日本にとってe-fuelの実用化は吉か凶か
世界的なカーボンニュートラルに向けた動きの中、日本も2020年に舵を切った。日本政府は2050年までに「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言している。
様々な業界が取り組みが推進されている中、自動車業界においても例外ではない。
そもそもカーボンニュートラルとは、温室効果ガス(GHG)の排出を全体としてゼロとするというもの。排出せざるをえなかった分については同じ量を「吸収」または「除去」することで、差し引きゼロを目指す。
日本が目指すカーボンニュートラルとは、CO2だけに限らず、メタン、N2O(一酸化二窒素)、フロンガスを含むGHGを対象にしている。そして「全体としてゼロに」とは、「排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする」ことを意味している。
また、経済産業省が中心となり、関係省庁と連携し「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定された。グリーン成長戦略では実行計画として14分野が定義され、自動車分野も含まれている。「2040年までに電動車と合成燃料等の脱炭素燃料の利用に適した車両で合わせて100%とすること」が目標として掲げられている。
そこで注目されているのが、エネルギー密度が高く、可搬性があり既存インフラを活用できる「e-fuel」だ。これは未だ実用化されていないが、今後どのように活用されるのだろうか。e-fuelというものについて考察していく。
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目次
世界的に向き合わなければいけない地球温暖化という課題
歴史はエネルギーの進歩と密接に関わってきた。
蒸気機関には石炭が活用され、電気や自動車には石油が必要不可欠だった。それと同時に様々な問題を引き起こしたのも事実だ。
石炭や石油は有限なエネルギーであり、いずれ枯渇することが懸念されている。また石炭を採掘するための森林伐採も問題視されている。これにより、温暖化をはじめとする気候変動の深刻化も懸念されているのだ。
地球規模の課題である気候変動問題の解決に向け、各国が対策に取り組んでいる。
そして2015年には国際的な協定である「パリ協定」が採択された。
これは、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすること、GHGの排出量と吸収量のバランスをとることが目標として掲げられている。
これらの目標を達成するためには、GHGの排出量を実質的にゼロにするカーボンニュートラルの実現が必要不可欠だ。
原料調達やインフラ整備などの課題を解決しe-fuelの実現を目指す
e-fuelは再生可能なエネルギーを用いて、水を電気分解し得られるH2と、様々な方法で回収されたCO2を合成し得られる液体合成燃料を指す。現段階では発電所や工場などから回収されたCO2を利用し、H2は化石燃料から生成することを想定している。
今後、カーボンニュートラルを実現するためには、大気中のCO₂を大気中から回収し、H₂は再生可能エネルギーを使用して水から生成して調達することが求められる。
この他にもe-fuelの実用化を阻む課題が挙げられる。まず挙げられるのは原料調達だ。
現在のe-fuelの生成コストは700円/L程度と推計されている。そのうち約9割がH₂の調達コストだ。H2を大量かつ安価に調達する必要があるが、再生可能エネルギー由来のH₂を材料としなければe-fuelとは言えない。そのため再生可能エネルギーを活用したH₂製造基盤の確立や、装置コストの削減が求められる。
それに付随して品質を規定する必要がある。
例えばガソリンであれば、「揮発油等の品質の確保等に関する法律」や、JIS規格において品質が規定されているが、e-fuelの品質を担保するためのルールや規格は定められていないのが現状だ。
またe-fuelを運搬・貯蔵するためのインフラ整備も重要な課題の一つ。ガソリンや軽油との管理方法の棲み分けに関わるルールも必要だ。
CO2削減のためにもEVが推進されている中、ガソリン車への対応が求められている。e-fuelの実用化が待たれるが、燃料性状が従来とは異なるため、e-fuelを使用した際の運転性や環境性能への影響度合い、または適合性を検証しなければならない。
このような課題を解決する必要がありe-fuelの実用化は、まだ先の話になりそうだ。