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【海外技術情報】フラウンホーファー研究所:車輪に載ったスーパーコンピューター;自動車アーキテクチャにおけるシステムの変化

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【海外技術情報】フラウンホーファー研究所:車輪に載ったスーパーコンピューター;自動車アーキテクチャにおけるシステムの変化

現代の自動車は電子機器を満載している。すべてのコンピューターと支援システムとを管理する作業は極めて複雑であり、それを実現するためのハーネスにより車両の重量が増加してしまう。この問題を解決するための共同研究プロジェクト「CeCaS」において、フラウンホーファーの研究者はすべての電子コンポーネントを1つのコンピュータープラットフォームから集中管理するシステムアーキテクチャに取り組んでいる。

自動車を「車輪のついたスーパーコンピューター」にする

複雑に相互接続された多数のコンピューターシステムではなく、中央のスーパーコンピューティングプラットフォームにより制御されるコンポーネントを備えた自動車を想像してみよう。それであれば整備工場に行かずともWi-Fi経由で簡単にアップデートをインストールでき、必要に応じて新しい機能を統合できる。これがフラウンホーファー研究所と自動車業界のパートナーが実施している共同研究プロジェクト「CeCaS(Central Car Server — Supercomputing for Automotive)」のビジョンである。

自動化されたコネクテッドカーの高い要求を満たすべく、自動車で使用されるコンピューターアーキテクチャを根本から再構築すること、を目的とする。このアイデアは自動車を車輪のついたスーパーコンピューターに変え、コンポーネントがリアルタイムで相互に通信できるようにすることを目指す。このプロジェクトはドイツ連邦政府の支援を受けている。

ドイツにおいても、自動車の新たなコンピューターアーキテクチャ構築が急務となっている。自動化やコネクテッド化などのトレンドにより、自動車が使用するデータ量は飛躍的に増加している。そのため自動車メーカー各社はテクノロジーを標準化し、中央コンピューターを介してすべてのコンポーネントを管理し、さらにシステム間通信を最適化して、コンピューティング能力をリアルタイムで提供できるソリューションの構築を目指している。

これが実現すれば、高度に自動化されたコネクテッド車両の構築が容易になる。中核となる要素は、リアルタイムで動作する極めて信頼性の高いイーサネットバックボーンであるという。

車用リアルタイムイーサネットとは何か?

ドレスデンを拠点とするフラウンホーファーの研究者は、プロジェクトで時間に敏感なネットワーキング(Time-sensitive Network:TSN)に焦点を当てている。このテクノロジーを利用できるようにするために、チームはIPコアと呼ばれる半導体用機能ブロックの開発を進めている。その目的はイーサネットベースのネットワークテクノロジーにリアルタイム機能を装備して、あらゆる状況において堅牢かつ非常に信頼性の高いものにすること、である。プロジェクトの責任者をつとめるFrank Deicke博士は以下のように説明した。

「TSNは関連するすべての制御デバイスに一貫したシステム時間を使用すること、プロセスキューを管理するためのスマートシステムを使用すること、それとタスクの優先順位を付けること、といった手段により、リアルタイム機能と高い信頼性との両立を実現します」

これは例えば、ブレーキシステムに送信されるコマンドには、当然のことながらエアコンに送信されるコマンドよりも高い優先順位が割り当てられることを意味する。車両が毎秒ごとに生成するデータは膨大だが、その大部分はリアルタイムで処理する必要がある。それをCeCaSシステムはそれを可能にすることを目指している。イーサネットはプロジェクトに他の利点ももたらすという。

「イーサネットの利点は、非常に柔軟性が高く、拡張性が高いことにもあります。このテクノロジーをIPコアと組み合わせると、さまざまなサイズ、性能カテゴリー、機能の車両での使用に簡単に適応できるのです」

ケーブルを削減して軽量化に寄与する

CeCaSで開発されているようなアーキテクチャモデルの利点は他にもある。整備工場に車を持ち込まずに自動車を更新できるようになる。ラップトップまたはデスクトップPCと同様に、車はWi-Fi経由で更新される。必要に応じて新しい機能を統合することもできる。また、中央制御システムは細いケーブルハーネスで充分だから、使用される材料は減り、コストが削減され、車両全体が大幅に軽量化される。

著者
川島礼二郎
テクニカルライター

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系専門書の編集者等を経て独立。フリーランスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに執筆している。

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