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【海外技術情報】プロロジウム:5分の充電で300km走行できる世界初の100%シリコン複合アノードバッテリーを発表

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【海外技術情報】プロロジウム:5分の充電で300km走行できる世界初の100%シリコン複合アノードバッテリーを発表

台湾のバッテリーメーカーであるProLogium Technology Co., Ltd(プロロジウム)がパリモーターショー2024にて、100%シリコン複合アノードバッテリーを初公開した。このバッテリーテクノロジーは、TÜV Rheinlandにより認証されており、ドイツのFEVグループとの提携による次世代バッテリーパック開発にも採用されている。プロロジウムがLCBの商業化に向けて、大きな一歩を踏み出した。

プロロジウムは台湾のLCBメーカー

2006年に台北で創業したプロロジウムは、リチウムセラミックバッテリー(LCB)ソリューションを専門としている。900を超える特許を保有しており、桃園市には世界初の大規模固体リチウムセラミックバッテリー工場「Taoke」を開設した。

このギガファクトリーは最大2GWhの生産能力を有しており、2024年中に自動車メーカーにバッテリーの供給を開始する予定である。2024年5月には、フランスはパリ、サクレーに初の海外R&Dセンターを開設。さらに、ダンケルクのギガファクトリープロジェクトが進行しており、2024年後半または2025年初頭に建設が開始され、2027年に量産が開始される予定である。

そんな同社がパリモーターショー2024で、新たなLCBシステムを発表した。創設者兼会長であるヴィンセント・ヤン氏は以下のように述べた。

「当社の次世代バッテリー技術は、EVが抱えている多くの課題を効果的に解決できる。当社の目標は、EVに新たなエネルギーを注入し、市場のゲームチェンジャーとなることだ」

プロロジウムの新しいLCBシステムは、エネルギー密度と充電効率の点で従来のリチウムイオンバッテリーを上回るだけでなく、業界が抱えている課題にも対処する。急速充電機能により充電ステーションの不足を克服し、中古車の残存価値を向上させる。

革新的な100%シリコン複合アノード:業界が抱える障壁を打ち破りイノベーションを推進する

新しい100%シリコン複合アノードは、エネルギー密度と急速充電性能を大幅に向上させる。既に体積エネルギー密度は749Wh/L、重量エネルギー密度は321Wh/kg を達成しているが、それは2024年末までに823 Wh/L、355Wh/kgにまで向上する、とされる。なお、Teslaの4680セルは重量エネルギー密度232.5Wh/kgである。

同社のバッテリーコンセプトは、「小さなバッテリー、大きな未来」であり、急速充電可能な小さなバッテリーシステムを志向している。それにより次世代バッテリー搭載EVへの速やかな移行を目指す。この321Wh/kgのエネルギー密度を実現したバッテリーは、5分間の急速充電で約300kmの走行距離を実現するという。

現在主流のLFPバッテリー(200Wh/kg未満)やNCMバッテリー(200~300Wh/kg)と比較すると、同社製LCBの性能は既に上回っているが、その差は年末までに最大77%まで広がる。TÜV Rheinlandのテストデータによると、同社製バッテリーは5分間で5%から60%まで充電され、8.5分で80%充電に達する。充電時間が大幅に短縮され、車両の走行距離が延び、全体的なパフォーマンスも大幅に向上する。

現行のリチウムイオンバッテリーの総エネルギー容量の66%(83kWhから55kWh)で足りるが、これは車両重量の300kg削減につながる。エネルギー効率と走行距離を向上させ、運転体験を向上させる。このバッテリー容量の削減は、炭素税の引き下げと車両の初期コスト削減に直結する。

5分間の充電で約300kmの走行が可能となるが、これは業界平均の30分を大幅に短縮する。同社は、この超高速充電により充電待ち時間が83.3%短縮され、充電設備の効率と回転率が向上する、と主張している。

さらに同社製バッテリーはモジュール設計により修理が容易であるという。セルのリサイクルが容易になり、メンテナンス費用が削減され、中古EVの再販価値が高まるという。

FEVとの戦略的パートナーシップを発表

この新たなLCBとともに、同社はとFEVとの戦略的パートナーシップを発表した。このFEVとの提携は、同社製バッテリーが実際にEVに採用される道筋を示しており、LCBの商業化が大きく前進したといえる。

FEVの電動パワートレイン担当グローバル副社長のトーマス・ヒュルスホルスト博士は、以下のように述べた。

「2年間にわたる両社の協力により、私達は、規制基準や市場の需要を満たすだけでなく、それを上回るバッテリーパックとコンセプトデザインを生み出した。LCBセルのエネルギー密度は321Wh/kgと大幅に向上しているため、車両のエネルギー貯蔵システムを小型軽量化できる。プロロジウムの先端技術とFEVのエンジニアリングの強みを組み合わせることで、持続可能なモビリティの未来への道を切り開く」

著者
川島礼二郎
テクニカルライター

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系専門書の編集者等を経て独立。フリーランスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに執筆している。

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