愛三工業が研究開発を進める「アンモニア水素発電」とは何か|R&D予算150億円を投じる次世代クリーンエネルギー技術の全貌
地球温暖化対策が急務となる昨今、クリーンエネルギーへの移行はもはや避けられないといっても過言ではない。これまで、化石燃料に代わる持続可能なエネルギーとして考えられてきたのは、太陽光発電や風力発電、水力発電といった再生可能エネルギーだ。そんな中、新たに注目を集めているのが「アンモニア水素発電」である。
一般的には刺激臭と毒性で知られるアンモニアだが、エネルギー分野では水素キャリアとしての潜在力が高く評価されている。「アンモニア水素発電」とは文字通り、アンモニアに含まれている水素を取り出してエネルギーとする方法だ。
この技術においてリードしているのが、愛知県大府市に本社を構える愛三工業である。同社はこれまでにも、トヨタのFCEV「2代目MIRAI」で採用された「水素供給ユニット」や、燃料電池の小型化に成功した「水素供給循環システム」の開発など、水素関連技術で顕著な実績を積み重ねてきた。
愛三工業は、環境負荷の軽減と効率的なエネルギー供給を実現するための技術革新に常に取り組んでいる。「アンモニア水素発電」は、まさにその取り組みの一環だ。この革新的技術は、次世代のクリーンエネルギー社会に向けた新たな道を切り拓くのか。
TEXT:庭野ほたる(Hotaru Niwano)
目次
なぜアンモニアが水素キャリアになり得るのか
なぜアンモニアが水素キャリアとして適しているのか? まずは、その疑問から読み解いていこう。
アンモニアが水素キャリアとして適している理由は、その特性が水素エネルギーの貯蔵や輸送に非常に有利だからだ。
アンモニア(NH3)は、水素(H2)と窒素(N2)から構成されている。その重量の約17.8%が水素であり、高い水素含有率を誇る。また、アンモニアの水素密度は約121kg-H2/m3あり、この値は液体水素の水素密度(約70.8kg-H2/m3)よりも高い。つまり、アンモニアの方が同じ体積でより多くの水素を運べることを意味する。
そしてアンモニアは、常温常圧下ではガス(気体)だが、常圧下で-33.4℃に冷却すると液化する。また、常温(20℃)ならおよそ0.857MPaの圧力をかけると液化する。液体状態での取り扱いが比較的容易なため、既存の技術やインフラで貯蔵・輸送が可能だ(水素を液化するには-253℃という超低温の環境設備が必要)。
これらの理由から、アンモニアは水素キャリアとして非常に適しており、再生可能エネルギーの貯蔵や輸送において重要な役割を果たすことが期待されている。
アンモニア水素発電のメカニズムに迫る
アンモニア水素発電とは、アンモニアを分解して水素を取り出し、その水素と空気中の酸素を化学反応させることで電力を生成する技術である。
アンモニアの直接分解は吸熱反応であり、完全に分解するには400℃以上に加熱する必要がある。そうして分解されたアンモニアは水素と窒素に分離される。
2NH3→3H2+N2
このとき、微量のアンモニアガスが残ることがあるが、アンモニア除去装置や水素精製装置などを通すことで、より高純度の水素を生成できる。
また、アンモニアの分解を効率的に進めるために一般的には触媒を利用する。(ルテニウム[Ru]を担持した触媒など)これによりアンモニアの反応速度を高め、必要なエネルギーを軽減する。
そうして回収された水素はSOFC(固体酸化物形燃料電池)に供給され、酸素と反応させて電気を生成する。この水素発電はCO2を排出しないため、効率的で環境に優しいのが特徴だ。