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【海外技術情報】スカニア:未来を切り開く太陽光発電トラックプロジェクトを発表

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【海外技術情報】スカニア:未来を切り開く太陽光発電トラックプロジェクトを発表

電化、水素、ハイブリッドなど、多面的に脱水素を目指しているスカニアが、この度、太陽光発電トラック開発プロジェクトを発表した。何故この最先端テクノロジーが将来の交通システムに大きな可能性を秘めているのかを、同開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーを務めるエリック・ファルクグリム氏の説明を聞いてみよう。
TEXT:川島礼二郎(Reijiro KAWASHIMA)

スカニアは将来の電化輸送ソリューションを開発しており、既に多くの新しい技術アイデアを生み出している。その1つが、ハイブリッド電気自動車に取り付けられたトレーラーが搭載する太陽電池により電気を生成される、太陽光発電トラックを開発するプロジェクトだ。完成したプロトタイプは、スカニアの長期輸送顧客でありパートナーであるエルンスト・エクスプレス社に引き渡され、スウェーデンの道路で実際の運用条件でテストされる。スカニアの研究・イノベーション部門テクノロジーリーダーであり、太陽光発電システムのプロジェクトマネージャーを務めるエリック・ファルクグリム氏は以下のように説明する。

「3 年以上前にアイデアを思い付いたとき、出発点はバッテリー式電気トラックに使用されるリチウムイオン電池でした。そのテクノロジーに取り組んでいる間に、バッテリーがより軽く、より安価になり、よりエネルギー密度が高くなってきました。
私達は『太陽電池も同様の傾向を示したら、どうなるだろうか』と自問しました。セルの効率が2倍になった場合、コストは半分になるか大幅に下がります。このテクノロジーを開発することに意味があるのかどうかを知りたかったのです」

2019年末から2020年初にかけて行われた6カ月の事前調査により、プロジェクトチームはこのテクノロジーを今検討することに意味がある、と結論付けた。スウェーデンの国家イノベーション庁から資金提供を受けて、2021年1月には本格的なプロジェクトが立ち上がり、ウプサラ大学により太陽電池開発が行われた。

スウェーデンは冬季には太陽の光が降り注ぐことがないにもかかわらず、このプロジェクトはスウェーデンで進められた。

「特にスウェーデンで、太陽光発電トラックが本当に成立するのか、確認したかったのです。南ヨーロッパ、オーストラリア、北アフリカなどでは、明らかに太陽の光がはるかに多い。日照が少なく暗い条件のスウェーデンで機能するならば、プロジェクトの広範な有効性が裏付けられるのです」

太陽光発電トラックの基本構成

プロジェクトを推進したのは、小規模で緊密なチームである。ソフトウェア開発者、ハードウェア開発者、プロジェクト管理者で構成されており、19ヵ月の開発プロセスに携わる人数はわずか12人。エリックは説明する。

「スタートアップに似ています。私たちは自分達が何をしたいのか、かなり早い段階から分かっていました。作業は単純。ソーラーパネルをトラックに載せ、電気システムに接続するだけです。しかし、これはクレイジーなアイデアとも言えます。電力の伝達を安全に処理したり、障害に対処するために、多くの新しいハードウェアとソフトウェアのシステム化と開発が伴うからです。
通常のシステム(100kWhのエネルギーを貯蔵)を備えたプラグインハイブリッドトラック/トラクターに、トラックのパワーバンクとして機能する200kWhのエネルギーを貯蔵できる追加のバッテリーを備えたトレーラーが接続されます。このパワーバンクとして機能する追加のバッテリーは、ソーラーパネルボックスに接続されています」

安全性への配慮とプロジェクトの将来性

「一般的に太陽電池は、乗り物に載せて街中を移動するために作られていない、ということに留意する必要があります。普通は20~30年間、家の屋根に静止した状態で設置されるように設計されています。ソーラーパネルを車両に取り付ける際には、安全性の課題に対処する必要がありました。
技術的な観点から考えると複雑な問題ですが、私達は世界中で何百、何千もの顧客に販売されるものを制作する本格的なプロジェクトである、というプレッシャーは感じませんでした。このプロジェクトは、この太陽光発電トラックというソリューションが理にかなっているかを確認する研究プロジェクトだからです。そしてこれまでのところ、私達チームは理にかなっていると信じています。エルンスト・エクスプレス社の協力を得られたことを嬉しく思います。同社もこれが技術的な問題が発生する可能性をともなう試験であり、それを修正する必要があることを知っています」

トラック・トレーラーの太陽電池技術のテストとは別に、エネルギー業界にとっての潜在的なメリットも強調した。実際にこのプロジェクトには、スウェーデンのエネルギー会社であるDalakraftの支援を受けている。

「この太陽光発電トラックは、エネルギー業界に影響を与える可能性があります。ソリューションを拡張すれば、何千台もの車両が送電網に接続される可能性があるため、送電網との間での電力の売買に影響を及ぼす可能性があるのです。
エネルギー供給と輸送業界が共に成長する、という可能性があると思います。真の共生関係です。自分で電気を生産し、自分で運転できるという、まったく新しい環境が生まれる可能性があるのです」

この太陽光発電トラックの商用利用は数年先になるだろうが、エリックはエルンスト・エクスプレス社へのプロトタイプの引き渡しの実現と、太陽電池技術の長期的な見通しに、興奮を隠せない様子だ。

「私達が保有しているデータによれば、ソーラーパネルは充分なエネルギーを取得しており、脱炭素輸送に関して言えば、それは全体的なパズルの一部となる可能性があります。最初に確認する必要があるのは、『太陽光発電トラックに意味があるのか?』ということでしたが、私達の答えは、『はい、私達が現在行っている規模で取り組むに値します』となります」

著者
川島礼二郎
テクニカルライター

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系専門書の編集者等を経て独立。フリーランスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに執筆している。

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