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可能性を秘めたコネクテッドカーの現状とその先

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可能性を秘めたコネクテッドカーの現状とその先

コネクテッドカーは、インターネット通信技術を搭載した車のモデルだ。

総務省は「ICT端末としての機能を有する自動車」と定義しており、ICTとは「Information and Communication Technology(情報通信技術)」を意味している。

ネットワークを通じて、自車の状態と周辺の状況を通信センターに送信し、送られた情報をもとに利便性の高い情報を返信する仕組みだ。

常時ネット接続されているため、最新の道路状態を取得し最適なルートを算出したり、万が一車両にトラブルが発生した場合へのサポート機能を搭載している。

これまでもカーナビにインターネットが接続され、渋滞や交通規制などの情報を取得することができた。対してコネクテッドカーはインターネットを介して外部から送られてくる一方向の情報だけではなく、双方向通信が可能である点が大きな違いだ。

コネクテッドカーが普及している中、新たな価値が生み出され様々なサービスが展開されている。主流になりつつあるコネクテッドカーの登場で、未来はどのように変化していくのか考察する。

ILLUSTRATION:Shutterstock

コネクテッドカー市場の現状

香港の調査会社 Counterpoint Technology Market Researchによると、2022年第2四半期における世界のコネクテッドカー普及率が50.5%に達し、通信機能を持たない自動車の販売台数を初めて上回った。

メーカー各社は、ベース車種から派生車種まで純正コネクテッド機能の搭載を積極的に進めており、コネクテッドカーが自動車市場における主流となりつつあるだろう。

世界的に見てもコネクテッドカーの比率が高まっており、トヨタやフォルクスワーゲン、GMなどが市場をリードする。

2023年第3四半期における、コネクテッドカーの市場シェアが最も高かったのはトヨタで12%。以下、フォルクスワーゲン(10.9%)GM(8.4%)ヒョンデ(7.3%)ステランティス(6.9%)と続く。

スタンダードな存在となりつつあるコネクテッド市場だが、今後も通信機能を活用した様々なサービスが続々と登場し、新たなビジネスを生む可能性が高いだろう。

次々と生まれるサービス

コネクテッドカーの普及とともに、関連する様々なサービスが展開されている。

緊急通報システム「eCall」
自動車事故によって人命を減らすことを目的としたeCall(緊急通報)。事故を起こしたり、急病で身動きがとれなくなるなど万が一に備えるためのサービスだ。

オンライン状態であれば位置情報も特定でき、救急隊員は事故現場により迅速かつ正確に到着が可能だ。

EUは、eCallシステムの装備を2018年3月に義務化することを発表した。eCallを導入することで、毎年約2,500人の命が救われ、重傷者の数も約15%低減するとEUは予測している。

車両へのイタズラ・盗難対策
車両へのイタズラや盗難などへの対策としても活用できる。異常を検知すると緊急通報により未然に防ぐことが期待できるため、ドライバーにとって大きな利点と言えるだろう。

テレマティクス保険への加入
新たな保険サービスも用意されている。コネクテッドカーは、自動車メーカーと相互通信を行っているため、走行距離や速度など様々なデータを記録することが可能だ。この情報を元に、保険料を個別に設定するテレマティクス保険が普及しつつある。

ブレーキやアクセルの操作が緩やかで安全運転を心がけている、年間の走行距離が少ないなどの情報から事故のリスクを判断して、保険料率を算定する仕組みだ。

オペレーターサービスの利用
コネクテッドカーを提供する、自動車メーカーのオペレーターサービスを利用することも可能だ。運転時に行き先の天候や周辺施設の情報収集をサポートする。

今後も様々なサービスが提供され、対話型のモビリティとして確立していくだろう。

エンターテインメントの充実
コネクテッドカーは運転の安全性だけではなく、生活をより便利で楽しめるための機能も備えられている。

例えばテスラが提供するコネクテッドカーには、初めから幾つかのゲームが搭載されている。またNetflixやYouTubeなども駐車中であれば視聴できるなど、エンターテインメント要素も備えている。ブラウザの機能も搭載されているため、インターネット検索なども可能だ。

日産では音声アシスタントを備えたモデルが提供されている。声のコマンドのみでナビゲーションを設定したり、好みの曲を再生できるなど、目的地までの道のりをサポートする機能が搭載されている。

コネクテッドカーによるエンターテインメントと生活の利便性の向上は、日常の移動を特別な体験へと変化してくれるだろう。

コネクテッドカーに求められる課題

様々なサービスが実装されているコネクテッドカーだが、まだ発展途上と言える。

現在、提供されているサービスは、オーナーやドライバーを対象にしたものが多く、自動運転や車両制御といった領域については課題が残る状況だ。

コネクテッドカーは普及しつつあるものの100%ではない。

通信機能を持たない自動車が混在しているため、交通渋滞を自動的に回避するような仕組みを構築しても、ドライバーの判断と運転技量に依存する自動車が混在していては、本当の意味での渋滞の解消には繋がらない。

この課題について解決を進められているのが、衛星測位機能で位置情報が取得できるGPSトラッカーを搭載した後付けのコネクテッドデバイスだ。

代表的な取り組み企業は、ITで顧客接点を創ることをミッションに、グローバルで新たなコネクティッドサービスを開発・提供するトヨタコネクティッド株式会社などが挙げられる。

2000年に設立されたトヨタのコネクテッド事業会社で、MicrosoftやSalesforceも出資する企業だ。海外展開もされており、2004年のタイを皮切りに現在では5カ国7拠点で事業を展開している。

通信機能を持たない自動車(トヨタ車以外も含む)に、取り付け可能なGPSトラッカー搭載デバイスや取得したデータを可視化するIoTプラットフォームの開発を進めている。

これが普及すれば、自動車同士の双方向の通信、自動車と交通インフラの通信やデータ交換が可能となり、コネクテッドカーの利便性が大幅に向上するだろう。

また、コネクテッドカーに求められる課題の一つに標準化が挙げられる。

自動車の電子化が大幅に進み、自動車開発をする際にソフトウェアは欠かせない。自動車を電子制御するECU(Electronic Control Unit)は、2003年に設立されたAUTOSAR(オートザー)が中心となって標準化に取り組む。2012年、IVI(In-Vehicle Infotainment:車載情報通信)と、システム用OS「Automotive Grade Linux」を開発している。

また、大きな転換期となったのが2015年にリリースされたAndroid Autoだろう。これはGoogleによって開発された、Android端末を自動車内での利用を最適化するためのアプリケーションだ。Android Autoが登場し、多くの自動車メーカーが採用したことで、コネクテッドカーに搭載されたデバイスの標準化は進みつつある。

通信方式も課題だ。C-V2X(Cellular V2X)やDSRC(Dedicated Short Range Communications)といった通信技術に集約されつつあるが、現時点では世界各国の周波数帯割り当てに制限があるという課題も残されている。

このようにコネクテッドカーの普及に向け、各国の自動車業界やインフラの整備が進められている。

コネクテッドカーが見据える将来展望

コネクテッドカーの技術は、単純に便利で安全なだけではない。環境への配慮という面でも大きな役割を果たす。

特にEVと組み合わせることで、その利点はさらに顕著だ。

充電状況をリアルタイムで監視し、最適なタイミングで充電を行うように通知してくれる。さらに、充電スポットの空き状況も把握できるため、無駄な時間を削減し、EVをより効率的に利用することができるだろう。

また、コネクテッドカーの進化をさらに加速させるのが、5G通信技術の採用だ。2030年には新車のうち、5Gを採用したモデルは9割を超えると予測されている。

5Gは、従来の通信技術と比べて圧倒的な速度と容量を実現する。これにより、車両同士や車両とインフラとの間でリアルタイムに大量のデータをやり取りすることが可能となる。

5G技術をコネクテッドカーに搭載することで、交通渋滞の軽減や環境への負荷軽減にも寄与するだろう。そしてエネルギー効率の最適化など、未来の生活をより快適で持続可能なものへと変えていくはずだ。

さらに5Gは自動運転車の実現にも欠かせない技術と言える。瞬時のデータ通信により、周囲の状況を正確に認識し最適な判断を下すことが可能となるはずだ。

これは自動運転技術の安全性と信頼性を大きく向上させ、より安全で快適な移動を実現する鍵となるだろう。

コネクテッドカーは多くの可能性を持っているが、世の中にとって価値あるものとなるには世の中のニーズを理解し、そのニーズに応えることが大切だ。コネクテッドカーは、自動車市場における新たな潮流であり今後の動向に注目したい。

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