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【海外技術情報】シュタドラー・レール:水素燃料電池旅客列車「FLIRT H2」が最長走行距離のギネス世界記録を達成

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【海外技術情報】シュタドラー・レール:水素燃料電池旅客列車「FLIRT H2」が最長走行距離のギネス世界記録を達成

ヨーロッパ有数の鉄道車両メーカーであるスイスのシュタドラー・レールが、同社製の水素燃料電池旅客列車「FLIRT H2」が最長走行距離のギネス世界記録を達成したと発表した。「FLIRT H2」とは、どのような車両なのだろうか?

燃料電池旅客列車はディーゼル車両を置き換えて移動をクリーンにする

乗用車以外の分野にも、クリーンな輸送に対する社会的要求が強まっている。水素はそれに対する一つの解として開発されている。現在あるガソリンスタンドのように広く水素ステーションを設置することはできないから、水素燃料は商用車に適していると考えられている。

今回は鉄道の話題である。当然のことながら電車=電動車だから、どのように発電するかを横におけば、電車はクリーンだ。だから、鉄道をクリーンにするために目指すのは、ディーゼル車両の代替ということだ。

日本においてもディーゼル車を置き換えるべく、JR東日本がトヨタ自動車の燃料電池技術や日立製作所の鉄道用ハイブリッド技術を活用して、水素燃料電池ハイブリッド電車を開発している。

JR東日本が目指すのは「エネルギーの多様化」であるといい、開発中の水素燃料電池ハイブリッド車両は、その一環である。JR東日本が新たに開発する「FV-E991系」は水素を燃料とする燃料電池と蓄電池を電源とするハイブリッドシステムを搭載しており、世界で初めて70MPaの高圧水素を利用できる燃料電池鉄道車両であるという。

シュタドラー・レールの水素燃料電池旅客列車「FLIRT H2」

最長走行距離のギネス世界記録を達成したと発表したのは、スイスに本社を置くシュタドラー・レール。同社が開発中の水素燃料電池旅客列車「FLIRT H2」は、2022年に開催された交通輸送技術の国際展示会であるイノトランスにおいて公開され、南カリフォルニアのサンバーナーディーノとレッドランズとを結ぶ約14kmのArrow(アロー)という新しい路線で使われることになっている。

「FLIRT H2」は2~4両編成で製造できる1階建ての軽量アルミニウムモデル。従来型車両と同じく、「FLIRT H2」車両は各クライアントと路線ネットワークのニーズに柔軟かつ個別に適合させることが可能である。パンタグラフと主電源変圧器をオプションで利用することも可能だという。

「FLIRT H2」は水素を電気に変換する水素燃料電池を備えた電気複合ユニットを車両の中央部に搭載している。ここで作られた電気は列車への電力供給、リチウムイオン走行用バッテリーの充電、車内のHVACシステムへの電力供給などの機能を果たす。列車の加速と制動は電気エネルギーのみで行い、制動時には運動エネルギーが電池に蓄えられる。

シュタドラー・レールは以下のように主張する。

「グリーン水素は電気分解によって水から生成され、余剰の再生可能電力を化学的に貯蔵することができます。こうして作られたグリーン水素を列車内のタンクに保管して使用することで、充電せずに長距離を移動できるようにしたものです。これにより最先端の水素技術で、線路の短区間および中区間でディーゼル車両をクリーンな車両に置き換えることができるのです」

シュタドラー・レールではこれまで、水素燃料電池と水素貯蔵システムとを最新のFLIRT通勤列車製品ラインに統合するために、多数のソリューションを開発してきた。これらのソリューションは、最初はスイスで、最近ではアメリカ・コロラド州の専用周回路線でテストされている。

このテストは完了が近づいてきたため、シュタドラー・レールは「FLIRT H2」の信頼性と性能を証明すべく、ギネス世界記録審査チームの厳重な監視のもと、給油や充電を行わずに水素列車の航続距離の新記録を樹立する挑戦を行ったという。

世界記録への鉄道旅行は2024年3月20日の夕方に始まった。エンジニアチームは夜と翌日を通して交代で車両の運転を続け、2024年3月22日午後5時23分に実験を成功させた。合計すると、列車は1回のタンク充填で46時間以上、走行距離にして1,741.7マイル(2,803km)を走破した。

著者
川島礼二郎
テクニカルライター

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系専門書の編集者等を経て独立。フリーランスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに執筆している。

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