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世界最大の水素需要国、中国。各社グリーン水素へ向き合う裏では課題は山積する

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世界最大の水素需要国、中国。各社グリーン水素へ向き合う裏では課題は山積する

中国の水素エネルギー産業が急速に発展している。

中央政府は産業サプライチェーンの構築を国家の重要戦略として位置付け、各地の地方政府も製造、貯蔵、輸送、利用の各方面で産業育成を急ぐ。

中国の燃料電池は2018年ごろが黎明期であり、国家戦略における重要技術に位置づけられた。

当初は輸入部品に頼っていたものの、補助金などを背景にこの数年ほどで国産部品の技術開発が進み、次々とプレーヤーが育ってきた。しかし、燃料電池の基幹部品であるスタックなどは、日本や欧米の製品と比較すると出力や耐久性においてはまだ及ばない部分がある。改善の余地は大きいが、中国の技術開発のスピードを考慮すると、数年後には飛躍的な成長を遂げている可能性が高い。

中国国内のFCVの需要は商用車が中心だ。

商用車では乗用車に求められるような高い加速性能や運動性能は必ずしも必要ではない。そのため、現状の中国国産部品でも十分に需要を満たすことができている。

しかし、今後FC大型トラックなどでの長距離走行の実証実験が始まれば、状況は変わってくるだろう。長距離走行では高い出力と耐久性が求められるため、現段階の国産部品では不十分である可能性が高い。

この課題を克服することが、中国の水素産業の次なる挑戦となるだろう。

商用FCVにおいて注目されるのがグリーン水素だ。今後本格化すると予想されるグリーン水素製造に関して、中国はどのように向き合っているのだろうか。

目次

水素の需要・生産ともに世界最大の中国、2060年、カーボンニュートラルを目指し再生可能エネルギーを導入するが課題も散見される

2020年9月、中国が国連総会で2030年までのCO2排出ピークアウトと2060年のカーボンニュートラル実現を宣言した。

この目標達成に向け、中国は再生可能エネルギーの導入を急速に進めている。

2年後の2022年には風力発電と太陽光発電の新規導入量で世界トップとなったが、この急速な拡大は未利用エネルギー(棄風、棄光、棄水)の問題を引き起こした。過去にEVの供給過剰で社会問題を引き起こした経緯からも、再生可能エネルギーでも同様の過ちを繰り返すべきではないだろう。

この課題に対し、中国は超高圧送電網や揚水発電の建設、新型エネルギー貯蔵の開発実証などが進む。さらに、再生可能エネルギーを用いたグリーン水素の製造と利活用にも注目が集まっている。

中国は現在、年間約3,300万トンの水素需要を持つ世界最大の水素需要国である。

主に石油精製と化学産業での利用が中心だが、2060年には需要が約9,000万トンに達すると予測されている。この需要増加に伴い、利用分野も重工業、輸送、他の燃料への転換など多岐に渡ると見込まれている。

現在の水素製造は主に化石燃料からだが、2050年には1,500億㎥以上のグリーン水素が国内で製造されると予測されている。2022年の水素エネルギー生産量は4,004万トンで、前年比32%増加。同年には300件以上の大型再生可能エネルギー水素プロジェクトが始動し、年間生産量は20万トン以上に達する。なお、その中の50件以上は現在も進行中だ。

しかし、中国の水素エネルギー産業はまだ発展の初期段階にある。技術装備レベルが低く、基礎的な制度の整備が遅れているのが現状だ。

それでも、水素エネルギー関連企業の数は2016年の168社から2022年末には2,675社へと、6年で15倍に増加した。

技術レベルはまだ発展途上だが、多くの企業が参入することで生産量を確保している。今後、技術の向上と制度の整備が進めば中国の水素エネルギー産業は更なる飛躍を遂げると断言できる。

世界最大の水素需要国である中国はグリーン水素生産量引き上げを目指す

世界的な気候変動と環境問題の深刻化を受け、各国がエネルギー転換と低炭素社会の実現に向けて積極的な取り組みを展開している。この中で、水素エネルギー、特にグリーン水素の活用が注目を集めている。

中国の水素需要は年間約3,300万トンであり、総需要の約3割を占める世界最大の水素需要国だ。

世界最大級のエネルギー生産・消費国である中国は、カーボンニュートラル実現に向けて、エネルギー消費量の多い産業の脱炭素化が急務となっている。さらに、世界的な「カーボンプライシング」導入の流れを受け、中国の輸出工業製品の脱炭素化も必要不可欠となっている。

このような背景から、中国ではグリーン水素を用いたエネルギーシステムへの注目が高まっている。

中国産業発展促進会によると、2022年末時点で52件の電気分解による水素製造プロジェクトが実行中だ。中国の水素供給量におけるグリーン水素の比率は、2030年までに15%、2060年までに75%に達すると予測されている。

2023年3月末時点で、世界42カ国と地域が水素に関する国家戦略を策定・発表している。中国でも2022年3月に国家発展改革委員会が「水素エネルギー産業発展中長期規画」を発表し、グリーン水素の製造・利活用を推奨する政策を段階的に打ち出している。

中国の大規模グリーン水素プロジェクトは、新疆ウイグル自治区、内モンゴル自治区、吉林省などに集中している。2022年から各地で大規模再生可能エネルギープロジェクトが立ち上がり、実証実験が始まっている。着工開始や承認待ちのグリーン水素プロジェクト数は57件に達し、投資総額は約3,000億元(約6兆円)に上る。

しかし、IEAの統計によると、世界の水素製造・使用量に占めるグリーン水素のシェアは1%にも満たない状況だ。中国においても、水素供給に占めるグリーン水素の比率は2020年時点で3%に過ぎない。

中国中央政府は2022年3月、水素産業の発展計画を発表し、「2035年までに交通、貯蔵、工業など水素エネルギー応用の生態系をつくる」とし、水素を「戦略的新興産業」と位置づけ、グリーン水素の生産量を2025年までに年10万〜20万トンに引き上げる計画を立てた。

また、ノルウェーの調査会社ライスタッドエナジーによれば、2023年時点でアメリカが生産するグリーン水素は年間4万7300トンで、2030年には204万トンまで増加する。

ドイツは2023年で2万7000トン、2030年に125万8000トンだ。EUの政策の大きな特徴は、2030年にグリーン水素の域内供給量を年間2,000万トンにする目標だ。しかしインフレを背景に大型洋上風力の建設計画が次々中止になるなど、グリーン水素の普及の前提となる再生エネルギー産業に逆風が吹いているようだ。

日本は2017年、世界で初めて国家として水素産業の発展に向けた「水素基本戦略」を策定したが、2023年の改定版でもグリーン水素の生産についての数値目標は盛り込まれていない状況だ。

中国の水素市場に参入する海外企業

Photo by Shutterstock

中国のグリーン水素産業は、豊富な再生可能エネルギー資源を背景に大きな潜在力を秘めている。

しかし、前述した通り中国の水素エネルギー産業は発展の初期段階にある。また、中国企業は水素貯蔵・輸送容器に使われる材料などを輸入に依存していることも懸念点の一つだ。

こうした背景から、中国政府は新エネルギー分野の外資誘致策を打ち出した。

中央政府レベルでは、2023年1月に施行された「外商投資奨励産業目録2022年版」が注目される。これは再生可能エネルギー由来の水電解による水素の技術開発、貯蔵、輸送、液体化に加え、製造設備、貯蔵・輸送、水素ステーションの建設、燃料電池エンジン、膜電極など水素サプライチェーンのあらゆる分野の外資導入を奨励するものだ。

地方政府レベルでもグリーン水素に関する施策を打ち出す。

例えば山西省政府は2023年11月、「山西省の外商投資誘致を拡大する若干の措置」を発表。「風力・太陽光・火力・蓄電を統合したグリーンプロジェクト」において、応用可能なビジネスモデルを共同で開発するため、外資系企業の参画を奨励する内容が盛り込まれた。

こうした政策的バックアップを受け、外国企業の中国水素市場への参入が加速している。

中国の水素情報専門サイト「氫雲鏈」によれば、約60社の海外企業が中国の水素産業で事業展開を行っており、プロジェクト数は140件を超えている。特にドイツ、アメリカ、日本の3カ国からの参入が目立ち、全体の61%を占めているようだ。

これらの企業は、中国の巨大市場への参入や現地化によるコストダウンを目指し、中国企業や地方政府との提携を通じて、水素関連の投資や実証事業に積極的に取り組んでいる。

その一部の企業と実証事業を紹介する。

自動車メガサプライヤー「ボッシュ」が慶鈴汽車と提携し、2021年12月に九龍坡区にて新工場建設

2023年から2035年までに九龍坡区において、水素エネルギー科技パーク、水素エネルギー産業パーク、水素エネルギー産業基地で構成される「西部水素バレー」を建設すると発表した。

当プロジェクトには200億元(約4,000億円)が投資され、3km2にも及ぶ西部水素バレーを建設する考えだ。

水素産業の発展のために、水素エンジンや燃料電池コア部品および商用車への応用のための技術力向上を支援していく構えだ。

10年以上にも及ぶ長期プロジェクトには段階的な目標設定がなされている。2027年までには、成都市と重慶市を結ぶ水素物流モデルルートの整備や、燃料電池自動車の商用化を推進する計画だ。2030年までには、中国国内に水素エネルギーの実証区域を設定し、水素エネルギー産業の生産総額を400億元(約8,000億円)にまで引き上げることを目指している。

最終的には、2035年までに西部水素バレーの整備を完了させ、産業生産総額を1,000億元(約2兆円)という驚異的な規模にまで拡大する構想だ。

当プロジェクトに参画しているのは、ドイツに拠点を置く自動車部品大手「ボッシュ」。重慶市の自動車メーカー慶鈴汽車と提携し、2021年12月に九龍坡区にて新工場建設に着工した。

投資総額は約24億元(約521億円)で、水素エネルギーの研究開発、試験、生産・製造、販売などを総合的に実施し、水素エネルギーの応用拡大を目指す。

エネルギー技術大手企業「シーメンス・エナジー」がMW級のグリーン水素製造装置を展開

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