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パワーユニットはどこへ行く?②|2035年の自動車用パワートレインを考える

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パワーユニットはどこへ行く?②|2035年の自動車用パワートレインを考える

「エンジンはないほうがいい」と訴えてきた筆者だが、環境問題を真剣に開発するならエンジンはなくすことはできないと考える。BEVも有用だがHEVとの共存が不可欠。さらに発電と新燃料という視点が必要である。2035年の姿を考える。(HEVやICEなどが再び注目され始めた今、パワーユニットについて改めて考える。本稿は2023年6月に発売されたMotorFan illustratedからの転載)

TEXT:畑村エンジン研究事務所 代表取締役 畑村耕一(Kouichi HATAMURA)

この20年のパワートレインの変遷

2035年のパワートレインを考えるために、2006年のモーターファン・イラストレーテッド誌創刊から現在までを振り返ってみた。創刊号を開いてみると「ディーゼル新時代」という特集において、メルセデス、BMW、プジョー、トヨタの最新ディーゼルエンジンを紹介した上で、今日では一般的になっている超高圧噴射、DPF、尿素SCRなどが新しい技術として紹介されている。この頃、将来のCO2規制の検討が始まり、欧州メーカーは最新のディーゼルエンジンの導入が活発で、将来のCO2規制対応の最重要技術と見られていた。当時は欧州でディーゼルエンジン車のシェアが50%に迫る勢いで伸びていた。ガソリンエンジンはディーゼルに近い走りを実現した過給ダウンサイジングが一般化していく。

欧州のCO2規制はテールパープエミッション規制であるために電気自動車(BEV)の充電に伴うCO2排出量はゼロカウントだ。それを利用して50kmの充電走行ができるプラグインハイブリッド車(PHEV)のCO2排出量をハイブリッド走行の1/3に算定するという規制が導入された。将来の厳しいCO2規制に対して重量の重い高級車が多い欧州メーカーが得意なディーゼルエンジンを大量に売るというシナリオだ。日本車のハイブリッド車(HEV)に比べて燃費の悪い欧州のPHEVを救うという産業保護政策の一環だ。実際2014年からたくさんのディーゼルとガソリンのPHEVが市場に導入されている。

ところが、2014年にはVWのディーゼルエンジンの排ガス対策の不正が発覚する。これは、厳しい排ガス規制に技術的対応が間に合わなかったVWが、規制対応に必要な排ガス浄化装置を一般走行時は作動停止する不正なソフトを組み込んだもので、一般走行時は規制値に対して10〜30倍のNOxを排出するという悪質な規制逃れである。その当時実用化された車両に搭載できる排ガス測定装置を使って米国の大学がこの不正を明らかにしたものだ。VWほど悪質ではないとしても、他のメーカーでも不正に近いことが行なわれていたことも分かり、ディーゼルエンジンのクリーンイメージは吹き飛んでしまった。一時は欧州の乗用車販売の50%以上を占めていたディーゼルエンジン車は最近では20%を下回りHEVの販売台数を下回っている。

欧州では緑の党に代表される環境団体が強い影響力を持っており、排ガスを出さないBEVは環境に優しいとの短絡した考えから、BEV一辺倒の自動車のCO2排出量削減政策が取られている。BEVに否定的な動きを示すと、環境NGOから猛烈なバッシa州メーカーは、BEVのCO2排出量がゼロカウントされることを利用して、2020年から始まった規制対応のために一斉にBEVに舵を切ったというのが最近の動きだ。その結果、2022年に欧州のBEVのシェアは14%に、PHEVは9%に増加した。

e-Fuelの生成(FIGURE:Shutterstock)

欧州委員会は2021年に“FIT for 55”と呼ぶCO2規制案を出して、2035年からエンジン車(HEV含む)の全面禁止の方針を打ち出した。欧州議会でこの法案が採択されて、エンジン車は欧州販売できなくなることになりかけた土壇場でドイツの反対があり、e-Fuelを使うエンジン車については禁止しないことになった。BEV一辺倒に舵を切った欧州メーカーが利益率や雇用などを考えた現実的な政策としてエンジン車の存続を求めたということだろう。この経緯についてはMFi誌Vol.199(P008-009)で詳しく紹介した。

一方米国でも、バイデン政権の元、急速なBEVの導入政策が実施されている。2030年に販売される新車の50%以上を、BEV/PHEVとFCVにする大統領令が2021年に出された。カリフォルニア州は、2035年以降ガソリン車だけでなくHEVの新車販売も全面的に禁止する新たな規制案を決めた。これにはニューヨーク州ほか10州が追随する。米国ではBEVの燃費換算に発電所の熱効率を100%に仮定した計算式が使われており、ゼロエミッションではないがBEVの燃費(MPG)は実際の2倍以上の値に計算される。さらに、米国製のBEVに限って約100万円の補助金を支給することが発表された。BEVの生産に関してさまざまな制約を設定して、米国メーカー以外のBEVは補助金対象にならないという、露骨な自国自動車産業保護政策だ。

2000年代初頭から、BEVを中心とした世界トップクラスの自動車産業を築くというビジョンを国家戦略として打ち出してきた中国は、いまや年間500万台を超える世界一のBEV生産国になった。ところがBEVの普及が進んだ中国は堅実で、HEVも重視する方向に2020年に政策を変更した。結果、中国メーカーからHEV用の新高効率エンジンが続々と登場してきている(“World Engine Databook 2022-2023”に詳しく紹介)。【図1】

World Engine Databook 2022-2023

図1:世界のBEVの販売台数の増加|2015年頃から中国での販売台数が着実に増加している。図示されていないが、その中でLSEVと呼ぶ超小型BEVが半分を占めている。欧州では2020年に販売台数が急増した。95g/kmというCO2排出規制に適合するため、CO2ゼロカウントのBEVの販売を増やした結果だ。

2035年の自動車用パワートレイン

著者
畑村耕一

1975年、東京工業大学修士課程修了、東洋工業(現マツダ)入社。ディーゼルエンジン、パワートレインの振動騒音解析、ミラーサイクルエンジンの量産化、ガソリンエンジンの排ガス対策開発などを手がける。2001年にマツダを退職、自動車関連企業の技術指導を行いながら2002年に畑村エンジン研究事務所設立。2007年からはNEDOの委託研究、助成事業で千葉大学とHCCIの共同研究を実施した。

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