が集まった。
しかしノースボルトの電池生産量は決して多くない。2022年時点での世界での車載電池シェアのランキングではTOP10にも入っていない。電池事業はどうしても規模の経済に頼らざるを得ない部分もある。ノースボルトの事業拡大はまだ開始したばかりだが、欧州自動車メーカー資本と欧州保護主義を背景に成長が期待される。