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【海外技術情報】MIT:オートバイの未来は水素?MITのEVチームが水素燃料電池を動力とするモーターサイクルを製作

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【海外技術情報】MIT:オートバイの未来は水素?MITのEVチームが水素燃料電池を動力とするモーターサイクルを製作

MIT(マサチューセッツ工科大学)のEVチームはこれまで、革新的なEVを製作して国際的な競技会に参加してきたが今、まったく異なることに挑戦している。それが水素燃料電池システムを搭載したレーシングバイクの開発だ。その狙いは水素利活用の活性化にあるようだ。

オープンソースプラットフォームとして設計

MITのEVチームが開発しているレーシングバイクは2023年10月、初めて行ったテストトラックデモンストレーションに成功した。このレーシングバイク開発の興味深いところは、誰もが様々なコンポーネントを交換してテストできるよう、オープンソースプラットフォームとして設計されている点にある。EVチームがオンラインで無料公開しているプログラムに基づいて、誰もが独自のバージョンを試すことができるようにする。

プロジェクトの先頭に立っているアディティア・メロトラ氏はエネルギーシステムを研究している大学院生であり、いわゆるバイク好きだ。「私は水素燃料電池を搭載したモーターサイクルを着想しました。その後、評価研究を行い、これは実際に機能する可能性があると考えました。そこで実機の構築を決断したのです」と語る。

チームメンバーは、BEVは環境に恩恵をもたらす一方で、航続距離や、リチウム採掘とそれに伴う二酸化炭素排出に問題を抱えている、と述べる。そこでEVチームはICEと同様にすぐに燃料を補給できるクリーンな代替手段として、水素駆動車両に興味を持ったという。チームは12人の学生で構成され、2023年1月からプロトタイプの製作に取り組んでいる。

開発車両はレースや競技会には参加せず、講演会での発表やデモンストレーションに供される予定である。2023年10月、水素アメリカサミットでこのバイクは発表された。また今月ラスベガスで開催されたCES2024では実機を展示した。2024年5月にはオランダで開催される世界水素サミットで発表される予定である。

プロジェクトの狙いは車両開発そのものではなく、インフラ開発につながる可能性のある「小型水素システム」に関する会話を始める機会の創出、であるという。チームはデモンストレーションとオンラインで提供する情報により、「エネルギー業界に影響を与える」ことを期待している。プロジェクトから得られた知見を学術雑誌に論文として掲載することにも取り組んでいる。

水素燃料電池モーターサイクルの開発過程で教科書を作る

実機開発を始めて一年、レーシングバイクは徐々に形になっていった。メロトラ氏によると、プロジェクトは産業界のスポンサーから、燃料電池やシステムの主要コンポーネントについて、寄付を受けた。また、MITエネルギーイニシアチブ、機械工学、電気工学、コンピューターサイエンスといった大学組織からも支援を受けている。

初期のテストはダイナモメーターで行われた。韓国の斗山が燃料電池を提供するまで、車両開発にはバッテリー電源を使用していた。プロトタイプの設計と製作に使用したスペースでありチームの本拠地となったのは、MITのN51号館。ここには各コンポーネントの詳細なテストを行うための設備が整っている。

チームの安全責任者を務めるのは、機械工学を学ぶ4年生のエリザベス・ブレナン氏。電気工学の経験を積むため、2023 年 1 月にチームに参加した。水素燃料電池システムに必要な燃料タンクやコネクターなどについて、安全な取り扱い方法について学んでいる。チームはプロトタイプ車両に市販の電気モーターを使用していたが、現在は一から設計された改良版に取り組んでおり、これにより柔軟性が大幅に向上した、という。

フレームには、スチール製トレリス構造の1999年式ドゥカティ「900SS」のフレームを使用。電気モーター、水素燃料タンク、燃料電池、ドライブトレインをサポートするために、カスタムメイドの部品が搭載されている。チームによると、モーターサイクルはスペースが限られているため、フレーム内にすべてを収めることが課題であった。

プロジェクトの一環としてチームは、水素燃料電池モーターサイクルの設計製造プロセスの各ステップで自分たちが何をしたのか、どのように実行したかを説明した、教科書を開発している。ブレナン氏は「水素の技術開発の多くはシミュレーションで行われるか、まだ試作段階にあります。開発には費用がかかるため、システムを実機でテストするのは難しいからです」と述べた。

チームの目標の1つは、すべてをオープンソース設計として利用できるようにすることであり、このレーシングバイクを教育向けプラットフォームとして提供して、研究者がスペースと資金の制約の両方でアイデアをテストできるようにすること、にある。

メロトラ氏によると、一部の企業が過去に開発したプロトタイプは非効率で高価だった。

「私たちのレーシングバイクは完全にオープンソースであり、厳密に文書化され、テストされ、プラットフォームとしてリリースされた世界初の水素燃料電池モーターサイクルです。私たちのようなレベルで実機を作り、テストして、別の誰かがそれを拡張したり、研究に使用できるレベルにまで文書化した人は他にいないはずです。現時点では、このレーシングバイクは研究用としては手頃な価格ですが、燃料電池は非常に大きく高価な部品ですから、商業生産にはまだ手が届きません」

MITのEVチームはこれまでBEVに焦点を当てていたが、チームメンバーで機械工学科2年生のアニカ・マーシュナー氏は、このプロジェクトは今後も進化していくだろうと語る。「水素エネルギーが道路で使用されるとは、これまであまり想像していませんでしたが、それを可能にする技術は確かに存在します」と述べた。

トヨタとヒュンダイは水素燃料自動車を市販しており、カリフォルニア州、日本、一部ヨーロッパ諸国には水素燃料ステーションが存在している。しかし、例えばアメリカ東海岸の平均的なドライバーにとって、水素を入手することは非常に大きな課題であるという。現時点でのアメリカにおいても、水素自動車にとって最大の課題はインフラなのだ。

著者
川島礼二郎
テクニカルライター

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系専門書の編集者等を経て独立。フリーランスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに執筆している。

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