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【海外技術情報】リージェント:これは船か飛行機か? 80億ドル分を受注した地面効果と水中翼を活用した低コスト沿岸輸送ソリューション

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【海外技術情報】リージェント:これは船か飛行機か? 80億ドル分を受注した地面効果と水中翼を活用した低コスト沿岸輸送ソリューション

飛行機の高速性とフェリーの低運航コストを合わせ持つ、地面効果を活用したモビリティを紹介しよう。滑走路を必要とせず海面で離着陸して、水面から数メートル離れた高さを飛行する。日本のJALやハワイアン航空といった航空会社のほか、日本からはヤマト運輸からも出資金を集めている。こうした出資金の総額は1億ドル近く、受注総額も80億ドルにのぼるという。

地面効果と水中翼を活かした低コストな海上モビリティ

アメリカ・ロードアイランド州ノースキングスタウンに本社を置くスタートアップ企業であるREGENT CRAFT社(以下、リージェント)が開発しているのが、フル電動モビリティ「シーグライダー」だ。社名のREGENTとはRegional Electric Ground Effect Nautical Transport の頭字語である。ウェブサイトには「REGENTの最初の製品は2025 年までに商用乗客を安全に輸送できるようになります」と書かれている。

最初の製品は2人の乗員と乗客12人、次の製品は少なくとも50人を想定している。航続距離は280マイル(448km)だが次世代バッテリー技術により約780km以上にアップグレード可能。最高速度は180マイル/時(288km/h)を誇る。航空機と同程度の高い安全性を有しており、水上飛行機やWIG(地面効果翼機)よりも波や風に対する耐性に優れるとリージェントは主張する。

2022年9月には1/4 スケールのプロトタイプによる初飛行を成功させており、2023年4にはモックアップを公開した。本格的なプロトタイプにより2024年内に有人飛行試験を開始し、2025年内に市販化される予定である。

初号機「Videroy」の概要

最初の製品は「Videroy」だ。船、水中翼船、地上効果飛行の3つのモードのいずれかで海を横断する。「Viceroy」は多用途で使えるモビリティとして設計されている。旅客輸送のほか、物流をになうことも想定されている。また優れた静粛性と驚くべきスピード、それに高い快適性と安全性とを融合させることで観光用途にも使用できる。救急車両や防衛に使うことも想定している。

全長×全幅×全高は57.5×64×15.5フィート(17.5×19.5×4.72m)。バッテリー、モーターの詳細は不明ながら、出力は120kWとされる。公開されたモックアップの画像にはプロペラが12個搭載されているからモーターは12個なのだろう。

モックアップ公開と同時に、バッテリーとモーターの主要ベンダーとしてEP SystemsとMAGicALLを採用したことが発表された。

船体(リージェントは機体のボディを船のようにHullと表記する)は深いV字型だ。これがあらゆる海域での離着陸を可能にする。深いV字型ボディを採用できるのは、水中翼を装備しているからだ。水中翼は着陸後の水上での操船を扱いやすくする。この水中翼が「シーグライダー」とこれまでに存在したWIGとの違いを生み出すという。

難題を抱える「シーグライダー」は離陸できるのか?

リージェントはすでに世界中のさまざまな企業から80億ドル分にもなる注文を受けている。アメリカの島嶼部であり人の往来が激しいハワイでは、The Hawaiʻi Seaglider Initiative (HIS;ハワイ・シーグライダー・イニシアチブ)という地方自治体、ハワイのコミュニティ、民間からなるコンソーシアムを設立して、地域と一体となって社会実装に向けて動きだしている。
ところが驚いたことにこの「シーグライダー」が飛行機なのか船なのか、誰が認証して管理するのかが明確になっていない。リージェントは
「当社製品はアメリカ沿岸警備隊の管轄下で運用される予定です。沿岸警備隊との基本合意は進行中であり、沿岸警備隊(技術標準局)およびFAA(アメリカ連邦航空局新概念イノベーショングループ)と緊密なコミュニケーションを維持しています。シーグライダーの社会実装には、航空当局と海事当局間の協力的なアプローチが鍵となります」としているが、どうなるのだろう?

リージェントは沿岸警備隊により管理されることを期待している。それは比較的安価かつ簡単なプロセスであり、それが「シーグライダー」の経済性を支える源泉となるからだ。ところが「シーグライダー」がFAAの規制管轄下にある、となると、大変な認証手続きが必要とされる。FAAの型式証明、設計機関の証明、製造証明には莫大な費用がかかり、プロジェクト全体が水泡に帰す可能性すらある。
このような状況下でも資金を集めて開発を進め、受注すらしているリージェントの姿勢と、それを許容する投資家。実にアメリカらしいプロジェクトといえよう。今後の動向を見守りたい。

著者
川島礼二郎
テクニカルライター

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系専門書の編集者等を経て独立。フリーランスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに執筆している。

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