開く
NEWS

【海外技術情報】テラパワー:ビル・ゲイツ氏が主導するアメリカ初の次世代原子力施設の建設が始まる

公開日:
更新日:
【海外技術情報】テラパワー:ビル・ゲイツ氏が主導するアメリカ初の次世代原子力施設の建設が始まる

ビル・ゲイツ氏が2008年に設立したテラパワーが設計した次世代原子力施設の建設が始まる。ゲイツが「ナトリウム発電所」と呼ぶ次世代原子力施設とは、日本では2018年に廃炉措置計画が認可された「もんじゅ」と同じタイプの、ナトリウムで冷却する原子炉である。

ビル・ゲイツが推進する次世代原子力施設はナトリウム冷却を備える

2023年5月、ビル・ゲイツ氏は自身のNote「Gates Notes」で、アメリカ西部ワイオミング州のケマーラーという町にて、次世代原子力発電所の建設を始める、と発表した。これをゲイツ氏は「ナトリウム発電所」と呼び、2008年に同市が設立したテラパワー社により設計されたこと、また開業は2030年を予定していることを明らかにした。

ゲイツ氏はその記事にて、世界は原子力に賭ける必要があること、つまり世界の増大し続けるエネルギー需要に応えつつ二酸化炭素排出を抑えるには原子力が必要である、と説いている。

一方で、既存の原子力発電所の建設には莫大な費用が掛かること、また人為的なミスにより事故が起きる可能性を、ゲイツ氏は指摘していた。

そして、2024年6月10日、ゲイツ氏はNoteを更新して、ナトリウム発電所の建設が始まることを発表した。これは第4世代のナトリウム冷却小型高速炉「Natrium」実証プロジェクトのもとに行われているもの。

ナトリウム発電所は、テラパワーがGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)と共同で開発する先進炉だ。HALEU燃料を使用する電気出力34.5万kWのナトリウム冷却高速炉(SFR)であり、さらに熔融塩を使ったエネルギー貯蔵システムを併設する。これは自然エネルギーでの発電との統合を目指して装備するもので、電力負荷の変化に追従して柔軟な運転が可能にする。ピーク時には電気出力を50万kWまで増強して5.5時間以上稼働するという。

ナトリウム冷却により原子力発電所の課題はクリアできる、とゲイツ氏は主張する

ご存知のとおり、一般的な原子力発電所の原子炉では、冷却に水を用い、これにより核分裂反応を制御している。冷却に水を用いるにあたっては、二つの課題がある。内燃機関の冷却適度なら水でも十分だが、原子炉の冷却には水では不十分なのだ。水は100℃で熱を吸収できなくなる。また温度が上昇すると圧力も上昇して、配管などの機器に負担を掛ける。こうして、東日本大震災で経験したように、発電所の電源が遮断されるなどして冷却水の循環が不可能になった場合、炉心は熱を出し続けて、最悪の場合は爆発に至る。

水以外で原子炉を冷却できないものか? そこで選ばれたのがナトリウム。液化ナトリウムの沸点は水の8倍以上高い。また、ナトリウムは水のようにポンプで供給する必要がない。ナトリウムは熱くなると上昇し、上昇して冷却される。電源を失った場合でも、ナトリウムはメルトダウンを起こす温度に達することなく熱を吸収し続けることができる、というのが、ゲイツ氏の主張だ。

ナトリウム発電所でゲイツ氏が期待しているのは、安全性だけではない。エネルギー貯蔵システムを備えており、発電量を柔軟に変更できるという。これは原子炉の中ではユニークなもので、太陽光や風力などの変動するエネルギー源を使用する電力網と統合するために不可欠なものである。

ナトリウム発電所がユニークなのは、そのデジタル設計プロセスだという。スーパーコンピューターを活用して、設計をデジタルで何度もテストして、あらゆる災害をシミュレートした。それでもナトリウムは持ちこたえた、とテラパワーは主張している。

テラパワーが建設するのはナトリウム高速原子炉(SFR)であり、「もんじゅ」は高速増殖炉である。「もんじゅ」では温度計の破損によりナトリウムが漏れて火災が発生している。理論のとおりに現場で運用ができるのかは、今後ウォッチして行くことになる。

既存の原子炉のもう一つの課題としてゲイツ氏があげていたコストについては、残念ながらNoteには記載されていない。

著者
川島礼二郎
テクニカルライター

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系専門書の編集者等を経て独立。フリーランスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに執筆している。

川島礼二郎の海外技術情報

PICK UP