#1-3 セラミックは有望だが…:兼坂弘の毒舌評論 復刻版「いでよ 画期的エンジン」
現在のターボは未だ具合の悪いところがある。低速では過給どころかかえって邪魔になり、高速ではいらないのにミクスチャーを押込んでくるので、ノッキングしてエンジンを壊してしまう。当時のダイムラーベンツは、「ガソリン・エンジンの過給はしない、その代わり軽量アルミ・エンジンをやる」と言っていた。ランチアは、容積型スーパーチャージャー(ルーツブロアー)を提案。ガソリン・エンジンにリショルム・コンプレッサーとエクスパンダーを繋いだエンジンをトライするメーカーもある。素材として、セラミックの使用が検討されているが…
(モーターファン1987年9月号より転載;情報は当時のもの)
▼特集:兼坂弘の毒舌評論 復刻版 第1回 「いでよ 画期的エンジン」 目次
#1-1 なにもクリエートしていない
#1-2 スロットル・ロスを減らす方法も「?」マーク
#1-3 セラミックは有望だが… ←閲覧中
#1-4 パワーを4倍出すエンジンにチャレンジ
いまターボ、ターボと草木もなびいているが、現在のターボは未だ具合の悪いところがある。それはエンジン回転の二乗に比例してブースト(過給圧力)が発生するので、低速では過給どころかかえって邪魔になり、高速ではいらないといっても勝手にミクスチャーを押込んでくるので、ノッキングしてエンジンを壊してしまう。そこでウエストゲート・バルブをつけてせっかくの排気工ネルギーを捨てて、ブーストを低めに押さえてノッキングしないようにしている。排気工ネルギーをウエスト(捨てる)するから確実に燃費は悪くなる。しかも過給するとノッキングして困るから圧縮比を9から8程度にまで下げ、さらにノック・センサーを使ってノッキングを感知して、点火時期を遅らせるから、実質的な圧縮比も膨脹比も低くなり、ますます燃費が悪くなる。当然の報いとして熱効率の低下は排気工ネルギーを増やす。排気温度が高すぎると排気タービンを溶かしてしまうのでパワーアップは30%くらいか、せいぜい50%が限界である。
さて、最新型ハイパワー・ターボ車に乗って、いざ交差点グランプリで勝負!といっても、エンジンが吹き上がらないのにイライラする。
ダイムラー・ベンツ社の測定ではターボ・チャージャーがアイドリング状態から毎分20万回転に達するには、7秒もかかるという。
一昨年、ベンツを訪れたとき、技術担当役員のコールマン博士はターボ・パワーが発揮されるまでに7秒もかかるので、ダイムラー・ベンツ社としてはガソリン・エンジンの過給はしない、その代わり軽量アルミ・エンジンをやるといっていたが、いまはその通りになっている。
一方、ランチアが容積型スーパーチャージャー(ルーツブロアー)はどうかと提案している。クランク軸からVベルトで一定回転比で容積型スーパーチャージャーを回してやると、低速から高速まで高いブーストが得られる。しかも夕ーボのような時間遅れがなく、レスポンスがよい。
さらに加速時や高速走行、登坂などフルロードの必要なときはスーパーチャージャーを効かせてカを出し、普段の25%~50%ロードのときは作動せずに、燃費をよくするというのもどうだろうか?ターボよりトータル燃費がいい?ターボは低速のところがマイナスするが、容積型スーパーチャージャーは平行に上がるから、極端な加速をしないかぎり普段は作動しない。
これはひとつの方法だと思う。最新の情報によれば、ベンディックス社は容積型スーパーチャージャー「ロートチャージャー」の開発を中止したそうだ。一方、フィアットでは効率40%のルーツブロワーから効率80%の高い効率を持つ「リショルム」という容積型コンプレッサーに切換えて開発中とのことである。
これは大いに期待が持てる。
また、カミンズではガソリン・エンジンにリショルム・コンプレッサーとエクスパンダーを繋いだ、ターボ・チャージャーと同様の考え方のエンジンのトライをしている。エクスパンダーも効率80%だからトータルで64%の効率となるわけだ。小型ターボはなかなか効率50%までいかないから、その点でも優れている。
そして、極低速から高速まで効くし、コンパクトでパワーもでる。エクスパンダーで排気ガスから同収したエネルギーでコンプレッサーを回してお釣りがくる。これが自然とクランク軸に戻る仕掛けだから燃費もいい。理想に近いガソリン・エンジンの過給方法だが、―つだけ難点がある。それはエクスパンダーの材質の問題だ。エクスパンダーは摂氏800度の高温排気ガスをエクスパンド(膨脹)させて機械的な動力に変換するわけだから鉄ではもたない。
セラミックにする必要がある。このセラミック・エクスパンダー・エンジンにはアメリカのエネルギー庁が予算を出している。だが、セラミックのネックは値段が高いことだ。
Kラミックというのがある。水に酸化クロムとジルコニアを溶いて、表面に塗って摂氏600度くらいで焼けば、表面にセラミックが焼付けられる。これは熱伝導率が低く、金属と擦っても焼付かない。つまり、金属との親和力がない。
このKラミックは相当に安いが、それてもまだコスト的に通常のエンジンには太刀打ちできない。このセラミック・エクスパンダーを使った過給ガソリン・エンジンになれば、これまで2リッター・エンジンを積んでいたクルマが1リッター・エンジンですむ。低速トルクもレスボンスも2リッターと同等で燃費がよく、エンジンは小さくて軽い。理想的なエンジンだ。
ところが、現在のガソリン・エンジンは2リッターでも1リッターでも非常に安いのだ。元値は10万円を割る。いまの技術でセラミック・エクスパンダーを作ると200~300万円はかかる。将来、Kラミックによって作れたとしても20~30万円はする。いまターボは5万円のものをつけて15万円高で売っている。セラミック・エクスパンダーは、いかんせんコストの壁を越えることができない。だが、燃料のコストがいまの数倍になったら必ずペイする。アメリカ人はそうなった時のことを考えて、いまから研究をしているのだ。
ガソリン・エンジンをセラミックで作ることはナンセンスだ。圧縮温度が上がってノッキングするからだ。
だからセラミック・エンジンといえるのはディーゼル・エンジンのシリンダー、ピストン、シリンダー・ヘッドをセラミック製にしたものであって、またの名を無冷却エンジン、あるいは断熱(アダイアバティック)エンジンといい、冷却に30%、排気ガスに35%もの熱エネルギーを捨てて、パワーとなるのは35%だけというのがいまのディーゼル・エンジンだから、そのうちの冷却損失をなくせば熱効率が大幅に向上するという目論見なのだが、無冷却にすれば排気ガスが燃料の熱エネルギーの65%を持って、高温になるだけである。
京セラのセラミック・エンジンがこれであって、燃費向上とは無関係のものだ。ホット・プレスしたシリコンナイトライドを使ったので、エンジンの値段が100倍になっただけである。だから、排気ガスの熱エネルギーを動力に換える装置、排気タービンや排気工クスパンダーを付けたコンパウンド・エンジンにしてから安いKラミックで断熱するのがカミンズ社のセラミック・エンジンの創始者ロイ・カモ(日本人二世)のセラミック・エンジン開発の手順である。
これはトラック用エンジンとして有望である。