トヨタ/出光が示す全固体電池の青写真、当市場で加速する中国の猛追に対抗できるのか
EVの普及が鈍化しているとはいえ、徐々にユーザーは増加傾向にあることは事実だ。ユーザーの増加と比例してEV特有の課題にも焦点が当たる。従来のエンジン車と比較した際の航続距離の短さ、充電時間の長さ、充電ステーションなどのインフラ不足、厳寒時のパフォーマンス低下などはEVの代表的な課題だ。
加えて、既存の液体電解質を用いるリチウムイオン電池(LIB)には、充電速度に固有の限界もある点も付け加えたい。国内では充電出力の規格が最大180kWに引き上げられ、実際の充電システムでも120kWの充電ステーションの設置も進む。テスラの最大250kWのスーパーチャージャーや、海外では350kWかそれ以上の充電スタンドも増えてきている。しかし、これらはより大量の電池を搭載している業務用EVやEVトラックを対象としており、基本的には一般的なEVで利用しても充電時間が大幅に短縮されることはない。加えて、急速充電では低温時と同様、電池の実質的な容量が低下してしまう。
様々な課題を孕んだEVだが、特に電池の課題についてはあまりユーザーに伝わっていないように思える。この情報の非対称性がユーザーの不満を生み出してしまい、SNSなどで拡散されることでEVに対する逆風となっている。
このような課題を大幅に改善する切り札として、全固体電池に注目が集まっている。
日本で先陣を切るのはトヨタだ。2027~2028年を目処に全固体電池搭載のEVをに実用化すると発表した。
これを受けて全固体電池について沈黙を続けていた中国についに動きが見られる。メーカーや大学、研究機関、そして官庁や金融機関まで計200社・機関超が全固体電池の開発に関わり日本を猛追する。
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市場をリードする日本、猛追する中国
全固体電池の関連特許の申請数は、日本が世界を大きくリードしている。特許庁が4月に発表した特許出願技術動向調査によると、複数の国・地域に出願された「国際展開発明件数」(2013~2021年)で日本籍(出願者が日本人・日本企業)の申請の割合は48.6%と首位だった。韓国籍は17.6%、米国籍は12.9%、欧州籍は11.9%で、中国籍は5.8%にとどまった。「発明件数出願人」では上位20社のうちパナソニック(1位)、トヨタ自動車(2位)など日本企業が14社を占める結果に。
一方、中国勢は直近2年で固体電池分野の特許申請を加速させている。関連特許で先行する日本勢を追いかけ、早期の実用化に向けて続々と特許申請を行っているようだ。
中国工業情報省は固体電池と次世代電池の産業政策の立案に取りかかっており、政策投入で開発を奨励する狙いが見える。関連の財政投入の期待も高まっている。
中国自動車最大手の上海汽車集団は5月24日、2026年から全固体電池の量産を始める計画を発表。エネルギー密度は1kg当たり400Whを超える水準であり、従来の動力電池に比べ倍になると説明した。傘下の智己汽車科技が2027年に発売予定の車両に全固体電池を採用する。
広州汽車集団も独自開発した全固体電池を2026年に車両に搭載すると発表。傘下の広汽埃安新能源汽車(AION)のブランドの車両が対象となるようだ。
全固体電池における日本の現在地は
2016年に、東京工業大学とトヨタ自動車の研究グループが全固体電池の開発に成功していることからもわかるように、日本は全固体電池の開発に前向きだ。
例として、2021年4月には電池サプライチェーン全体での発展を目的とした一般社団法人 電池サプライチェーン協議会(BASC)が発足したことも記憶に新しい。
さらに、2022年6月。国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)がトヨタ自動車、デンソー、JFEスチール、住友化学などの民間企業10社とともに、酸化物系の全固体電池の実用化に向けた研究を行うための横断組織「全固体電池マテリアルズ・オープンプラットフォーム」を始動するとも発表している。
この動きは産学のみにとどまらず、政府もカーボンニュートラル実現に向けた政策の一環として資金を積極投入している取り組みでもある。
代表的なものが、2021年に立ち上がった「グリーンイノベーション基金事業」。これは2050年カーボンニュートラルの実現に向け、NEDOに2兆円の基金を造成、最長10年間にわたって研究開発から社会実装までを継続支援する。この中には全固体電池を含む次世代蓄電池の開発も含まれており、実に1,205億円の予算が用意されている。
全固体電池開発に取り組む各社の動向
一部ではあるものの全固体電池開発に取り組む企業の動向を見る。