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#1-1 なにもクリエートしていない:兼坂弘の毒舌評論 復刻版 「いでよ 画期的エンジン」

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#1-1 なにもクリエートしていない:兼坂弘の毒舌評論 復刻版 「いでよ 画期的エンジン」
当時のエンジンを鋭く分析・評価する連載。モーターファン誌の1983年9月号から始まった。

いまや日本の自動車は、品質がよく、廉価なクルマとして、世界に冠たる存在となった。しかし、オリジナル技術では、なんら誇るべきものがないこともまた事実である。80年代は技術革新の時代といわれているが、今後、日本の自動車工業が生残るためにも、新技術を開発しなければならないことはいうまでもない。そこで、あえて以下の苦言を呈する次第である。(モーターファン1987年9月号より転載;情報は当時のもの)

▼特集:兼坂弘の毒舌評論 復刻版 第1回 「いでよ 画期的エンジン」 目次
#1-1 なにもクリエートしていない  ←閲覧中
#1-2 スロットル・ロスを減らす方法も「?」マーク
#1-3 セラミックは有望だが…
#1-4 パワーを4倍出すエンジンにチャレンジ

最近、国産エンジンに新しいものが次つぎに出てきた。それらは軽量・コンパクトであり燃費率、パワーの向上などが計られている。また、かつては特別な存在であったDOHCタイプも汎用エンジン化しつつある。しかし、これらのエンジンの進歩は、いずれにせよ微妙な改良開発に過ぎない。

もっと思想を高く持ってほしい。自動車の技術で日本が発明したものはほとんどない。オットーサ イクル、ディーゼル・サイクル、点火プラグ、噴射ポンプ、etc… 基本的技術はすべていただいたものだ。

また、ホンダ以外の自動車メーカーは、レースにも参加していない。極言すれば、自動車文化になんら寄与をしていない。

それはともかく、発明というのは千三だから、300くらい失敗すれば一つくらい当たるかもしれないが、日本の社会の土壌として、3%くらいしか成功の確率がないものは、ダレもやろうとしない体質がある。

いま日本の自動車工業は日の出の勢いかのようにみえるが、究極の覇者になれるかどうかは非常に疑問である。

エンジン技術に限っても、現在の新エンジンの改良技術はすべて手先の仕事に過ぎない。頭を使った仕事とはいえない。軽量化などというのは、真面目に重箱のスミをほじくっていればできることだ。トヨタの1Gエンジンは軽量エンジンのはしりだが、軽量化への涙ぐましい努力を見ていると、むろん、そうした努力にケチをつけようというわけではないが、そこまでやる必要があるのかなぁ、という感じさえする。さらにいえば、しかしながらこれで軽量化を極めたとはとてもいえないと思う。たとえばVWゴルフのエンジンである。ガソリン・エンジンとしてゼイ肉を取り尽したはずのものが、いつのまにか最も軽いディーゼル・エンジンになり、シリンダー・ヘッド・ボルトの寸法を11mmから12mmに太さを増しただけてディーゼル・ターボとなり、出力と信頼性を誇ることになった。

結論は…これまでの世界中のエンジンが強度計算も軸受け面圧計算もウソのデッチ上げの数値下に設計されていたことになる。

トヨタのエンジニアが、軽量化を極めたはずの1Gエンジンをディーゼル化し、ターボ・ディーゼル化したときに、やはりすばらしい技術の進歩が不可能を可能にしたというのだろうか?

馬力当たり重量からいえば、仮にリッター当たり出力が、無過給エンジンの2倍以上出る過給エンジンができれば、2リッター車は1リッター・エンジンに載せ換えることによってエンジン重量を大幅に軽減することができる。すなわち、車両重量を軽滅し、燃費や運動性能が抜群によくなる。もちろん、コンパクトなエンジンによってエンジン・ルームも小さくてすみ、横置きエンジンも可能になるなど、スタイリングや設計の自由度が大幅に向上する。

こういう考え方もあるのではなかろうか。第一、軽量化はなんらクリエイティブなものではない。たしかに、昔のレーシングカーのエンジンと同等のものが、一般のクルマにリーズナブルな値段で搭載される時代になってきた。しかし、これはエンジン技術が進歩したわけてはない。DOHC、4バルブは40~50年前のレーシングカーでは当たり前のメカニズムである。これは我われの先祖が手造りしたハニワの美しさに魅せられて、型に粘土を詰めて量産して、安く売っているのと同じ発想であって、なにも画期的なエンジンではない。

ここ10数年間に部分的な小さな発明はいくつかあった。残念ながら、これらのほとんどは外国でのはなしである。たとえば、コッグド・ベルトはエンジンの簡易化に大いに役立った発明だ。大昔のレーシングカーのDOHCエンジンはクランク軸からシリンダー・ヘッドにあるカム軸にまで5~6個の歯車を連ねてその回転を伝えた。あるいはベベル・ギヤによるOHCエンジンもあった。その後タイミング・チェーンが実用化されることによって、簡索化とコストダウンが計れたが、伸びてタイミングが狂う、あるいは騒音を発するなどの欠点を持っている。タイミング・ベルトは安いだけでなく、騒音がない。また、タイミング・チェーンのように潤滑する必要がないから、カバーしなくてもすむ。

いまやOHCエンジンが当たり前でOHVエンジンを作る気がしなくなったのは、コッグド・ベルトのお陰でもあろう。

また、これもレーシングカーで開発されたフューエル・インジェクション。霧吹き原理のキャブより流入抵抗が少なく、燃費、パワーの向上が望めるものだが、これもボッシュその他の発明を買ってきたものだ。

開発担当者としては、あれを改良するのは大変だったというかもしれないが、クリエイティブではない。

ただ、三菱の燃料噴射ではエアの流量を計るのにカルマン渦を計る方法をとっているが、それまでの流入空気の前後の圧力差、イコール流速という算出法とは異なっており、微小なる改革といえども、画期的だといえよう。だが、いずれにせよ総合的にみてエンジン技術は進歩していない。ロボットに代表される生産技術やトヨタのカンバン方式に代表される生産管理技術が進歩したに過ぎないのである。

この先、日本のエンジニアはなにをするのか、なにをしたいのか、と問いたい。

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