【海外技術情報】MAN:画期的な水素燃焼エンジンが農業機械・建設機械の脱炭素化を実現する
VWグループの一員のMANが、オフロード用途向けの持続可能な駆動ソリューションとして、MAN Enginesから水素燃焼エンジン「MAN H4576」を昨年発表した。この新開発された水素燃焼エンジンは、実績のある「MAN D3876」ディーゼルエンジンをベースに開発されたものであり、16.8Lもの排気量から368kWもの最高出力を発揮するという。
「MAN H4576」は農業機械や建設機械の脱炭素化の、幅広い可能性を開くために開発された。MANはVWであり、脱炭素化としてBEVのバスを市販して業界をリードしているが、水素燃焼エンジンも捨てていないのだ。MANエンジンの責任者、ミヒャエル・リンナー氏は以下のように述べた。
「水素燃焼エンジンは、オフロードドライブの脱炭素化を加速する有望なアプローチです。市場の準備が整い次第、MANエンジンは顧客に対してオーダーメイドのソリューションを提供する予定です」
「MAN H4576」のベースは、確立された「MAN D3876」ディーゼルエンジン。これは、クランクケース、クランクシャフト、コンロッドなどの基本コンポーネントのほか、オイルポンプ、オイルパン、フィルターなどの冷却回路やオイル回路の80%を新型水素エンジンと共通化している。2つのエンジン寸法はほぼ同一だから、機械メーカーは既存の車両に新たな水素燃焼エンジンを容易に統合できる。
重要な変更点は、ストロークは176 mmのままだが、ボアが138mmから145mmへと増加したこと。「MAN D3876」ディーゼルエンジンは排気量15.3Lだが、「MAN H4576」の排気量は16.8Lへと増加する。これは水素燃焼エンジンの出力密度が低いことを考慮して、目標出力を達成するために行われた変更。また、水素供給と燃焼のためのコンポーネント、エンジン制御システム、排ガス制御システムには、大幅な変更が加えられた。
「MAN H4576」の水素供給は、新しい低圧システムで構成され、インジェクターに必要な水素を供給する。正確な圧力制御により水素需要を調整することで効率的な燃焼を確保して、エンジンにとって最適な燃料を供給する。水素インジェクターは最大40barの噴射圧力による低圧直接噴射で使用される。これは燃焼室に直接取り付けられている。特別に調整された点火システムは、確実かつ制御された火花点火を行う。特別に設計されたエンジン制御ユニットは水素と空気の供給制御により噴射と点火を制御して、安全で効率的な燃焼を可能にするために、各種パラメータを継続的に調整する。
ピストン直径が145mm に拡大され排気量が16.8Lに拡大されたことにより、最高出力368kWを達成。排気量12.4Lの「MAN D2676」ディーゼルエンジンと同等の性能を獲得した。新しいターボチャージャーは最適なダイナミクスを保証し、燃料消費量の削減に役立つ。
また、「MAN H4576」は二元燃料エンジンとして設計されており、従来のディーゼルまたはHVOなどの代替燃料と組み合わせて使用できる。
窒素酸化物(NOx)は水素を燃焼させることで最終的に排ガスに含まれる可能性がある唯一の関連排出物である。MANエンジンはNOxをほぼゼロにすため、高度な燃焼プロセスと確立された排ガス後処理システムを採用。これによりEU Stage Vとゼロエミッション車(ZEV)の排出基準を満たしている。
「MAN H4576」の開発においてMANエンジンは「水素エンジン技術における豊富な経験と、幅広い用途向けのガスエンジン分野のノウハウを活用した」と説明している。MANは1996年に開催された「ハノーバーメッセ」で水素燃料バスを発表した。この「SL 202」と呼ばれる都市バスは天然ガスエンジンをベースに開発された。この、早い段階から始めていた水素燃焼エンジンによる知見を活用した、ということなのだろう。
「MAN H4576」水素燃焼エンジンは既存のディーゼルエンジンをベースにしていることから、迅速に市場に投入できる状態にあり、すでに納品先メーカーでの準備も進んでいる。建設機械メーカーのKässbohrer Off-Road Vehiclesが2023年に発表した「PistenBully 800」には、あらかじめ「MAN H4576」用のスペースを考慮して設計されているという。