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CO2排出量を削減し、カーボンニュートラルに向け重要な役割が期待される、ブルー水素の普及に向けての取り組みや課題について

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CO2排出量を削減し、カーボンニュートラルに向け重要な役割が期待される、ブルー水素の普及に向けての取り組みや課題について

水素はその製造方法によって、「グレー」「ブルー」「グリーン」などに色分けされている。

色分けされる分類法は、単なる名称以上の意味を持つ。

まず石炭や天然ガスなどの化石燃料を原料に、高温で分解・改質して水素を製造するのが「グレー水素」だ。現在最も一般的な製造方法と言えるが、製造過程でのCO2排出が大きな課題となっており、カーボンニュートラルを目指す世界的な潮流と相反する側面を持つ。

次に化石燃料から製造し、発生したCO2を回収して地中に貯留したり、利用したりする「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」や「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」技術と組み合わせることで、CO2排出量を削減した水素を「ブルー水素」。既存の技術を活用しつつ環境負荷を低減させる、現実的な解決策として注目を集めている。

最後に、太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーを利用して水の電気分解で製造した、CO2を一切排出しない水素は「グリーン水素」と呼ばれている。太陽光や風力などの再生可能エネルギーを利用した水の電気分解によって製造され、CO2を一切排出しない。これは、真の意味でのカーボンニュートラルを実現する理想的な方法だが、実現までの道のりは遠い。

そこで期待されているのがブルー水素。

製造方法はグレー水素と同様ではあるが、CCS/CCUS技術によってCO2排出量を削減できる点が大きな魅力だ。

ブルー水素市場は、2032年までに30億米ドル(約4,515億円)と予測され、年平均成長率は14.1%に達すると見込んでいる。2022年には10億米ドル(約1,439億円)の市場規模を記録し、10年間で大きな成長を遂げることが期待されている。

多くの企業が注目しており、技術革新や戦略的パートナーシップを通じて市場シェアの拡大を目指しているようだ。

当記事は次世代水素として注目を集めるブルー水素にスポットを当てながら、現在の動向を探る。

化石燃料から製造されCO2排出量を削減するブルー水素

ブルー水素は化石燃料から製造するとお伝えしたが、ここでは石炭を例に進めていく。

石炭の強みとしては豊富な埋蔵量と地理的な偏在性の低さが挙げられ、これはエネルギー安全保障の観点からも注目に値する。

世界の石炭埋蔵量は約10,741億トンに達し、アメリカ(23.2%)、ロシア(15.1%)、オーストラリア(14.0%)、中国(13.3%)、インド(10.3%)などに広く分布している。139年という長い可採年数も、石炭の長期的な利用可能性を明確に表すものだ。

2023年、世界の石炭生産量は87億4,100万トンと過去最高を更新した。IEAの予測によれば、2035年まで世界の一次エネルギー消費に占める石炭の割合はほぼ横ばいを維持するという。

この石炭生産は2000年代に入り、世界的に急速な拡大を遂げてきた。

2000年時点では石炭生産の総量は46億3,805万トンだったが、2013年には79億7,618万トンまで増加。その後、新型コロナウイルス感染症の影響を受けたことで需要が落ち込んだものの、2020年の石炭生産量は75億7,536万トンにまで回復し、以前堅調に推移している。

常に高い需要を継続している石炭は今後とも主要なエネルギー源として利用されることは想像に難くない。特に水素社会の実現に向けては、石炭からの水素製造は重要な役割が期待されている。

そもそも水素は、炭化水素や水を分解することで得られる二次エネルギーだ。石炭は炭化水素の混合物であり、「ガス化」や「熱分解」といったプロセスを経て水素を製造することが可能だ。

ガス化と呼ばれる手法は石炭を少量の酸素と熱を加えて蒸し焼きにすることで、一酸化炭素(CO)と水素(H2)、メタン(CH4)を主成分とする燃料ガスを生成する技術だ。

生成された合成ガスからCO2などの不純物を除去し、水素を分離・精製する。このような、化石燃料をベースとしてつくられた水素を「グレー水素」と呼称する。

また、水素の製造工程で排出されたCO2について、回収して貯留したり利用したりするCCS/CCUS技術と組み合わせることで、CO2排出量を削減する手法が研究されている。

これにより作られた水素は「ブルー水素」と呼ばれ、低コストで製造できるのも特徴の一つだ。化石燃料の産出国においては、安価に生産できることから注目を集めている。

グレー水素やブルー水素といった化石燃料をベースとした水素をつくる場合には、化石燃料を燃焼させてガスにし、そのガスの中から水素をとりだす「改質」と呼ばれる製造方法がとられている。

工業分野で広く活用されている手法であることからも、さらなる低コスト化の実現が求められている。

日本における水素の製造・普及に関する主な取り組み

日本では、多くの企業が水素の製造・取り組みを行っている。ここでは3つの企業をピックアップし、取り組み事例を紹介する。

新潟県柏崎市でのブルー水素実証事業または海外への事業展開も視野に入れ、年間10万トン以上の水素・アンモニア製造を目指す株式会社INPEX

東京都港区に本社を構える株式会社INPEXは、2050年カーボンニュートラル社会の実現に向け、水素・アンモニア事業に注力している。特にブルー水素の製造・利用に注力しており、新潟県柏崎市で天然ガスからブルー水素を製造し、発電に利用する実証事業を進行中だ。

製造時に発生するCO2は、ガス生産を終了した東柏崎ガス田平井地区の貯留層へ圧入し、大気への排出量を抑えている。

製造されたブルー水素は、新潟県内に電力として供給することを目指す。また海外への事業展開も視野に入れ、アブダビやオーストラリア、インドネシアなどでの大規模なブルー水素・アンモニア製造プロジェクトにも参画を検討しているようだ。

国内外で新規事業を推進し2030年頃までに年間10万トン以上の水素・アンモニアを生産・供給を目指す。

さらに、INPEXはメタネーション技術の開発にも取り組んでいる。メタネーションとは、二酸化炭素と水素を反応させてメタンを生成する技術のことで、再生可能エネルギー由来の水素を用いれば、カーボンニュートラルなメタン製造が可能だ。INPEXは、新潟県長岡市でメタネーションの実証試験を実施し、2025年には既存のガスパイプラインへ合成メタンを注入する構えだ。

さらに水素サプライチェーンの重要要素である輸送・貯蔵技術について、I-RHEX(INPEX Research Hub for Energy Transformation)と呼ばれる水素・CCUSを始め、再生可能エネルギー、カーボンリサイクル等に代表されるクリーンエネルギーへの転換、Energy Transformationへの対応を進めるための研究開発活動を2022年2月に発足。

引き続き2050年のネットゼロカーボン社会の実現に向け、水素・アンモニア事業を推進していく。

岩谷産業が描くブルー水素と地産地消で切り開く水素社会

岩谷産業は、国内外に多くの拠点を持ちLPガスや水素などの産業ガスを中心とした総合エネルギー事業をメインに、機械、マテリアルなど幅広い分野で事業を展開する企業だ。

水素エネルギーの開発・普及にも取り組んでおり、国際的な水素サプライチェーン構築に向けた様々な取り組みに参画している。

代表的なの事例としては、オーストラリアの褐炭と呼ばれる低品位の石炭を利用し水素を製造し、その過程で発生するCO2を地中に貯留することでブルー水素を製造するプロジェクトだ。

当プロジェクトは2021年に開始されたもので、オーストラリアの褐炭と呼ばれる低品位の石炭を利用し水素を製造し、その過程で発生するCO2を地中に貯留することでブルー水素を製造するものだ。

ブルー水素の製造はもちろんだが、商用レベルの液化水素サプライチェーンの実証も行っている。2030年を目処に、水素を大量調達することを目指し取り組みを進めており、将来的には低炭素社会の実現に向けた重要なステップとなることが期待されている。

また国内では、低炭素な水素を製造し地産地消を目指すプロジェクトを2022年に開始した。

これは岩谷産業と豊田通商株式会社、日揮ホールディングス株式会社が協業し、廃プラスチックをガス化して水素を製造するプロジェクトだ。具体的には愛知県名古屋港近郊にガス化設備を設置し、廃プラスチックから低炭素水素を製造する。これにより、天然ガスからの水素製造と比較して温室効果ガス排出量を85%削減することを見込んでいる。

プロジェクト発足後、目立った動きはないが2023年5月に3社を含む14の会員自治体と、12のオブザーバーと共に、検討会を実施。今後の動向に注目したいところだ。

住友商事はイギリスの低炭素水素製造関連プロジェクトに多くの実績を持つ「プログレッシブエナジー」と共同開発契約し、年間5万トンのブルー水素製造を目指す

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