開く
FEATURES

タイEV市場にも伸びる中国の手。シェアを落とす日本勢は牙城を守れるか

公開日:
更新日:
タイEV市場にも伸びる中国の手。シェアを落とす日本勢は牙城を守れるか

日本国内やアメリカと並ぶドル箱市場であるタイ。

タイでは、インバウンド需要の回復を受けてサービス業の活動が堅調に推移する一方、主要輸出先の景気減速を背景とした製造業の低迷に喘ぐなど、景気の良し悪しは業種間で差が大きい。しかし2023年、EVに限ってみると販売台数は急増しており、タイにとって「EV元年」といえる年となったようだ。

タイを含む東南アジアでは伝統的に日本車が強かった。国によっては8割を超える圧倒的シェアを築いてきたが、それはもはや昔の話となりつつある。

タイのEV市場を牽引するプレイヤーとして、やはり中国が目立つ。勢いは自国だけに留まらず、タイの乗用車市場をも席巻しつつあるようだ。

タイでも中国の攻勢が続く中、日本勢はどのように動くか。

タイで急増するEV新車登録台数

EV普及の牽引役となった乗用車市場を眺めると、新規登録台数に占めるEVの割合は2022年前半の1%前後から2023年末にかけ25%と急上昇した。

自動車専門メディア「オートライフ・タイランド」によると、タイの23年のEV販売台数は前年比7.8倍の7万6,314台だった。BYDが約4割で首位となり中国勢全体では8割を占めた。トヨタや日産などの日本勢は1%未満の着地となった。

BYDは3万台を販売し、日産やマツダを上回り6位につけた。BYDは2022年11月にタイで販売に参入した時点での販売台数はわずか300台ほどだったが、わずか1年で急激にシェアを獲得している。また、タイ工場も建設中で年内の稼働を予定する。

上海汽車集団系の「MG」や長城汽車を含めた主な中国メーカーの合計シェアは11%と約6ポイント上昇。長城汽車は24年1月にタイでEV生産を開始し、MGも年内の生産を見込む。

モデル・メーカー別にみると、BYDの「アット3」と「ドルフィン」、NETA(哪吒汽車)の「NETAV」、ORA(長城汽車)の「グッドキャット」、MG(上海汽車集団)の「MG4エレクトリック」など、1回の充電で300〜500km前後の比較的長い航続可能距離を有し、かつ価格帯が手ごろな中国製EVが大半を占める結果となった。

中国産EVだけでなく、テスラの「モデル」や「モデル3」といった高級車も人気を集めているものの、やはり中国に押されている印象だ。

中国企業の動向も目立つ。現在EV普及の先導役となっている企業を中心に、多数の企業がタイでEV生産を開始・拡大することを計画しているようだ。2024年1月にいち早く現地生産を開始したのは、2020年に米ゼネラル・モーターズ(GM)の工場買収を通じてタイ市場に参入した長城汽車だ。

同社は2024年のタイでのEV生産台数を8000台と見込んでいるが、ガソリン車を含めた生産能力は8万台であり、今後の販売動向を踏まえながらハイブリッド車やプラグインハイブリッド車の生産ラインをEV向けに切り替えていくと考えられる。

現在EV販売台数世界一となったBYDは、タイ東部の工業団地に年間15万台の生産能力を有する工場の建設を進めており、近く現地生産を開始する。

この他、中国国有自動車最大手の上海汽車集団がEV向けバッテリーや部品の現地生産に向けた新たな工業団地の開発を発表するなど、現地調達率の引き上げに向けた動きも進みつつある。

タイにおけるEV販売急増、その要因に中国の影

Photo by Shutterstock

前述のように2023年、タイEV市場は急激な成長を見せた。それには中国勢EVの加速度的な普及、普及を支えるタイならではの支援制度なども重なり、直近の2024年1月度の電気自動車の登録台数が歴史上最高を更新している。この勢いを支える要因は何か。

中国製EVの高い価格競争力

まず第一に、中国産EVそのものに注目する。タイ市場を席巻し、火付け役となった中国勢EVの力は見過ごせない。

中国政府はEV産業の育成に向けて産業補助金を含めた数多くの手厚い支援を実施してきた。結果として中国産EVの価格競争力は極めて高い水準まで引き上げられている。

中国内のEV販売台数が年間600万台に達しており、大量生産によるコストの引き下げが可能になっていることも強い。中国では景気減速を受けて価格引き下げ競争が激化しているが、タイへのEV輸出価格にもその影響が色濃く表れていることなども指摘できるだろう。

欧州では2023年10月に欧州委員会が相殺関税の導入を視野に入れた調査を開始した。これは中国政府によるEV産業への支援が「不公正な貿易」を招き、EU域内の自動車産業の衰退を招くことを懸念したためだ。

しかし、多くの中国企業がタイでEVの現地生産を計画していることも手伝い、今のところタイでは中国製EV流入拡大に対する表立った批判は生じていない。中国勢の優位性はしばらく続くだろう。

EV早期普及に向けた独特の補助金制度

PICK UP