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中国勢も力をいれるMEA、燃料電池の性能向上のカギを握る燃料電池の心臓部について

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中国勢も力をいれるMEA、燃料電池の性能向上のカギを握る燃料電池の心臓部について

水素からエネルギーを生み出す燃料電池は、CO2を排出しない地球にやさしいエネルギー源として注目を集めている。その応用範囲は、FCVや定置型燃料電池をはじめ、多岐にわたる用途へと広がりを見せている。

富士経済の予測によれば、水素製造装置やFCV関連を含む国内の水素関連市場は、2035年度には2020年度の約270倍、4兆7,013億円に膨れ上がるという。この数字が示すのは、水素エネルギーへの期待の大きさだ。

日本政府も2023年2月、「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定し、次世代燃料として期待される水素・アンモニアの導入促進を掲げた。中でも、グリーン水素を生成する水電解装置は、各国が脱炭素実現への切り札として熱い視線を注いでいる。

この潮流は自動車業界にも及び、FCVの開発が推進されている。しかし、FCVはいまだ発展途上の技術であり、さらなる改善の余地を残している。

そして、燃料電池の性能向上の要となるのが、MEA(Membrane Electrode Assembly)だ。この部品こそが、燃料電池の心臓部と呼ぶべき存在なのである。

燃料電池の性能向上のカギを握るMEAを作成するための2つの方法

前述のようにMEAは、燃料電池の心臓部と呼ぶべき存在だ。それは触媒層と電解質膜、ガス拡散層を備え、時にはシーリングも含む複雑な構造体である。この膜電極接合体こそが、燃料電池の性能を左右する鍵を握っているのだ。

MEAの作成方法は、大きく二つの手法に分けられる。一つは「CCM(Catalyst Coated Membrane)」、もう一つは「GDE(Gas Diffusion Electrode)」だ。

CCMは電解質膜と触媒層の接触が良好なことから、一般的にGDEよりも高い性能を示す傾向にある。しかし一体成形のため、製造工程がより複雑になる可能性がある。

対するGDEは電解質膜と別々に製造できるため、組み立ての柔軟性が高い。

これらの手法の違いは、単なる製造プロセスの差異にとどまらず、燃料電池の性能や耐久性にも大きな影響を及ぼす。どちらの手法を選択するかは、求められる性能や生産規模、コスト面での制約など、様々な要因によって決定される。

電解質膜の両面に直接触媒層をコーティングすることで作られるCCM(Catalyst Coated Membrane)の製造方法

CCM(Catalyst Coated Membrane)は電解質膜の両面に触媒層を直接コーティングするという方法だ。

この製造プロセスでは、まず電解質膜に触媒を付け、その後、GDL(Gas Diffusion Layer)と呼ばれるガス拡散層を張り付ける。

GDLは、炭素繊維や複合材料技術を基に開発されたカーボンペーパータイプの製品だ。これは燃料電池の電極を構成する多孔質材で、触媒層とセパレータの間に配置される重要な役割を担う。

電解質膜にカソード触媒層とアノード触媒層を付けた状態のものをCCMと呼ぶ。これは三層MEAとも呼ばれ、触媒層と電解質膜で構成された燃料電池用電極膜の核心部分だ。

CCMの主流の製造方法は、デカール法と呼ばれる。

これは、PTFEシート上に触媒インクを塗布・乾燥させ、できあがった触媒シートをNafion膜の両面に重ねてホットプレスし、その後PTFEシートを剥がすという過程を経る。

この方法の利点は、Nafion膜の水分吸収による変形がないことだ。しかし、触媒層の均一性が重要となるため、電解質膜との界面での接触抵抗が大きくなる可能性が懸念される。

多くの研究者がこの方法を基本としつつ、インク組成や製作条件を変えて様々なCCMを作成し、実験に用いてきた。薄膜状の高性能触媒層が得られることから、この方法で作成したセルを「薄膜触媒層のセル」と呼ぶこともある。

一方、電解質膜に直接触媒インクを塗布する方法でもCCM作成は可能だ。国立研究開発法人「NEDO」では、転写工程を省略したroll-to-rollの低コスト直接塗布CCM製造設備の研究開発に取り組んでいる。

ガスが触媒層に効率的に供給され、電極反応を促進させるGDE(Gas Diffusion Electrode)の製造方法

GDE(Gas Diffusion Electrode)は、ガス拡散電極とも呼ばれる。この部品は、ガス拡散層の片面に触媒層を設けた電極を指す。

その構造は、ガス拡散層上に触媒層をコーティングし、それを電解質膜の両側に挟んでホットプレスするという方法で作成される。

このGDEの利点は多岐にわたる。

触媒層の耐久性が高いこと、ガス拡散性能に優れていること、そして電解質膜との界面での接触抵抗を低減できることが挙げられる。

これらの特性は、燃料電池の性能と寿命に直接的な影響を与える重要な要素である一方、製造工程の複雑さとコストの高さが課題として浮上している。

固体高分子形燃料電池(PEFC)の研究は、PTFEで結着した触媒層を持つGDEを用いた試験から始まった。

デカール法が登場した後も、PTFE結着触媒層に電解質イオノマーを含浸させることで性能を向上させる試みが続けられた。

その結果、デカール法で作成したCCMと遜色のない性能が、PTFE結着触媒層のMEAでも得られることが報告されている。

CCMとGDEは、製作工程こそ異なるものの、完成した形状は同じである。それぞれの製作条件を適切に調整すれば、同レベルの性能に到達することが可能だと考えられている。

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