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【海外技術情報】MIT(マサチューセッツ工科大学):脱水素を車載することで長距離トラック輸送の排出ガス問題に対処する

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【海外技術情報】MIT(マサチューセッツ工科大学):脱水素を車載することで長距離トラック輸送の排出ガス問題に対処する
(画像提供:グリーングループ)

長距離トラック輸送においては水素の活用が有力視されている。MITでも『MIT気候と持続可能性コンソーシアム』を設置して、トラックのパワートレイン設計の変革に取り組んでいるという。
TEXT:川島礼二郎(Reijiro KAWASHIMA)

商品輸送は、世界的に分散したサプライチェーンの基礎を形成している。長距離トラック輸送は、この複雑なシステムの中心的かつ重要な連結装置である。気候変動目標を達成するには、ディーゼルパワートレインに代わる脱炭素ソリューションを開発する必要があるが、トラック輸送の不可欠かつ広範な役割を考慮すると、新たな代替ソリューションは経済的に実行可能であり、実用的である必要がある。

ディーゼルの代替としての水素ベースの選択肢は有望な脱炭素化戦略となる可能性を秘めているが、水素にはそれ自体の配送と燃料補給に関して大きな制限がある。これらの障害が、水素の魅力的な脱炭素化の可能性と相まって、ウィリアムH.グリーン氏が率いるMIT研究者チームの動機である。化学工学を専門とするホイト・ホッテル教授は、液体有機水素キャリア (LOHC)を使用して水素を輸送・貯蔵する、費用対効果の高い方法を研究した。同研究チームはLOHCが水素をトラックに配送するだけでなく、車上に水素を貯蔵できるようにする技術を開発中である。

この研究結果は『Perspective on Decarbonizing Long-Haul Trucks Using Onboard Dehydrogenation of Liquid Organic Hydrogen Carriers(液体有機水素キャリアの車載脱水素を使用した長距離トラックの脱炭素化に関する展望)』として、アメリカ化学会の論文誌であるEnergy and Fuelsに掲載された。グリーン氏が率いる研究チームには、大学院生のサヤンディープ・ビスワス氏とカリアナ・モレノ・セイダー氏が所属している。彼らの研究はMIT気候と持続可能性コンソーシアム(MCSC)のシード・アワード・プログラムとマス・ワークスに支援されており、MCSCが行っている交通モードの重点分野研究と結びついている。

「脱水素を車載する」というアプローチ

(画像提供:グリーングループ)

現在、既存の小売燃料流通インフラ内で機能するLOHCは、水素ガスを給油所に配送するために使用されており、そこで水素ガスは圧縮されて、水素燃料電池または水素燃焼エンジンを搭載したトラックに配送されている。これについてグリーン氏は以下のように述べた。

「現在のアプローチでは、小売ステーションでの水素の放出と圧縮により、大幅なエネルギー損失が発生します。これに対処するため、私達の取り組みでは車載脱水素機能を備えたLOHC 駆動トラックを使用した、より効率的なアプリケーションを模索しています」

この設計を実装するため、研究チームはトラックのパワートレインを改造して、エンジン排気からの廃熱を利用して脱水素反応を行い、LOHCから車載の水素を放出できるようにすることを目指している。

脱水素化プロセスは、燃料貯蔵タンクからLOHCを継続的に受け取る高温反応器内で行われる。反応器から放出された水素は、残留するLOHCを除去するために分離器を通過した後、エンジンに供給される。一部の水素は反応器を加熱するためのバーナーに送られ、エンジンの排気ガスによる反応器の加熱が促進される。

水素の欠点を認識して対処する研究

研究チームの論文は、トラック輸送部門の脱炭素化を目的とした現在の水素利用には欠点があることを強調している。既存のオプションは小売水素の配送コストが高いため、燃水素料は高価なままである。最近MITのフェロー・フォー・サステナビリティのメンバーに選出された、研究チーム・メンバーのビスワス氏は以下のように説明した。

「私達は水素を使用できる実行可能を代替オプションとして提示します。水素はLOHCを通じて使用すると、拡張性や燃料補給時間の短縮など、長距離輸送に明らかなメリットが生まれます。また配送と給油を改善してコストを削減できる、大きな可能性があるのです。
水素の利用は世界中で利用可能な選択肢であり、私の出身国であるコロンビアにだって拡大できる可能性があります。既存インフラと相乗効果を発揮するために、多額の先行投資をする必要もありません。世界的に見て、適用可能性は非常に高いのです」

もう一人の研究チーム・メンバーであるモレノ・セイダー氏はマス・ワークスのフェローであり、MATLABツールを使用してこの作業のためのモデルとシミュレーションを開発した。長距離トラック輸送を含む輸送モードの脱炭素化には、さまざまな業界からの専門知識と視点が必要である。

この研究チームによる画期的な研究成果は、インパクトフェローのポスドク研究員であるダニカ・マクドネル氏が率いるMCSCの輸送モードの重点分野内で支援されている。MCSCが支援する他のプロジェクトでは、たとえば、電動化されたトラック輸送車両の物流の最適化、アンモニアを利用した輸送による大気や気候への影響に焦点を当てている。MCSCは研究チームとさまざまな分野の業界パートナーを連携させることで、これらのプロジェクトを支援し、拡大している。さらにMCSCでは、チーム間の定期的なディスカッションを通じて、プロジェクト間での共有学習を促進。これにより輸送の脱炭素化に向けた多分野アプローチを追求している。

著者
川島礼二郎
テクニカルライター

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系専門書の編集者等を経て独立。フリーランスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに執筆している。

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