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EV技術の進化と環境問題に貢献するフォーミュラE、その様々な取り組み

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EV技術の進化と環境問題に貢献するフォーミュラE、その様々な取り組み

カーボンニュートラル志向によりEV化が進行する昨今、モータースポーツにも影響し注目を集めている。

それが、国際自動車連盟(FIA)が主催するEVのモータースポーツ「フォーミュラE」だ。

フォーミュラEでは、モータースポーツにガソリン車の代わりとしてEVを用いるのはもちろんのこと、既存のモータースポーツと比べて環境に配慮したレギュレーションを採用する。環境問題や騒音に対する配慮の周知を目的に全てのレースを公道で行っている。

また、モータースポーツで問題視されている多量に消費されているタイヤへの対策として、交換や本数に対して制限を設けている。さらにモータースポーツのCO2排出量の大部分を占める移動や物流に対しても、人員の制限をはじめとした対策を取る徹底ぶりだ。

フォーミュラEに用いられる技術は今後、乗用車型EVへ活用されていくことで自動車業界に大きく貢献することが期待できるだろう。

環境問題や今後の技術革新にどのような影響を与えるのか、事例を読み解きながら今後について考察していく。

新しいテクノロジーを世界に発信し、自動車業界にイノベーションの開発・テスト用プラットフォームを提供するフォーミュラEの登場

あらためてフォーミュラEについておさらいしておこう。

フォーミュラEは、モーターのみを動力源としたフォーミュラカーによって争われる国際レースシリーズだ。正式名称はABB FIAフォーミュラE世界選手権。

世界各国の自動車団体により構成されるFIAが主催しており、2014年にスタートした。

電気自動車の普及促進や都市部の大気汚染対策を目的として、世界各地の大都市や有名リゾート地の市街地コースでレースが実施されてきた。そして2024年に東京での開催も実現しており、話題を集めたことは記憶に新しいだろう。

開催当初はマシンのスピードは低く抑えられていたが、技術が発展したことも手伝い、225km/hだった最高速度が現在では322km/hまで向上している。

フォーミュラEは「電気自動車のF1」とも評されているほどだが、F1の代替を目指しているわけではない。その代わりに、新しいテクノロジーを世界に発信し、自動車業界にイノベーションの開発・テスト用プラットフォームを提供する独自のカテゴリーになることが最大の目的だ。

自動車メーカーにとっては自社の技術を披露できるため、このレースは絶好の機会といっていいだろう。またフォーミュラEを通して今後の乗用車型EVへの応用展開も期待できる。

例えば、フォーミュラEに公式サプライヤー兼パートナーとして、2023年シーズンに加わった大手タイヤメーカーのハンコックはレースタイヤを提供している。

このレースタイヤはドライとウェットの両方のコンディションに対応するよう設計され、再生可能な素材を30%使用することで、材料と排出ガスの大幅な節約に貢献するなど、新たな生産ダイナミクスの実験場となっているのだ。

その他にもEV充電ソリューションの世界的リーダーABB(Asea Brown Boveri)や、石油業界で化学品や工業用ポリマーを中心に活動するサウジアラビアに拠点を置くサビック(SABIC)、世界最大の自動車部品メーカーのボッシュ(BOSCH)なども協賛している。

この他にも多くの企業やメーカーが協賛しているが、革新的で持続可能なモータースポーツ・ムーブメントへの参加に関心を持つ新しい企業は今後も増えていくだろう。

CO2排出量はF1の半分以下。車体のリサイクルにも取り組み、サステナビリティに貢献

サステナビリティへの視点はフォーミュラEの最も重要な観点といっても過言ではない。

繰り返しとなるがフォーミュラEはモーターを動力源としているため、F1で使用されるガソリンとは対照的に二酸化炭素をほとんど排出することはない。

フォーミュラEは2014年のスタートからCO2削減に取り組んできた。専門家と共にCO2排出量をデータ化し、各レースの影響を1シーズン通して検証することで、より良い運営や計画を目指している。

2021年シーズンで排出されたCO2は約19,600t。一方、F1の2021年シーズンでは、およそ43,000tのCO2が排出されており、その違いは明確だ。F1でもCO2削減に向けた対策が講じられており、以前に比べ減少傾向にはあるものの更なる改善が求められている。

またフォーミュラEで使用され不要になった車のシャーシはすべてリサイクルされ、新たな命が吹き込まれる。リサイクルされるのはシャーシだけではない。搭載されているバッテリーは、使用後に余力のあるものは他の用途に使用され、95%以上の金属は取り出され、60%以上が再利用される。

タイヤも使用後には全てリサイクルされているが、無駄を省くことも実施されていることがポイントだ。例えば、レース・車ごとに使用できるタイヤは最大で5つの前輪用タイヤと5つの後輪用タイヤの2セットに限られている。このレギュレーションにより無駄なタイヤを製造する必要はなく、運送にかかる問題解決にも一役買っている。

レースの度にサステナブルに貢献するフォーミュラEは、環境に対する影響が少なく持続可能なモータースポーツの方向性を示しているといえるだろう。

バッテリー、AIなど、フォーミュラEの場で生まれる様々な技術革新

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フォーミュラEは前述した通り、環境への配慮も考慮され持続可能なモータースポーツを目指しているが、技術の発展にも一役買っている。

2030年を目安にEVシフトを進めていることもあり、新技術の開発は欠かせない。そのため、企業は将来を見据えた技術革新や修理技術などをフォーミュラEを通して研究を行っている。

マシンのシャーシはワンメイクで

フォーミュラEでは様々なレギュレーションが設定されているが、マシンのシャーシはワンメイクと規定されている。車両に装着される前後ウイングなどの空力パーツやフロントサスペンション、そしてタイヤは、出場全車が同じものを使用しなければならない。

これまで、第一世代(スパーク・ルノー・SRT_01E)、第二世代(Gen2)、第三世代(Gen3)と進化を遂げてきた。

現在のGen3に変わるタイミングで、タイヤサプライヤーがミシュランからハンコックへ、バッテリーサプライヤーがマクラーレン/アティエヴァ(現ルシード・モータース)からウィリアムズ・アドバンスド・エンジニアリングへとそれぞれ変更されている。バッテリーはシャーシ同様にワンメイクで、最高出力は第二世代の250kWから350kWへと向上している。ただし予選では250kW、決勝レースでは220kWまでと規定されている。

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