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水素調達コストが欧州の約2倍の日本、水素ステーションは本当に普及するのか?インフラの先行的な整備が鍵に

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水素調達コストが欧州の約2倍の日本、水素ステーションは本当に普及するのか?インフラの先行的な整備が鍵に

FCVと水素ステーションの関係は、しばしば「ニワトリが先か、卵が先か」の問題に例えられる。この比喩は、両者の相互依存性と普及における課題を端的に表現している。

水素ステーションの整備が進まなければFCVの普及は困難であり、逆にFCVの普及台数が少なければ水素ステーションの新設は経済的に成り立たない。この解決困難な循環は、FCVの普及を阻む大きな障壁となっている。

結論、ここままでは目標に沿った普及は難しいと見る。

しかし、この問題の解決策は明確ではある。水素ステーションの先行的な整備を行うべきだ。

インフラがなければユーザーは車を購入することができない。

特に普及初期の段階では、需要に先んじてインフラを整備する必要がある。この課題に対処するためには、日本政府主導による公的支援や関係企業の多大な努力が求められる。

日本政府が策定した「水素・燃料電池戦略ロードマップ改訂版」では、水素ステーションの整備に関する具体的な数値目標が掲げられている。現在、計画中のものも含めて約100か所程度の水素ステーションを、2020年度までに160か所程度、2025年度までに320か所程度と、5年ごとに倍増させる計画だ。

一方、FCVの普及については、水素ステーションの全国展開がある程度進展する2020年代後半から、本格的な拡大期に入ると予想されている。これは、インフラ整備が需要創出の前提条件となることを示唆している。

本稿では、水素ステーションが直面する課題や、諸外国の具体的な取り組みについて詳しく見ていく。

最大の課題である経済性、改善されつつある水素ステーションに発生するコスト

水素ステーションの普及を妨げる最大の障壁は、その経済性だ。

イニシャルコスト、ランニングコスト、そして供給する水素の価格に至るまで、あらゆる面で課題が山積している状況だ。

現在、イニシャルコスト、ランニングコストに関しては、国や自治体による補助金制度が設けられており、実質的にはこの補助金に依存する形で水素ステーションの整備が進められている。

まず新設コストに関して触れる。

通常のガソリンスタンドが1億円程度で済むのに対し、中規模水素ステーションは5億円程度を要する。しかし、国がコストの2分の1を補助し(上限2.5億円)、自治体も4分の1から3割程度の補助金制度を設けているため、事業者の実質負担は1億円強にとどまっている。

次に運営経費だ。これは年間4,000万円程度の支出が見込まれる。FCVの普及が進んでいない初期段階では採算の見込みにくい大きな支出となるが、ここでも国の補助金制度が機能し、使用した経費の3分の2が補助される(上限2,200万円)。

残りの3分の1についても、トヨタ、日産、ホンダの自動車3社が出資する水素供給利用技術協会(HySUT)を通じて資金提供がなされるため、事業者の実質的な負担はゼロとなっている。

燃料としての水素価格はどうだろう。

FCVの市販開始に合わせ、JX日鉱日石エネルギー(現JXTGエネルギー)と岩谷産業が先導して、1kgあたり1,000~1,100円に設定された。

これはハイブリッド車と同等の燃費となるよう戦略的に設定されたものだ。実際のコストは不明だが、コスト割れの価格設定ではないだろうか。

2018年2月には、自動車メーカー、水素インフラ事業者、金融投資家等の民間企業11社により、水素ステーションの本格整備を目的とした「日本水素ステーションネットワーク合同会社(JHyM:ジェイハイム)」が設立された。これにより、民間企業がオールジャパン体制を組み、国や自治体とも一体となって、「ニワトリと卵」の関係から「FCVと水素ステーションの好循環」の創出へと進化する体制が整ったのである。

高額になりがちな水素ステーション設置・運営コストには柔軟な規制緩和が求められる

Photo by Shutterstock

水素ステーションは、その運用方式によって大きく三つのタイプに分類される。

第一に挙げられるのは、ステーション内で水素を生成するオンサイト型である。この方式では、エネファームなどと同様に、都市ガスやLPガスなどを原料として水素を抽出する。

第二の方式は、オフサイト型と呼ばれ、これは製油所や工場などの外部施設で製造された水素を運搬し、ステーション内の貯蔵タンクに保管する方式である。

第三の方式は移動式。水素供給設備を大型トレーラーに搭載し、需要のある場所へ直接運搬する方式である。

オンサイト型とオフサイト型には、それぞれ固有の利点があり、一概にどちらが優れているとは言い難い。水素のコスト効率は、原料の調達経路や輸送距離などの要因によって変動するためだ。

移動式は特に普及初期段階において有効な選択肢となるだろう。将来的にはFCV普及が限定的な地方部などでの活用が期待される。

水素ステーションの構成機器は、従来のガソリンスタンドと比較して、より多様で複雑な様相を呈している。単純にコストがかかるのだ。

ガソリンスタンドが給油用のディスペンサーと貯油タンクのみで機能するのに対し、水素ステーションではFCVに70MPa(約700気圧)の高圧水素を充填するため、昇圧機、蓄圧器、冷却器などの追加設備が不可欠となる。

さらに、オンサイト型の場合は水素製造装置も必要となる。これらの要因により、水素ステーションはガソリンスタンドと比較して、より広い敷地面積と高額な設備投資を要する。

コスト増加の要因はこれだけにとどまらない。

高圧ガス保安法、建築基準法、消防法などの法規制により、立地条件や機器配置、安全基準などが厳格に定められており、これらが建設コストを押し上げる一因となっている。

しかしながら、政府は規制緩和を積極的に推進する方針を打ち出しており、これまでにも段階的な規制緩和が実施されてきた。

具体的には、従来40MPaが上限だった圧力を82MPaまで引き上げたこと、市街地における水素保有量上限を撤廃したこと、ガソリンスタンドとの併設を許可したこと、公道とディスペンサー間の距離を短縮したこと、ガソリンスタンド併設時の設備間距離を短縮したことなどが挙げられる。

これらの規制緩和は、利便性の向上のみならず、建設コストや運営経費の削減にも寄与している。

例えば、ガソリンスタンドとの併設が可能になったことで、既存のガソリンスタンドに水素ステーションを増設することが可能となった。結果、新設コストの大幅な削減と運営コストの低減が実現した。

さらに、まだ実現には至っていないものの、ガソリンスタンドで一般的なセルフサービス方式が水素ステーションでも認可されれば、人件費の大幅な削減が期待できる。

農協流通研究所の「平成23年度ガソリンスタンドの運営調査」によれば、ガソリンスタンドの経費に占める人件費の割合は、フルサービス式の62.3%に対し、セルフサービス式では45.8%となっており顕著な経営インパクトが見て取れる。

規制は安全性に直結する重要な要素であるため、安易な緩和は避けるべきである。しかしながら、安全性を十分に検証したうえで、過剰と判断される規制については積極的に緩和を進めていくことが、水素ステーションの普及と持続可能な運営には求められる。

日本のFCV普及状況ではまだまだ経費を上回る利益を生み出せない

前述のような取り組みが整備されたことでコスト面でのハードルはかなり下がっているように感じる。水素ステーションの経済的自立に向けた道のりは、技術開発と規制緩和によるコスト低減が進むことで、徐々に開かれていくものと予想される。

水素ステーションの経済的自立は、技術革新や規制緩和によるコスト削減が進展するにつれて、徐々に視野に入ってくるものと予想される。しかしながらその実現可能性は運営経費を上回る利益を生み出せるか否かにかかっている。

この課題を克服するためには、二つの重要な要素が存在する。

第一に、十分な需要、つまり高い稼働率が見込めるかという点である。第二に、水素の販売価格と仕入れ価格の差額、すなわち利益率が十分であるかという点だ。

これらの条件が満たされて初めて、商用水素ステーションの自立的運営が現実味を帯びてくる。

簡単に言えば「水素ビジネスが儲かるかどうか」だ。

需要の増加については、FCVの普及拡大が最も直接的な解決策となる。

もしも2025年の目標であるFCV20万台、水素ステーション320ヶ所が実現したと仮定すると、単純計算でステーション1ヶ所あたり625台のFCVが割り当てられることになる。

この想定に基づいて収支を試算すると、以下のような結果が導き出される。

FCVが月に1,000km走行すると仮定すれば、1回の満タン給油で650km走行可能なため、月に1.5回の給油が必要となる。

水素約4.3kgで満タンとなり、水素価格が1kg当たり1,000円であれば、1回の給油で4,300円となる。

したがって、ステーション1ヶ所あたりの月間売上高は約400万円と算出される。

仮に水素の仕入れ価格が1kg当たり500円まで膨れ上がってしてしまうと粗利は200万円ほどにとどまる。これでは、月300万円程度と見込まれる運営経費を賄うことは困難だ。

加えて、2023年度のFCV販売台数が400台というを見るに、まだまだこの試算は絵に描いた餅だ。

この状況を打開するためには、乗用車のみならず、FCバスやFCトラックといった大型車両の普及も考慮に入れる必要があり、これは中国や欧州をはじめとしてすでに取り組みが開始している。

商用車FCVの参入により販売量の増加が期待できるが、それでも採算が取れるビジネスモデルとして確立されるのは早くても2020年代後半になると予測される。それまでの期間は、公的支援の継続は不可欠だろう。

水素ステーションの数は、利用者の利便性を考えれば多ければ多いほど望ましいように思える。

しかし、経営の観点から見れば適切なステーション数を維持しつつ、1ヶ所あたりのFCV利用台数を増やすことこそが重要だ。

普及初期には先行的な整備が急務だが、ある程度普及が進んだ段階では、FCV普及のペースよりも少々緩やかな速度で後追いしていくことリスク回避にも繋がるだろう。

この戦略を実現するためには、各企業が独自にステーションを展開するのではなく、業界全体で、さらには行政機関も交えて戦略的な配置を行うことが重要である。また、地方の水素ステーション過疎地域では、行政の支援を受けて簡易型や移動式のステーションを設置して対応するなどの配慮も進めるべきだ。

水素ステーションを展開する企業の動き

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