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水素を燃料に農作業用2ストロークエンジンを安定稼働させる丸山製作所【水素という選択肢 Vol. 8】

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水素を燃料に農作業用2ストロークエンジンを安定稼働させる丸山製作所【水素という選択肢 Vol. 8】

公道では絶滅しかけている2ストロークエンジンだが、農林業用作業機などでは現役だ。そのカーボンニュートラルを実現すべく、丸山製作所は2ストローク水素エンジンを開発している。

CO2排出量削減に向けて、BEV以外の選択肢にも注目が集まるようになってきた。ガソリンや軽油に代わる燃料を用いてICEをクリーンに使う試みも行われている。丸山製作所が開発中の2ストローク水素エンジンを、Motor Fan illustrated 207号(2024年1月)から抜粋して紹介する。<情報は当時のもの>

TEXT:川島礼二郎(Reijiro KAWASHIMA) FIGURE:丸山製作所

1895年に新潟県高田で消火器メーカーとして創業した丸山商会を源流とする丸山製作所は、日本随一の老舗小型作業機メーカーである。1918年には人力噴霧器を、1961年には世界初となる背負動力噴霧機を製造販売した。噴霧機とは、農薬などを霧状に飛散させる機械のこと。今でも背負動力噴霧機は丸山製作所の看板商品である。現在の丸山製作所は、農業用機械(防除機、林業機械ほか)のほか、環境衛生用機械、消防機械、工業用機械などへと事業を多角化している。

そんな丸山製作所が、世界で初めて小型作業機用2ストローク水素エンジンの安定運転に成功したという。

高負荷下での長時間作業に必要な小型ICE

温室効果ガス(CO2)排出削減は、あらゆる産業が解決すべき中長期的な課題である。農業においても、それは変わらない。農業分野のプロが使用する小型作業機(屋外で使われるチェンソー、手持ち式の草刈機:刈払機と呼ぶ、ブロワーなど)の動力には現在、主として小型2ストロークエンジンが搭載されている。これをゼロエミッション化するため、農業分野では様々な取り組みが行なわれている。

一般的には、小型作業機においても、CO2排出削減=バッテリー+モーターという図式による電化が進められており、プロ向け以外の機種においては普及しつつある。電動であれば、混合燃料を作ったり、エンジンに関連した各部をメンテナンスしたり、といった作業の手間が省ける。農場などの作業場所と住宅との近接化が進んでいることも、動力から発生する騒音がない電動小型作業機普及の後押しとなっている。低振動であることも、電動小型作業機のメリットである。丸山製作所の背負動力噴霧器でも、一部ではバッテリー+モーターを搭載した製品がラインアップされている。

だが、プロ向けの小型作業機は別物。プロ向け小型作業機は、高負荷下での長時間作業に耐えられねばならない。現在のバッテリー性能では、プロが求める過酷な使用条件に応えることができない。そこで丸山製作所が挑んだのが、小型作業機に搭載可能な小型2ストローク水素エンジンの開発である。

水素噴射の最適化でプレイグニッションを解消

小型作業機用エンジンとして世界で初めて、100%水素燃料での安定運転に成功した。小型作業機のエンジンは、作業時に、エンジンが横や上下逆さまになることもあるが、今回、開発した小型2ストローク水素エンジンは、そうした使用環境下でも問題なく作業できたという。

ご存知のとおり、2ストロークエンジンは4ストロークエンジンに比べて構造がシンプルで軽量コンパクト、そしてハイパワーである。だから2ストロークエンジンは、作業者が手で持ったまま、あるいは背負った状態で作業する小型作業機に最適である。また、排気弁や吸気弁といった動弁系を持たないため、メンテナンス性にも優れている。一方で、2ストローク水素エンジンの課題は、燃焼室内の残留ガスが火種となる自着火現象が発生するプレイグニッションである。

そこで丸山製作所は、プレイグニッションを防止するために、水素燃料をエンジンに噴射する場所とタイミングを見直した(下図参照)。これにより自着火現象による不具合を防ぎ、水素燃料での安定運転が実現した。

CE800H2の機械構成とガス交換の方策|左)圧縮前の低温環境の燃焼室へ燃料を導入することにした。また、オフセットシリンダーを採用することで、高温の燃焼済みガスの残留を低減し、さらに低温の空気のみで掃気行程を行なうことにより燃焼室内の温度低減を実現した。右)シリンダーが若干右側にオフセットされていることが分かる。
シミュレーションを活用し噴射を設定|H2の燃焼室内への導入について、H2噴射後の燃焼室内濃度変化と流動挙動をコンピューターシミュレーションで解析した。噴射位置、噴射タイミング、噴射角度、噴射圧力、エンジン回転数の水準の組み合わせを多数解析し、最も効率が良い水素の供給をシミュレーションと実機試作の両方で検証した。
著者
川島礼二郎
テクニカルライター

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系専門書の編集者等を経て独立。フリーランスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに執筆している。

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