世界が変わる将来技術|全固体電池というインパクト
東京工業大学 一杉教授の進める界面制御技術
温度管理システムが簡略化できるのも、メリットのひとつ。LIBはセパレーターにポリプロピレンなどの高分子材料を使用しているため、高温になると劣化・熔損のリスクが出てくる。これを防ぐために、冷却水やエアコンの冷媒を使用した冷却システムが必要になるが、セパレーターを持たないSSBならば、150℃程度まで使用が可能になる。また、有機溶媒は低温になると電解質の粘度が高まって抵抗が増大し、-30℃以下では実用にならないため、加温システムが必要になるが、固体電解質は-40℃でも実用性能が維持できるため、加温システムは必要ない。その分だけ密にレイアウトでき、ここでもユニットとしてのエネルギー密度が稼げる。
またSSBは、LIBに比べてサイクル寿命が長い。LIBは電解液の中をリチウムイオン以外の物質も移動できるため、副反応(アニオンや溶媒分子の移動による強酸化/強還元反応による高抵抗皮膜の形成)が発生し、これが電池性能を低下させる要因となる。しかしSSBならば、電解質内の移動はリチウムイオンだけなので、副反応の影響を受けない。LIBのサイクル寿命は“数千サイクル”のオーダーだが、SSBなら一桁上がる可能性が見込まれている。
このように、LIBに対して多くのメリットを持つSSBだが、EVに使用可能とするには、克服しなければならない課題がある。現状では大きなものを作る技術が確立されておらず、EVに使えるほどの電力量を確保するのが難しいのだ。たとえば21年3月に日立造船が「世界最大級」と銘打って発表したSSBの電力量は3.65Wh。ホンダeと同じ35.5kWhを確保するには、約10,000セルが必要になる(ホンダeは192セル)。
また、SSBの開発フェイズは、まだ詳細なメカニズムの解明や新材料の開発が続けられている段階であり(次ページ参照)、LIBの歴史に照らせば、実用化される5〜6年前の段階にある。
トヨタは「2020年代前半には市販車に搭載」と公言しているが、それは果たして「量産」と呼べるものになるのか、市販SUVに燃料電池を搭載した“トヨタFCHV”と同程度のレベルに止まるのか、興味の持たれるところだ。