【海外技術情報】ミシュラン:産業規模でバイオエタノールからブタジエンを製造する初の実証機が稼働
ミシュランは2024年1月、ボルドー近郊の施設にて、フランスの国立研究機関であるIFPEN(IFP Energies nouvelles;フランス石油・新エネルギー研究所)と石油化学企業アクセンズと共同で、フランス初となる産業規模のバイオベースブタジエン製造プラントの実証機を稼働させた。ブタジエン系ゴムは自動車用タイヤの主要原材料の一つだが、石油由来以外の代替原料の利用を目指して各社が研究開発を進めており、社会実装に向けてミシュランが一歩リードした形となる。実証機は3者が参加する「BioButterflyプロジェクト」の枠組みで構築されたもので、ADEME(フランス環境エネルギー管理庁)の支援を受けている。
自動車用タイヤ原料の石油由来ブタジエンを天然由来に代替する
一般的な自動車タイヤの原材料は天然ゴムが6割を占めるが、残り4割の合成ゴムのうち3割が石油由来原料ブタジエン系ゴムである。この石油由来ブタジエン系ゴムを天然由来原料により代替しようと模索する動きがある。
ブリヂストンは、バイオマスを原料としてバイオエタノールを経由してブタジエンを合成することに成功している。さらに、このバイオマス由来ブタジエンを用いて最先端ゴム合成技術を導入して、高機能合成ゴムのサンプルを試作した。
横浜ゴムは2021年3月、バイオマスから効率的にブタジエンを生成できる世界初の新技術を開発した、と発表した。2021年8月には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、産業技術総合研究所(産総研)、先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)との共同研究により、バイオエタノールからブタジエンを「大量に合成」して、従来品と同等の性能を持つ自動車用タイヤの試作に成功している。
TOYO TIREは2023年5月、富山大学との共同研究にて、「二酸化炭素」から高収率でブタジエンへ変換する触媒を開発して、ブタジエンゴムの合成に成功した。
今回のミシュラン等の目的は、バイオマス由来のエタノールからブタジエンを開発して、さらに商業化すること、にある。
バイオベースのブタジエン分野の発展加速に向けた大きな一歩
ブタジエンはポリマー製造における重要な化学中間体だ。ブタジエンの40%はタイヤ市場向けエラストマー製造に使用され、残りの60%は自動車用途、織物、建築用のワニス、樹脂、ABSプラスチック、ナイロン製造に使用されている。
ミシュラン等が稼働させた産業規模の実証機は2023年7月に立ち上げられた後、バイオベースのブタジエン製造プロセスの各段階を検証してきた。それによると年間20~30トンの生産能力を持つ設備の技術的および経済的実行可能性が証明されている。これは急速な産業発展を可能にする規模である。この技術の商業化は、大量の再生可能ブタジエンを確保するうえで重要なステップとなる。
ミシュランと共同で実証設備を立ち上げたIFPEN(IFP Energies nouvelles)とはフランスの国立研究機関であり、エネルギー、交通、環境の分野における研究を担っている。アクセンスはIFPENが開発した石油精製・石油化学技術ライセンスや触媒の販売を担う民間企業でありIFPENが100%出資している。
現在までに「BioButterflyプロジェクト」への総投資額は8,000万ユーロを超えており、そのうちの1,470万ユーロは未来投資プログラムに基づくADEMEによる支援である。