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電動キックボードだけじゃない!免許のいらない自転車タイプの小型原付 【マイクロモビリティを正しく育てるために 第2回】

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電動キックボードだけじゃない!免許のいらない自転車タイプの小型原付 【マイクロモビリティを正しく育てるために 第2回】
今年からシェアリングサービスが始まった自転車タイプの特定小型原動機付自転車「glafit NFR-01」。

昨年7月に道路交通法などが一部改正され、特定小型原動機付自転車(特定原付)および特例特定小型原動機付自転車(特例特定原付)という2つの区分が誕生した。電動キックボードだけでなく、自転車型や四輪タイプなど、規定を満たせば様々な構造のパーソナルモビリティに運転免許なしで乗ることが可能になった(法律の詳細は第1回を参照)。

このシリーズでは、将来的な可能性と安全性という2つの観点から、この新しい交通手段を検証する。第2回は、自転車やバイクと共通する構造の特定原付を取り上げ、ハード・ソフト両面から安全への取り組みを紹介する。【このシリーズは、最新号を無料公開しています。】

【マイクロモビリティを正しく育てるために 第1回】

シェアリングサービスが始まった自転車型の特定原付

今年に入り、2輪で座り乗りタイプの特定原付のシェアリングサービスが始まった。OpenStreet(以下、オープンストリート)が運営する電動アシスト自転車などのシェアサービス「HELLO CYCLING」が導入。電動アシスト自転車と同じアプリを使用して、予約や決済、カギの解除などを行う。利用者は、事前に交通ルールに関するテストの実施や年齢確認書類の提出が求められる。

使用する特定原付は、14インチタイヤを装着しサドルに座って運転するタイプで自転車に近い走行安定性が売りのようだ。ちなみに、電動キックボードに装着されているタイヤは外径が8~10インチほど。電動アシスト付を含む一般の自転車の場合、子どもを乗せる着座位置の低いモデルでは20インチが採用されている。(※ホイールサイズではなくタイヤの外径)

自転車型の特定原付の方が重心が低く安定性が高いという。(画像提供:glafit)
タイヤサイズの違いは、縁石などを乗り越える際に重要となる。(画像提供:glafit)

シェアリングサービスではglafit(以下、グラフィット)製の「NFR-01 SH」という機種が使用される。そこで、この特定原付について同社の鳴海禎造 代表取締役CEOに聞いた。

ユーザーが自転車と特定原付を使い分ける

--:電動サイクルを使ったシェアリングサービスが始まりました。

鳴海禎造CEO(以下、敬称略):NFR-01のシェアリング用モデルを使ったサービスが1月30日から千葉市とさいたま市で始まりました。

--:ジャパンモビリティショー2023(JMS)では、年間3000台を配備する計画とのことでした。状況は?

鳴海:シェア事業用に配備する3000台は既に確定しています。3月14日には、個人向けのNRF-01「Pro」を発表します。このモデルについても、まずは同じ規模のマーケットを作っていくのが目標です。

--:シェアリングの反響は?

鳴海:通常の自転車よりも、使用時間や走行距離が長いというデータが出ていると聞いています。我々の意図するところでもありますが、自転車よりも遠くまで楽に行けるメリットを感じていただいているようです。

--:ユーザーも自転車とは使い分けている?

鳴海:自転車と特定原付では料金が違います。また、使用する条件としてアプリで交通ルールの確認を行う必要もあります。まだ断定的なことは言えませんが、お客さまは「今日は(自転車と小型原付の)どっちを使おうかな?」と考えて選んでいただいているようです。

--:料金も高く、ひと手間かかるわけですから、意志をもってユーザーが使い分けているということですね。便利なのは良いのですが、「特定原付は危険だ」という声を聞きます。NFR-01の開発にあたって、どのような安全対策を講じましたか?

構造面での安全対策と交通ルールの周知

鳴海:まず、自然な姿勢で運転できることと、体重移動しやすいことに注意しました。簡単に言えば、「いかに自転車に近づけるか」です。次に検討したのはアクセル操作です。パワー(の出方)を弱くし過ぎると坂道発進が難しくなりますし、逆にパワーの立ち上がりが急だと怖さを感じる人もいます。誰でもすぐに慣れるよう、慎重に調整しました。

--:JMSで見た時には、前後の大きなブレーキディスクが印象的でした。かなり効きが良さそうですね。

鳴海:効きすぎだという声も聞きますが、ブレーキも重要です。平たん路しか走らないのであれば、弱いブレーキで足りるかもしれません。でも、電動(モビリティ)が一番活躍するのは坂道です。NFR-01は、例えば都内で最も急な品川の「まぼろし坂」(傾斜29%)も余裕で登れます。

29%の傾斜を楽にのぼれるが、glafitは下る時の安全性が重要だという。(画像提供:glafit)

そこを下る時を考えてみてください。長時間の制動や雨の日なども含め、しっかり効くブレーキはとても大切です。一般原付の場合、ドライとウェット両方の路面状況で制動性能を試験することが義務付けられています。ウチは、(特定原付も)同じ試験を行っています。

--:電動アシスト自転車が坂道をかなりのスピードで下っているのに遭遇することがありますね。

鳴海:人の脚だけでは無理な坂も上れてしまうため、下りで結構なスピードが出ることはありますね。ブレーキは本当に大切だと思います。

--:ソフト面はいかがですか?特定原付は運転免許がなくても乗れるので、交通ルールの周知も重要です。

鳴海:もちろんです。交通ルールをキチンと理解していただくのは重要だと考えています。シェアリングでは、「HELLO CYCLING」アプリで事前にテストを行っていただきます。全問正解したうえで、年齢を確認する書類を提出しないと利用できません。個人向けモデルにも、その協業で得たアプリの技術とIoTを活用します。

--:具体的には?

鳴海:個人に販売するモデルは、購入後もそのままでは使えません。アプリを使って、ナンバーや自賠責保険の登録、年齢確認などを行っていただきます。その後、交通テストに合格して初めて、カギが開いて電源が入るようになります。

決められた手続きを終了するまでは、特定原付をアクティベートできないシステムが組み込まれている。(画像提供:glafit)

初めてなので完璧ではないかもしれませんが、今後も必要に応じて改良していきます。少なくともグラフィットとしては、単に動画を見せるとか冊子を渡す以上のことに取り組んでいきます。手前味噌ですが、このやり方がスタンダードになれば良いなと思っています。かなりの投資が必要ではありますが…。

ユーザーを選ぶ電動キックボード

--:ところで特定原付としては電動キックボードが一般的な印象を受けます。危険だという声が少なくないですが、電動キックボードをどう考えますか?

鳴海:私自身は電動キックボードに乗ります。当社も2020年から電動キックボードを販売していますが、「街のインフラ」としてのシェアリングについては慎重であるべきだと思います。その考え方がオープンストリートさんとも一致して電動サイクルを開発しました。

特定原付の場合、お客さまを問わず乗っていただける車両と、お客様を選ぶ必要がある車両があると考えています。立ち乗り(のキックボード)は後者に該当すると思います。「誰でもどうぞ」でなく、売り方を明確に分けるべきだというのが当社の姿勢です。人を選ばないような勧め方には慎重になるべきだと考えています。

--:シェアリングは自転車型が向いているという考えですか?

鳴海:そうです。

--:とはいえ実際には、「特定原付イコール電動キックボード」というイメージが強いと思いますが…。

鳴海:特定原付に電動キックボード以外もあることは訴求していかなければいけないと感じています。地方自治体などから勉強会の依頼が来ることがありますが、「(電動)キックボードを持ってきて欲しい」と言われるケースが少なくありません。当社からは、キックボード型と自転車型の「両方用意した方が良いと思います」とご提案しています。

--:特定原付という区分ができたのは昨年の7月。まだ理解されているとは言えない印象です。

鳴海:社会全体における認知の向上、それから理解の促進が必要ですね。クルマを運転する人も、道を歩いている人も、自転車に乗っている人も、モビリティが多様化していく中で新しい「仲間が増えた」と思っていただきたいですね。敵だと感じておられる方は多いかもしれません(笑)。

--:これまで見たことのない存在というのが大きいでしょうね。

鳴海:「変な奴」ではありますが、知ってもらうことが大切だと思っています。1つの側面だけ捉えられてしまうと、ものすごく悪いようにも良いようにも見えると思います。

--:モビリティに限らず、新しいモノはどう使うべきかをキチンと理解することが大切だと思います。キックボード型か自転車型かを問わず、特定原付も安全に使用する環境づくりはメーカーの責任でもありますね。

鳴海:おっしゃる通りです。私は一般社団法人日本電動モビリティ推進協会の代表理事も務めています。電動モビリティの開発や販売・運用を行う事業者の団体ですが、協会が販売ガイドラインを設けています。交通ルールに関しては、テストを受けてもらったり動画を観ていただいたりした上で、ユーザーさんに誓約書への署名などを求めています。年齢確認も、対面販売であれば免許証やマイナンバーカードなどの公的な物で年齢確認をします。

(法的な)罰則はありませんが、特定原付を社会実装する上で安全のために必要と思われることをみんなで決めて、積極的に守るように勧めています。そういう仲間を増やしていきます。

3月14日に発表された個人向け販売用モデルのNFR-01 Pro。(画像提供:glafit)

スピードとサイズから定めた小型原付の要件

--:手軽なパーソナルモビリティとして、社会的にも意義のある存在になる可能性はあるように感じます。

鳴海:(特定原付に関する)法改正にあたっては、当初、インバウンド(に関連するメリット)が全面に押し出されていました。そんな中、我々が警察庁や国交省の官民協議会等で強く主張したのは、シニア世代の移動に関する選択肢が広がる可能性です。免許を返納した後、特定原付を利用することも考えられると思います。

--:高齢者が特定原付に乗るということですか?

鳴海:「特定原付って電動キックボードじゃん。年配の方がどうやって乗るの?」と思う方もいるでしょう。そこで、形の制約を設けないことが重要だと考えました。立って乗る構造もあれば、座って乗る物があっても良いと思います。車輪の数も制限がないことで、新しい可能性が広がると思います。

法改正に関する議論では、形について柔軟に考えるようお話しました。それまでは構造を定義し過ぎていたと感じます。例えば「セグウェイ」が日本で走れなかったのは、属す車両区分がなかったのが大きいんです。2輪車の場合、法律の書き出しが「タイヤが前後についており」なんです。タイヤが左右に付いている時点で、定義から外れてしまうんです。

--:法律ができた当時は想定していなかった構造ですね。

鳴海:バランス制御技術が発明されるまでは、左右2輪の乗り物ができることは想定していなくても不思議ではありません。法律を「今見えている物」だけで作ると、そういうことが起こります。でも、法律で担保すべきものは安全と秩序です。それを考えると、重要なのはスピードとサイズだと思います。必要最低限の枠組みとして、その2つだけ決めませんかと提案しました。その中で、タイヤの数や椅子の有る無しは問わないとなった結果、自転車型の特定原付が生まれました。

--:先ほどの「人を選ぶ」というお話にあったように、年配の方向けには自転車スタイルの方が安定性は高そうですね。自転車に乗れれば慣れるのは難しくなさそうです。

鳴海:このカテゴリーを生かすも殺すも、社会のニーズとそれに応えるメーカーの対応にかかっています。私の親も免許を返納する歳に近づいています。身近な人に私たちの製品で楽しんで欲しい、笑顔になって欲しいと思っています。

「身近な人に私たちの製品で楽しんで欲しい」と語る鳴海社長。

この連載の初回に紹介したように、電動アシスト自転車の最高速度がおよそ24km/h。一方、傾斜の強い下り坂でも時速20キロを超えず、大型のディスクブレーキを装備したNFR-01の安全性が高いという主張は納得できるだろう。また、二人乗りが禁止されているのも安全面では大きなポイントだ。

特定原付に関連する交通違反については、半数近くが通行区分に関するものとされている。現状の大きな課題の1つは交通ルールの周知不足と言えるだろう。交通違反による検挙理由は信号無視、一時停止違反と続く。これは特定原付に限った問題ではなく、自転車や電動アシスト自転車にも共通する。令和4年の秋ごろから、警視庁などが自転車の交通違反取締り強化に乗り出している。

特定原付の普及は、自転車ユーザーなど運転免許を持たない人々が交通ルールを理解するきっかけになる副次的なメリットもありそうだ。鳴海氏も、「“同じ車線を共有する仲間”として、自転車を利用する方のモラル向上にもつながれば良いな、と思います」と言う。ナンバープレートによって利用者の特定がしやすく、交通違反の切符も切られるため管理が可能になる。自賠責保険も義務化されており、交通事故が起きた際の被害者保護でもメリットはある。

今回は、自転車型の特定原付について詳しく話を聞いた。次回以降も、様々な構造のモデルを紹介しながら、パーソナルモビリティとしての可能性と課題を探っていく。

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