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【技術情報】クボタ:「水素燃料電池トラクタ」は中大型農建機のカーボンニュートラル実現の解となるか?

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【技術情報】クボタ:「水素燃料電池トラクタ」は中大型農建機のカーボンニュートラル実現の解となるか?

自動車産業以外でも、カーボンニュートラルの実現に向けて、様々な挑戦が行われている。今回は、2024年3月末にクボタが公開した「水素燃料電池トラクタ」を紹介しよう。

クボタは全方位戦略でカーボンニュートラルの実現に向かっている

クボタはカーボンニュートラル実現に向けて、業界に先駆けて小型電動トラクタ・建機を開発。2023年にはヨーロッパの公園整備などで使われる「LXe-261」を市販した。

「LXe-261」は電動トラクタであるが、その用途は農業用ではなく、都市部の公園等での使用を前提に開発されたもの。電動化の課題である連続稼働時間を確保するため、1時間の急速充電で平均3~4時間の連続稼働が可能な大容量バッテリーを搭載していた。

一方でクボタは、水素やバイオ燃料、合成燃料を燃料とするエンジン、それに今回ご紹介する「水素燃料電池トラクタ」の開発も行っている。クボタ自身、自社の方針について「全方位の研究開発を進めている」と説明している。これはトヨタと同じである。

自動車と同じように、農業機械や建機においても、比較的小型な製品は電化を進めやすい。電動の農業機械では稼働時間が課題となるが、小型であれば「LXe-261」のように主に都市部で使われる。都市部であれば再充電も比較的容易であり、製品として成立する。ところが中大型となると、そうはいかない。充電設備から遠く離れた農地や林地・現場では、稼働時間を抱えたままの電動機械を使えるはずがないからだ。

そこでクボタは中大型機械のカーボンニュートラルの実現に向けては、より重量エネルギー密度の高い水素の利用を検討している。

水素燃料電池トラクタは中大型農業機械での使用が前提

今回クボタが発表したのは、NEDOの助成を受けて開発している「水素燃料電池トラクタ」。2021年にNEDOの助成事業「燃料電池の多用途活用実現技術開発」に採択されて始まったもので、「実用化に向けた」実証研究が本格的に進められている。最終目標は、①国内圃場の実作業で燃料電池トラクタの実証試験実施・国内農業への適合性評価完了、②製品化に向けた課題抽出と対策立案である。

実証の期間は2021年8月から2025年3月(2024年度末)。2022年度中に設計を終え、2023年に試作機の製作と評価を実施。ここまでの成果を2023年度の終わりに公開したのだろう。

製作された「水素燃料電池トラクタ」は以下のように発表された。

 全長×全幅×全高:4,200×1,810×3,100(mm)
 最大出力:60馬力のディーゼルエンジン搭載トラクタと同等水準
 燃料:圧縮水素
 燃料電池種類:固体高分子型
 想定する用途:一般の農作業用途全般

パッと見てわかる一般的なトラクターとの違いは、キャビン上部に搭載した水素タンク。これはトヨタ「ミライ」用の転用で3本設置している。バッテリパック(リチウムイオン電池)はキャビン下に搭載されている。

残念ながら筆者は発表会に足を運ぶことができなかったが、当日は水素充填のデモンストレーションが行われた。10分間で約7.8kgの水素を充塡でき、これで4時間程度の走行が可能であるという。

クボタは「水素燃料電池トラクタ」普及に向けた一番の課題として、「水素消費地である農村エリアに、如何にして安く水素を届けるか」をあげている。これを一企業に委ねることには無理があるのだが、クボタは日本における水素普及を目指す団体「水素バリューチェーン推進協議会」に参画している。協議会を通じて他社と協力しながら、実用化を目指している。

著者
川島礼二郎
テクニカルライター

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系専門書の編集者等を経て独立。フリーランスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに執筆している。

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