炭素繊維が拓く自動車の可能性
MATERIAL EVOLUTION
炭素繊維の比重は1.8であり重量はアルミの約3分の2、しかも錆びにくく強度が高い
こうした特性を持つ炭素繊維は、これから自動車への本格的な普及を目指す
TEXT:牧野茂雄(Shigeo MAKINO)
PHOTO:瀬谷正弘アーカイブス(Masahiro SEYA)/東レ/東レ・カーボンマジック
2006年1月、東レは自動車材料戦略推進室を創設した。自動車の要求に応じて東レグループが持つ素材技術を提案する窓口であり、炭素繊維、フィルム、繊維のすべてを統括したワンストップサービスが可能になった。そのなかでも期待されているのがカーボン、炭素繊維である。自動車材料戦略推進室の石野裕喜夫室長に東レのカーボン素材戦略と現在の技術開発の方向性を伺った。
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牧野:レーシングカー設計者ゴードン・マーレー氏とのコラボレーションで2座オープンのミッドシップカーTEEWAVE AR-1が登場したのは2011年でした。乗員が乗るモノコックや衝突エネルギーを吸収するクラッシュボックスなどをオートクレーブ製法のドライカーボンで作り、ボディ外板は熱可塑性樹脂を使って金型成形するという、カーボン素材を用いたハイブリッド構造でした。技術的にも意欲作でしたが、その後、自動車へのカーボン素材浸透はあまり進んでいません。
石野:そのとおりです。我われの先達は「真っ黒い飛行機を作る」と言ってボーイング787の機体と翼にCFRPを提案しました。CFRPを使い、旅客機は明らかに軽くなりました。東京〜欧州間のような長距離フライトは燃料消費が20%も減れば、ボーイングはそこそこの値段で787を航空会社に売り込むことができます。この機体を使う航空会社は、機体費用が割高でも燃料代の節約ですぐに元が取れます。軽量化という価値をヘッジできます。
ところが自動車はBtoCのビジネスであり、軽量化のプレミアムをユーザーにヘッジできません。素材費用を価格転嫁しにくいのです。そこで私自身はいま、「黒いパッチワークだらけのクルマ」を走らせようと思っています。