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【海外技術情報】BASF:生体触媒による生産プロセスの効率を最適化するコンピューター支援モデルをグラーツ大学と共同開発

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【海外技術情報】BASF:生体触媒による生産プロセスの効率を最適化するコンピューター支援モデルをグラーツ大学と共同開発

ドイツのルートヴィッヒスハーフェンに本社を置く総合化学メーカーのBASFは、オーストリア産業バイオテクノロジー研究センター (acib)、オーストリアのグラーツ大学の研究者と共同で、新しい生体触媒製造プロセスを工業生産に迅速に拡大できる新しいコンピューター支援モデルを開発した、と発表した。

化学業界では、生産プロセスにおいて酵素を生体触媒として使用している。総合化学メーカーであるBASFは、ビタミン、香料、化粧品や洗剤の原料といった同社製品の製造に、酵素を使用している。

ところが酵素は非常に敏感である。温度が高すぎると、適切に機能しなくなる。「三次元構造を失い、触媒反応が起こらなくなる」と、BASFの計算タンパク質工学のグローバル責任者であるステファン・シーマイヤー博士は説明する。逆に温度が低すぎても、酵素は機能せず、目的の生成物の生産量が減少してしまう。

生体触媒の活性は、溶媒などの反応媒体に含まれる物質の影響も受ける。酵素が出発物質から大量の最終製品を迅速に生成するには、溶媒が必要である。溶媒がなければ酵素は物質にアクセスして他の物質に変換することができない。ところが、溶媒の濃度や温度が高すぎると、酵素は構造を失い、活性を失う。

生体触媒を用いて目的とする生成物を大量生産するには、反応温度と溶媒濃度とが、最高の活性をもたらす最適点である必要があるのだ。

温度と溶媒濃度の最適な組み合わせを探し出す

これまでは、反応温度と溶媒濃度との最適な組み合わせを決定するために、実験室で多数の実験を行う必要があり、これは煩雑であった。そこでBASF、acib、グラーツ大学の研究者は、従来の生化学モデルの拡張として回帰モデルを開発した。回帰モデルは、収集された科学的データに基づいて生化学反応を分析および予測するために使用する、統計的手法。このモデルにより、従来手法よりも遥かに容易に、反応温度と溶媒濃度との最適な組み合わせを決定できるようになる。

このモデルの利用に必要となるのは、酵素の展開曲線を決定するなど、いくつかの予備的な実験室におけるテストのみである。取得したデータをコンピューターモデルに入力すると、最高の酵素パフォーマンスを実現する反応温度と溶媒濃度との最適な組み合わせが、計算される。

シーマイヤー氏は以下のように述べた。

「単純に聞こえるかもしれないが、生体触媒プロセスの効率を大幅に向上させ、酵素触媒に対する新たな理解をもたらすだろう。この新しい方法により、多様な酵素をより簡単に比較し、その性能を最適化できる。生産プロセスごとに最適な条件を見つけるための労力が大幅に軽減される。研究室での研究開発をより迅速に完了し、生産の拡大をより迅速に開始できるようになる。これによりコストとリソースが大幅に削減され、生体触媒の持続可能性が向上する」

研究成果は2024年6月24日、Nature Communications に掲載された。論文題目は「Solvent concentration at 50% protein unfolding may reform enzyme stability ranking and process window identification」。

著者
川島礼二郎
テクニカルライター

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系専門書の編集者等を経て独立。フリーランスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに執筆している。

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