【海外技術情報】レンジエナジー:トレーラーにバッテリーとeアクスルを搭載することで燃料消費量を36%削減する
長距離輸送に供する大型トラックにおいては、カーボンニュートラル実現に向けて、BEV化だけでなく燃料電池の搭載、水素燃焼エンジンの使用など、様々なチャレンジが行われている。一方で、トラクターの燃費(または電費)の飛躍的向上に寄与するうえ、比較的容易に社会実装できそうな技術を、アメリカのレンジエナジーが開発している。トレーラー側にバッテリーとeアクスルを搭載して、電動補助動力を搭載しようという試みだ。
レンジエナジーにはヤマハモーターベンチャーズなどが投資
その技術を開発しているのは、アメリカ・カリフォルニア州マウンテンビューに本拠地を置くレンジエナジーという新興企業。2021年に設立されると、翌年にはヤマハモーターベンチャーズを含む数社から、シード資金として800万ドルを調達した。
創業者でありCEOを務めるAli Javidan氏は、初期のテスラのほか、Google、Zooxで開発チームを率いた経験があり、実践的なエンジニアである。テスラではモデルSに初期開発から関与した。
Javidan氏をはじめとするレンジエナジーが何をしようとしているかは、秀逸なキャッチコピーにより即座に理解できる。「Bringing trailers to life.」=「トレーラーに命を吹き込む」ことである。大型トラック(トラクター)がけん引するトレーラーにバッテリーとeアクスルを搭載して、その駆動力より商用輸送車両の電動化を目指している。このパワートレーラーは、ディーゼルエンジン搭載車にもEVにも簡単に接続できる。
ディーゼル燃料消費量を36%削減する可能性がある
公式サイトによると、パワートレーラー「RA01」の全長は約16m(53フィート)。トレーラー下部に容量200kWhのバッテリーを搭載する。これを駆動するのは最大14,000Nmのトルクを発揮する800Vのeアクスルで最大出力は350kW。充電能力はAC充電19kW(10.5時間)、DC急速充電350kW(45分)である。
トレーラーを駆動すること自体は難しくなさそうだが、それには優れた制御技術が必要である。それに資するのが、レンジエナジーが「スマートキングピン」と呼ぶ機能パーツ。一般的にトラクターには「カプラー」が、トレーラーには「キングピン」が搭載されており、これがかみ合わされてトラクターとトレーラーとは連結される。レンジエナジーでは、この「キングピン」にセンサーを搭載することでトレーラーに掛かる荷重(加減速)を検知。それに応じてトレーラーのeアクスルを制御する。
2023年11月17日付けプレスリリースによると、このトレーラーに搭載した補助動力の効果により、最大36.9パーセントの燃料効率向上を実現する可能がある、という。
トレーラーに電動補助動力を搭載するメリットは他にもある。まず、電動車両と組み合わされれば、航続距離が航続距離は約160マイル以上伸びる可能性がある。また回生ブレーキを活用できるから、下り坂を走行する際にはバッテリーを充電できるうえブレーキの摩耗を減らすことができる。
面白いのは「スマートキングピン」の効果により、駐車してトラクターと分離した後のトレーラーを手で移動できる「ショッピングカートモード」だ。トレーラーが前方に転倒するのを防ぐための補助輪を搭載しておけば、作業者が手でトレーラーを押すだけで、eアクスルの力を借りて容易に「ショッピングカート」のようにトレーラーを移動できる。この様子は動画で確認できる。TRU(輸送用冷凍ユニット)の冷却にも、バッテリーに蓄えたエネルギーを使用できるという。
CEOのAli Javidan氏は、2023年12月8日のPodcastで「2024年にパイロット顧客とともに商業運転を開始し、2027~2028年には完全な商業利用を開始する予定である」と述べた。今後の動向に注目したい。