開く
BUSINESS

トヨタGRカップ、Polygonチェーン上の「デジタル・トロフィー」授与の衝撃|ブロックチェーンは自動車産業に何をもたらすのか

公開日:
更新日:
トヨタGRカップ、Polygonチェーン上の「デジタル・トロフィー」授与の衝撃|ブロックチェーンは自動車産業に何をもたらすのか

近年、自動車産業で実用化が加速しているブロックチェーン。最近では、Toyota Gazoo Racingが主催する北米のレースシリーズ「GRカップ」で、ブロックチェーンを活用したデジタル・トロフィーの授与が開始された。トヨタ自動車の事例から、「自動車 ×ブロックチェーン」領域の現在の動向を探る。

ドライバーの情報をブロックチェーンに記録

出典:Toyota USA Newsroom

トヨタ自動車は近年、事業の効率化やより利便性の高い製品の提供を実現するために、ブロックチェーン技術に関するさまざまな実証実験を行っている。

2023年8月1日、トヨタは自社のビジネスユニットのひとつであるTOYOTA GAZOO Racing(TGR)が主催する北米のレースシリーズ「GRカップ」で、ブロックチェーンを活用したデジタル・トロフィーの授与を開始していく方針を発表した。デジタル・トロフィーには、ドライバーの完走順位やラップタイムなどの情報が記録され、情報はレースが行われる週末ごとに更新されていく。

デジタル・トロフィーに使用されるのは、暗号資産(仮想通貨)のMATICで利用されている「Polygon(ポリゴン)」と呼ばれるブロックチェーンだ。Polygonはビットコインなどのブロックチェーンと比べてCO2排出量が少なく、エコフレンドリーなチェーンとして知られている。

Toyota Racing Development(TRD)のエグゼクティブ・コマーシャル・ディレクターであるジャック・アーヴィング氏は、今回の取り組みについて以下のようにコメントしている。

「私たちはGRカップ・シリーズを、ドライバーの体験を向上させ、レース・ファンとのより良い関わりを可能にするためのテクノロジーを導入する機会として考えています。ブロックチェーンは、ドライバーの功績を永続的にデジタルで記録し、友人や家族、ファンと共有するのに役立ちます。また、レースファンを我々のパートナー企業に紹介する新しい機会を作ることも可能にしてくれます」

自動車産業で実用化が進む「ブロックチェーン」とは

2010年代後半から、ドイツの自動車メーカーを中心にブロックチェーン関連のプロジェクトを始動する企業が増加している。具体的には、今回取り上げているTOYOTAをはじめ、ポルシェ、フォルクスワーゲン、BMW、ダイムラーなどのメーカーがすでにブロックチェーンの導入を発表している。なお、導入の目的としては、車両データの安定的な記録・保存や自動運転車のセキュリティ向上などが挙げられている。

ブロックチェーンは、もともとはビットコインを開発するために考案された技術だ。その特徴を簡単に説明するなら、「暗号技術を使って取引情報を記録・管理する仕組み」といえるだろう。

ブロックチェーンでは、ネットワーク内で発生した取引の記録を「ブロック」と呼ばれるボックスに格納して保存する。1つのブロックで保存できるデータ量には限界があり、上限を超えた取引データに関しては、新たにブロックを作成してそちらに保存する。このように、取引量に応じて次から次へとブロックが作成され、そのブロックが鎖のように繋がれていく構造を持つことから、ブロックチェーンという名称が付いている。

堅牢なセキュリティを誇るブロックチェーン

近年、金融を筆頭にさまざまな業界でブロックチェーンの需要が高まっている要因としては、そのセキュリティの高さが挙げられる。

ブロックチェーンの特徴を表す際に「分散型」という言葉がよく使われるが、これには特定の管理者を置かない独自の管理システムに起因している。一般的な企業や自治体などの場合、中央サーバーに集められた情報を特定の関係者が管理する「中央集権型ネットワーク」を採用しているところが大半である。

一方のブロックチェーンでは、ネットワークに参加している不特定のユーザーが、各々のPCを使用して取引を監視する「分散型ネットワーク」が採用されるのが一般的だ。分散型ネットワークでは、不特定多数のユーザーが自身が保有する端末を使って取引を管理しているので、単一障害点がなくシステム障害に強いというメリットがある。

さらに、ブロックチェーンにはハッキングやデータの改ざんなどに対する耐性が高いという特長もある。ブロックチェーン上のデータは分散されたPCに共有されており、データの変更があった場合は即座に情報が更新される。そのため、悪意をもった第三者がデータを改ざんしようしても、すぐに気づくことができ未然に防ぐことができるのである。

GRカップでは「Polygonチェーン」を採用

PICK UP