破産申請したフィスカーの自業自得、プロダクトを疎かにした態度の末路
先日、経営難にあったアメリカのEVメーカー、フィスカーの破産申請が報じられた。負債総額は1億ドル(約160億円)から5億ドル(約800億円)という。
アメリカを取り巻くEV事情、品質問題や大手メーカーとの交渉決裂、手元資金の枯渇、資金調達のハードル、サプライチェーン問題による生産能力増強の難しさなど様々な要因が絡み合った結果だ。
EVを取り巻く市況は厳しく、この2年間にローズタウン・モーターを初め、EVバスや蓄電池を手がけたプロテラ、商用車EVを押し出したエレクトリック・ラスト・マイル・ソリューションズなどのEVメーカーが相次いで破綻している。アメリカで乗用車を手がける新興EVメーカーが経営破綻に追い込まれたのは、2023年6月のローズタウン・モーターに続いて2社目だ。
フィスカーの昨年の売上高は2億7,300万ドル(約430億円)だったものの、負債は10億ドル(約1,550億円)を超えていた。製造上の問題と資金繰りの悪化から、フィスカーは2月の四半期決算の時点で、その後1年経営を行うための十分な資金が残っていないことを認識していた。そこで、一旦6週間にわたって生産停止とすることを検討。
その後間もない2024年3月18日、同社は6週間の生産停止に入ったことを発表した。在庫を調整し、戦略的な取り組みと資金調達を進めることなどが目的だった。
フィスカーが破産申請を検討しているという噂が聞こえてきたのは、そんな折のことだった。
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BMWやアストン・マーティンに関わったデザイナーが送り出したEV企業フィスカーの崩壊
BMWやアストン・マーティンなどに関わったデザイナー、ヘンリック・フィスカー氏が立ち上げたアメリカのEVメーカーだ。フィスカーは新興EVのなかで、リヴィアン・オートモーティブ、ルーシッド・グループと並び、乗用車の3強の一角として注目を集めていた。
ヘンリック・フィスカーは、各社のデザイナーとして活躍した後の2007年、自身最初の自動車会社である「フィスカー・オートモーティブ」を設立したが、同社は2013年に倒産してしまう。「フィスカー・カルマ」と名づけられたプラグインハイブリッドスポーツカーを生産していたが、消費者情報誌「Consumer Reports」のテストで散々な結果を露呈、さらに火災に見舞われたりと、多くの課題を晒してしまう。結果として2013年に破産申請に追い込まれている。その後は2014年に中国の自動車部品メーカーの万向集団(Wanxiang Group)に売却された。
その3年後の2017年、夫妻で共同創業し新たなEV企業のフィスカー・インクの立ち上げを発表する。
アメリカでは最大手テスラの急成長も手伝い、2020〜2021年に「EVブーム」が巻き起こった。この時期に多くの新興企業が上場しているが、フィスカーもその一つだ。10億ドル超の大型の資金調達を行い、2020年に上場にこぎつけた。
フィスカーは新型コロナウイルス禍の特別買収目的会社(SPAC)ブームに乗って、アポロ・グローバル・マネジメントがスポンサーを務めるSPACと合併していたことも大きい。2023年には主力EVとしてSUV「Ocean」をアメリカで発売し、事業を本格化、市場を席巻するプレイヤーとして成長するかに思われた。
しかし、同社が2023年に発売したOceanは、ソフトウェアに起因するブレーキの問題など数々のトラブルを引き起こした。このような懸念が重なりアメリカ道路交通安全局(NHTSA)の調査を受けていた。
2023年第4四半期に4億6,360万ドルの損失を計上。「企業として存続するための能力に相当な疑問がある」と報じられた。また、この発表の中で、同社は従業員の15%をレイオフする予定だとも述べており、暗雲が立ち込めていた。
また、フィスカーのEVはアメリカ規制当局の調査の対象にもなった。Oceanの発表直後から事業継続能力に疑問もたれ、その1カ月後には大手自動車メーカーからの出資を取り付けようとして失敗、事業の縮小に追い込まれる。
その後、日本の民事再生法にあたる米連邦破産法第11条の適用を6月17日(米国時間)に申請し、経営破綻。フィスカーの事業は終止符を打たれた。
フィスカーは「EV業界の他の企業と同様、さまざまな市場やマクロ経済の逆風に直面し、効率的な事業運営能力が損なわれていた」と発表していた。
デラウェア州で申請された連邦破産法第11章の文書によると、フィスカーの資産は5億ドル(約790億円)から10億ドル(約1,550億円)、負債は1億ドル(約155億円)から5億ドル(約790億円)とされている。