リチウムイオン電池(LIB)はなぜ“燃える”のか?発火のメカニズムをあらためて学ぶ|基礎から学ぶEVバッテリー
リチウムイオン電池(LIB)は、その高いエネルギー密度や軽量性から、電気自動車(EV)や携帯機器、さらにはエネルギー貯蔵システム(ESS)まで幅広く使用されている。しかし、その利用拡大に伴い、発火や爆発のリスクが問題となることもある。LIBが発火する主な原因は、内部で進行する化学反応や熱生成が過剰になり、いわゆる「熱暴走」によるものだ。本記事では、SEI(個体電解質界面層)被膜の形成とその役割、電池の劣化、電熱反応、そして過充電による温度変化などを解説する。
TEXT:小松暁子
SEI被膜形成の化学反応
リチウムイオン電池(LIB)の負極(一般的にグラファイト)は充放電サイクルの初期にSEI(Solid Electorolyte Interphase)と呼ばれる薄膜を形成する。SEIは、電解液中の溶媒分子と負極のリチウムイオンが反応することで形成され、リチウムイオンは透過するが、電子は透過しないという性質を持つ。このSEIが負極材料を保護し、さらなる電解液分解を防ぐ役割を果たす。
SEI被膜の主な構成要素には、電解液中のエチレンカーボネート(EC)がリチウムイオンと反応して生成される炭酸リチウム(Li₂CO₃)が含まれる。また、電解質であるリチウムヘキサフルオロリン酸(LiPF₆)の分解によって生成されるフッ化リチウム(LiF)も負極表面に堆積し、SEIの重要な成分となる。
この被膜は安定性を保つ限り、電池の性能を長期間維持する役割を担うが、完全に安定しているわけではない。特に高温や過充電などの過酷な条件下では、この被膜は徐々に破壊され、再形成されることが繰り返される。これにより、電解液のさらなる分解が促進され、ガス生成や副反応が引き起こされる。
SEI被膜と電池の劣化の関係
リチウムイオン電池(LIB)の劣化は、主にSEI被膜の安定性の喪失に起因する。特に長時間の使用や高温環境下の運用では、SEI被膜が劣化し、その結果、負極と電解液の接触面積が増加する。この接触面積の拡大に伴い、副反応が進行し、ガス生成が発生する。ガス生成は、電池内部の圧力を上昇させ、最終的には膨張やセルの破壊を引き起こす。また、SEIが劣化することで電極の活性面積が減少し、電池の内部抵抗が増加、性能が低下する。これにより、容量の低下と充放電効率の悪化が顕著になる。
さらに、劣化したSEIは再形成されるが、この新たなSEI層は均一性が欠けており、不安定な状態である。これがさらなる劣化を引き起こし、LIBの寿命を著しく短縮させる。加えて、最近の研究では、SEI被膜の材料や形成過程を改良することで劣化を抑制し、バッテリーの寿命延長を目指した取り組みが進んでいる。特に、フッ化リチウム(LiF)を強化する新しいアプローチにより、SEI層の安定性が向上し、長寿命化が期待されている。