EVのバッテリー残量は"推定"|いまだに存在しない、充電量を直接捉える手段 【EVの基礎まとめ Vol. 9】
BEVはもちろんHEVにおいても同様に、電動車の性能を大きく左右する要素がバッテリーの性能だ。そのバッテリー性能を引き出すうえで、必要不可欠となっているのが状態の把握。代表的なひとつが充電量状態、いわゆる“残量”だが、じつはこれを直接捉える手段は存在しない。
TEXT:髙橋一平(Ippey TAKAHASHI)
PHOTO & FIGURE:VOLKSWAGEN/NISSAN/TOYOTA/MITSUBISHI/AVL/MFi
バッテリーの状態は推定するしかない
じつはバッテリーには意外な難しさがある。それは充電状態、もう少しわかりやすく表現するならバッテリー残量を知ること、これが簡単にはできない。ガソリンや軽油などを使って走る内燃エンジン車が当たり前にできていることが、バッテリーの電力だけで走行するBEVでは技術的な課題であり、ハードルなのである。そして、このハードルはBEVだけでなく、HEVなどといった駆動にバッテリーを用いるものであれば、どれにも関わってくる。
“あれ? 現在のBEVには、きちんとした残量表示が当たり前にありますよ”こう思うかもしれない。それはそれで正しい疑問だ。
確かに、現在のBEVには残量表示があって、一般的な使用においてはとくに不便がないかたちに仕上げられている。だがそれは、開発に関わったエンジニアたちが、苦労を重ねてハードルを乗り越えてきた結果である。少なくとも“当たり前に”というほど簡単なものではないのだ。
というのも、バッテリーの充電状態を直接、しかも正確に捉える方法というものは、いまだに存在しない。SOC(State Of Charge)という言葉でも表現される充電状態は、電気と聞いて誰もが最初にイメージするであろう電圧に対し、単純に比例するわけではないのが、まず悩ましい。しかも“FULL”と“EMPTY”については、なんとしてでもその“一線を越えない”よう、細心の注意を払って監視する必要がある。これを守らないと取り返しのつかないダメージを与えかねない。
そこで駆動用バッテリーでは、電圧に加え電流、そして温度、さらにはそれらの変化の過程や挙動まで、さまざまな情報を集め、多角的に“読み解いていく”ことで、このSOCを“推定”している。内燃エンジン車であれば、“FULL”であろうと“EMPTY”近くであろうとも、なんら気にすることはないわけだが、バッテリーではSOCと温度などの条件によって、許容する出力すら変わってくる。
内燃エンジン車のSOC表示にあたる燃料ゲージは、極端に言うなら“ガス欠”の回避が主たる目的であり、精度はそこそこでも構わないが、バッテリーだけで走行するBEVとなると事情が大きく変わってくる。基本的にBEVをはじめとした電動車のSOC表示は推定であり、またバッテリーにダメージを与えるような状況を避けるべく、その上限下限(FULLとEMPTY)も余裕を持たせるかたちとなっている。つまり、クルマを開発したエンジニアの設定に基づくものであり、そこからして内燃エンジンとは概念が大きく異なるのである。
そして、この充電状態の推定や、それにともなう出力の制御などを担うのが、BMS(Battery Management System)と呼ばれる制御システム。車両駆動用のバッテリーには必ずセットで付属しているもので、その役割はバッテリーを定められた条件内で使用し、安全に運用すること。そして、このBMSの存在がとくに重要な意味を持つのが、現在のEVにおいて、主流となっているリチウムイオンバッテリーである。