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EV性能を飛躍的に向上させる?2種類の電池を組み合わせる"ツインバッテリー"コンセプト|【EVの基礎まとめ Vol. 11】

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EV性能を飛躍的に向上させる?2種類の電池を組み合わせる"ツインバッテリー"コンセプト|【EVの基礎まとめ Vol. 11】
2種類のバッテリーを積む|BEVでもHEVでも、現在は1種類の電池しか積まない。そのため電池の性格がそのまま長所になり、逆に短所にもなる。CO2排出最小という点にフォーカスして2種類の電池を選ぶとどうなるか。

ドイツのエンジニアリング企業であるIAVは、極材の異なる2種類の電池を組み合わせて使うツイン・バッテリー・コンセプトを提案している。極材や電解質など、バッテリーを構成する要素のキャラクターをMBDで定め、車両サイズや用途に応じ「もっともCO2負荷の小さい電池」を提供するという試みである。

この独自の取り組みについて、MotorFan illustrated 202号(2023年8月)より抜粋して紹介する(情報は当時のもの)。

TEXT:牧野茂雄(Shigeo MAKINO)FIGURE:IAV PHOTO:VW/Shigeo MAKINO

特性の異なる車載用二次電池:NMC、LFPから「SCiB」、SIB

BEV(バッテリー電気自動車)に搭載される動力用電池は、BEV構成部品の中でもっとも高価であり、かつ重量物である。現在ではほぼすべてのBEVがLIB=リチウムイオン電池を搭載し、そのLIBには大きく分けてふたつの流れがある。ひとつは正極にNMC(ニッケル/マンガン/コバルト)を使う「三元系」であり、もうひとつは正極にLFP(リン酸鉄)を使うシリーズである。NMC系はエネルギー密度に優れ、一般的に1セル当たりの電圧は3.7V(ボルト)であり、もっとも航続距離を稼ぐことができる電池だ。いっぽうLFP系は、エネルギー密度はNMC系におよばずセル当たり電圧は2.7V前後だが、急速充電耐性が高く熱暴走など安全性の面ではNMC系より優れている。

これ以外の量産品では、負極にLTO(チタン酸リチウム)を使う東芝「SCiB」がある。エネルギー密度はLFP系とほぼ同等だが、急速充電耐性や充放電寿命は非常に優れている。また、近く量産が始まるSIB(ナトリウムイオン電池=NIBと同義。ドイツではナトリウムをソジウムと呼ぶため略語がSIBになる)は、セル当たり電圧はLFP系と同等ながら、ニッケル、コバルト、リチウムといった高価な材料を必要としないことからコスト面での期待が大きい。さらにその先には、日本勢が開発をリードしているフッ化物電池がある。

クラス別のBEVに求められる性能を仮定し、それを実現するために「どのような電池を積めばよいか」をIAVはシミュレーションした。BEVにとって電池は、ICE車でいうエンジン+燃料に相当する。電池の性能がBEVの車両性能を大きく左右する。しかも電池は「重たく」「高価」であり環境負荷もある。バランス取りが難しい。

こうした車載用2次電池(繰り返しの充電・放電が可能な蓄電池)についてIAVは、正極材/負極材/集電版/セパレーター/電解質/外装(セルのパッケージ)という構成要素それぞれにMBDを使ったモデリングを行ない、出力密度/エネルギー密度/温度条件/内部劣化/材料の環境負荷など電池のさまざまな性能をシミュレーションできる技術を確立した。

IAVはEPCM=Electro-Physico Chemical Modelという手法で極材や電解質ごとの電池モデル・データベースを構築した。これを使って電池のセル設計をバーチャルに行ない、搭載する容量でどういう性能を発揮するかを予測する。SIB/NIBの場合はナトリウムイオンのエネルギー密度は低くなり、LFP=Lithium FePO4(リン酸鉄)を使った全固体電池はそれよりもスペックが高くなる。上のバーグラフはセル厚みの想定であり、LFP-SSBはもっとも薄型になる。

MBDでツインバッテリーの可能性を検証

ドイツのIAV本社で先行開発担当上級副社長を務めるマーク・ゼンス氏ほかに、この電池MBD(モデルベース開発)についてインタビューを行なった。この技術は2023年4月26〜28日に開催された「第44回ウィーン・モーター・シンポジウム」で初めて公開された。掲載した図版やグラフなどはすべて、同シンポジウムで初公開されたものである。

「BEVだけでなくHEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)もFCEV(フューエル・セル・エレクトリック・ビークル)もすべてエネルギー貯蔵装置として蓄電池が必要だ。いっぽうで蓄電システムは非常に高価であり、開発プロセスのペースを最大化しコスト効率を向上させるには、確立された方法論と信頼できるツールが必要。IAVは実物の電池セルが存在しない段階でも代表的なセルデータを生成できる『EPCM(電気物理化学モデル Electro-Physico Chemical Model)』を用いたセルシミュレーションを開発した。これを利用することで、機能、効率、エネルギー密度、さらには資源負荷や持続可能性(サスティナビリティ)まで配慮した電池利用の手段として、自身が提案するツインバッテリーの可能性を検証できた」

IAVはこう語る。原材料の選択、そのサプライチェーン、劣化を抑える技術、効率的で環境負荷の低い製造プロセス、使用段階、再利用およびリサイクルといった各段階についてMBDで検証した結果「多くの二律背反のバランスを取った最適解のひとつ」として、2種類の異なる電池を組み合わせるツインバッテリー・コンセプトにたどり着いた、という。

著者
牧野 茂雄
テクニカルライター

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産業界を取材してきた。中国やシンガポールなどの海外媒体にも寄稿。オーディオ誌「ステレオ時代」主筆としてオーディオ・音楽関係の執筆にも携わる。

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