駆動輪間の“差回転”を許容し“差動”を制限する——Limited Slip Differential
駆動力は、路面からの抗力に対して「作用・反作用」の法則に則って伝わる。では、反作用が起こらない場合=空転時に駆動力をいかに伝えるか。LSDの仕組みを解説しよう。
TEXT:松田勇治(Yuji MATSUDA) FIGURES:GKN/MFi
オープンデフは「路面からの抵抗が少ない側の車輪をたくさん回転させる」ことで左右輪の回転差を許容する。しかし、構造的に、すべての車輪に対して常に同一の駆動トルクしか与えることができない。そのために生じる欠点もある。車輪に伝わる路面からの抵抗に、左右間で大きな差がある状態では、抵抗が少ない車輪の回転数がどんどん高まり、逆に抵抗が高い側の車輪には有効な駆動力が伝わらなくなってしまうのだ。
たとえば高Gの旋回中は、接地荷重によって外側輪のタイヤと路面の間に大きな摩擦が生じて抵抗が増える。反対に内側輪の荷重は減少して抵抗が減る。すると駆動力は、大きな荷重がかかっている外側輪には伝わらず、内側輪を空転させようとする力に費やされてしまって、クルマが曲がろうとする力が働きにくい状況になってしまう。
もっと極端な例でいえば、側溝などに脱輪してしまった場合。脱輪した車輪は抵抗がゼロだから空転を続け、反対側の車輪には駆動力がまったく伝わらないから、自力での脱出は不可能になってしまう。
そこまで行かなくても、1輪だけが浮き上がってしまったり、極端にμの異なる路面の上にいる場合も、抵抗が大きい(言葉を換えればグリップする)側の駆動力が抜けてしまうことで、有効な駆動力が得られなくなってしまう。
さらにその間、エンジンからの出力はトランスミッションやタイヤを空転させながら、運動エネルギーとして蓄積され続けることになる。そしてタイヤがグリップを回復した瞬間、蓄積されたエネルギーが一気に解放され、車体は非常に不安定な状態に陥ってしまう。
このような問題を解決するには、なんらかの方法でブレーキをかけ、空転を防ぐ必要がある。これを「差動制限」と呼び、そのための機構が差動制限装置、すなわちLSDだ。
LSDは、ブレーキをかける方法によって分類できる。負荷に応じる「トルク感応型」がその代表だが、他にも空転速度に応じてブレーキ力を生じる「回転差感応型」、油圧やモーターなど外部からの力を使う「アクティブ型」、機械的にロックしてしまう「ロッキング型」などがある。