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【海外技術情報】バルチラ:世界初の100%水素燃料に対応した大型エンジン発電所を開発・発売

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【海外技術情報】バルチラ:世界初の100%水素燃料に対応した大型エンジン発電所を開発・発売

舶用エンジンやエネルギー関連製品メーカーであるバルチラが、世界初となる100%水素燃料に対応可能な大型エンジン発電所を開発し発売すると発表した。

柔軟な発電ソリューションとして100%水素燃料で稼働するエンジン発電所を開発

フィンランドの首都ヘルシンキに本社を置く舶用エンジン&エネルギー関連製品メーカーであるバルチラが、将来のネットゼロ電力システム実現に資する、世界初となる大規模な100%水素対応エンジン発電所を立ち上げた。

IEAの世界エネルギー展望2023によると、水素は将来の電力システムに不可欠な要素である。2050年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにするには、2030年に17Mtの水素を発電に消費して、これを2050年までに51 Mtにまで引き上げる必要があるという。

再生可能エネルギーの導入は今世紀末までに世界全体で倍増すると見込まれているものの、余剰のクリーン電力を水素ベースのカーボンニュートラル燃料の生産に使用することで、100%再生可能電力システムを実現できる、と考えられている。

これは逆に言えば、再生可能エネルギーの拡大だけでは、世界のネットゼロ目標を達成するには不十分であることを示している。変動する再生可能エネルギー源のバランスをとる必要があるからだ。それにはエンジン発電所のような柔軟な発電ソリューションが必要であり、エンジン発電所は持続可能な燃料で稼働できることが求められる。

そこでバルチラは、100%水素燃料で稼働する、水素対応エンジン発電所を開発した。この新しいエンジン発電所は、既存の天然ガスと25vol%水素混合物で稼働するエンジン発電技術を大きく上回るものであるという。

舶用の「バルチラ 31」エンジンをベースに100%水素燃料に対応させた

ベースとされたのは「バルチラ 31」エンジン。2015年にノルウェーのオスロで開催されたNor-Shipping 2015で世界初公開され、同日から発売された舶用エンジン。世界で最も効率的な4ストロークディーゼルエンジンとしてギネスブックにその名を刻んでおり、現在も同社のカタログには「世界で最も高効率な4ストロークエンジン」のコピーが付されている。

舶用「バルチラ 31」エンジンは、ディーゼル、火花点火ガス、デュアル燃料という3バージョン展開であり、ディーゼルバージョンは、先進的な燃料噴射システムと可変バルブタイミングを搭載しており燃料消費効率はわずか165g/kWhである。ボア×ストロークは310×430mm。8V、10V、12V、14V、16Vという5つのシリンダー構成で利用でき、最大となるV16では最高出力13,142馬力を発揮する。この「バルチラ 31」エンジンを発電用に改造したのが、水素発電所である。

エンジン発電所に改造された「バルチラ 31」エンジンは、水素対応の「31SG-H2」バージョンは天然ガスまたは天然ガスと25%の水素混合燃料で稼働する。100%水素で稼働するようにアップグレードすることも可能である。あらかじめ水素で稼働するように設計された「31H2」も開発されるが、こちらも天然ガスや混合燃料を受け入れ可能である。出力範囲は4.2 ~ 9.8 MW。

バルチラの社長を務めるアンダース・リンドバーグ氏は以下のように述べた。

「風力や太陽光をサポートするために、出力を素早く増減できる柔軟なゼロカーボン発電所がなければ、世界の気候目標を達成することも、電力システムを完全に脱炭素化することもできません。
現実的に考えれば、今後何年も、天然ガスが電力システムの一部となると考えなければなりません。当社製エンジン発電所は、現在でも天然ガスを使用して柔軟性とバランスを提供し、再生可能エネルギーの繁栄を可能にしています。このエンジン発電所は、将来水素が今より容易に利用可能になったとき、水素で稼働するように変換できます。これによりネットゼロへの道のりが将来にわたって保証されます。新たに開発した100%水素対応エンジンは、将来の100%再生可能電力システムを実現するでしょう」

既存の「バルチラ 31」エンジンは100万時間以上の稼働時間を達成しており、既に全世界で1,000 MWを超える設備容量を備えているという。「バルチラ 31」エンジンに基づく新たな100%水素燃料対応エンジン発電所コンセプトは、TÜV SÜD により認証され、品質と安全性への取り組みを実証している。バルチラはこの100%水素燃料対応エンジン発電所を、2025 年に受注を開始して、2026年から出荷する予定であるという。

著者
川島礼二郎
テクニカルライター

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系専門書の編集者等を経て独立。フリーランスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに執筆している。

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