サステナビリティとダイバーシティの時代に柔軟性で対応する開拓者 【メガサプライヤー トップインタビュー③】 - コンチネンタルはイノベーションセッター-
自動車業界が「100年に一度の変革期」を迎えたと言われて久しい。この変革においては、ADASや電動化などが大きな軸と言えるだろう。そうしたトレンドの中、技術開発の一翼を担っているのがサプライヤーだ。
この特集では、グローバルに包括的なシステムを提供している“メガサプライヤー”にインタビュー。自動車産業の今と未来について考える。第3回はグローバルメガサプライヤーの一角であるコンチネンタル。日本法人のコンチネンタル・オートモーティブ株式会社、難波裕一郎代表取締役社長に聞いた。
目次
パワートレイン部門を切り離して経営資源を集中
--:早速ですが、EVは今後どうなるとお考えですか?
難波:「勢いが落ちてきたな?」と言われていますね。欧州では(EVに対する)インセンティブも減っていますし、内燃機関に対する規制も緩やかになっている傾向です。
コンチネンタルは、以前からEVのトレンドが「どこまで続くのか?」と少し懐疑的に見ていました。発電から充電までの枠組み全体を見たときに、本当にEVの効率が良いのかどうかは技術的に考えるべきだというスタンスでした。
--:電動も含め、パワートレイン部門はスピンオフしましたね。
難波:限られた経営資源をどこに集中させるかを検討した結果、パワートレインの市場動向に左右されない、EV依存にならない体制を構築する狙いで「ヴィテスコ・テクノロジーズ」をスピンオフさせました。
--:パワートレインからの撤退は思い切った決断だったと思いますが…。
難波:EVが増えたことで、今までなかった新たな事業も生まれました。例えば、バッテリー用の衝突検知センサーやコンディションを監視するシステム、モーターをチェックするセンサーなど、新しいニーズに対応するビジネスが拡大しています。EVが増えれば、そうした分野も大きくなりますし、仮にEVが伸びなければ既存のビジネスを丁寧に発展させていきます。私は良い選択だったと思います。
--:スピンオフを発表したのは、EVが右肩上がりで増えていくと考えられていた時代でしたが…。
難波:計画を発表したのは2019年でした。一つの工場で、パワートレインのほかADASなどに関連する製品も扱っていたので、工場の新設なども含め完全なセパレーションに2年かかりました。
--:同じ工場内で部門を分離するのは大変ですね。そうしたプロセスを踏んでも、パワートレイン部門のスピンオフを行ったのですね。
難波:コンチネンタルは非常にフレキシブルな会社だと思います。長い歴史の中で、時代のニーズや市場の動向に合わせてグループ会社のフォーメーションを変えてきました。そういう判断は早いと思います。
エネルギー事情や環境で変わるパワートレインの選択
--:「やっぱりハイブリッドだよね」という論調も増えてきました。パワートレインは取り扱っておられませんが、市場の今後をどう見ますか?
難波:長期的には(ICEとフル電動が)「半々かな」という感じがします。地域ごとに状況はかなり違います。例えばブラジルは、電力のほとんどが水力発電で賄われています。ただ、クルマを考えた場合、都市部はEVが使えるかもしれませんが、(国土は)ほぼアマゾンです。そういった所では内燃機関しかないと思います。国を挙げてバイオフューエル(の普及)に取り組んでいるのは良い戦略だと思います。
一方、フランスでは原子力発電によって(CO2の観点では)クリーンなエネルギーの割合が多いので、もう少しEVが普及するのではないかと思います。
--:駆動系のソリューションも“多様化”の時代でしょうか?
難波:国ごとの事情に合わせて、内燃機関も残っていくだろうと思います。それから環境負荷という観点では、電力を石炭や石油に頼っている地域があることを考える必要もあります。本当の意味での「クリーンって何ですか?」というのを、我々サプライヤーも含めて企業や政府などが正確に伝えないといけないと思います。
--:最初にテスラがブランドイメージを確立したのもEVが注目された要因だと思います。そのテスラも最近は、あまりいい話が出てきません。やっぱり「何か一つ」というのは現実的ではないだろうと思います。
難波:厳しいと思います。少なくとも現時点では様々な選択肢が残るべきだと思います。
--:これまでは報道も極端だった部分があると思っています。「日本はEV化が遅れていて“ヤバい”」といった論調が強かった印象です。
難波:電動化に関しては、日本にはハイブリッドで培ったノウハウが十分にあります。EVで勝負しようと思えばできると思います。
--:エネルギー事情や社会環境でパワートレインが使い分けられるというお話でしたが、クルマ自体の位置づけも変わっていく気がします。
難波:クルマを所有したいという意識が薄くなっている傾向があります。当社では、世界で7000人ぐらいを対象に“モビリティスタディ”という調査を2年ごとに行っています。環境問題に敏感な方が増えて、「クルマを持つことが本当に良いんだろうか?」という意見が多く見られます。ランニングコストが不安だという声も挙がっていますし、価格の上昇でカーシェアリングを選ぶ方も増えています。価格が上がることへの懸念は、日本でも80%ぐらいの方が感じているというデータがあります。
--:そのデータを拝見すると、中国はそうした懸念が低いのも興味深いですね。
難波:中国のお客さまは、自動運転機能やEVなどの新しい物を好むのが明確に表れています。大型ディスプレイを装備して、内装の(照明の)色も華やかな仕様が好まれます。
一方、ヨーロッパでは比較的シンプルなものが求められます。コンチネンタルでは、不要な時はディスプレイ表示を消してウッド調のパネルだけが現れるシステムを提案しています。パワートレインと同じで、インテリアもマーケットに合ったものが求められるようになると考えています。