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【海外技術情報】AVL:排気量2Lで410馬力の水素燃焼エンジンプロトタイプがテストベッドで性能を証明

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【海外技術情報】AVL:排気量2Lで410馬力の水素燃焼エンジンプロトタイプがテストベッドで性能を証明

AVLのモータースポーツ部門(AVL RACETECH)は、モータースポーツのゼロエミッションの未来に向けたマイルストーンを自ら祝福しているという。AVL RACETECH によって製造された排気量2Lの水素燃焼ターボエンジンのプロトタイプがテストベッドでテストされ、シミュレーションで計算された最高値が確認されたのだ。比出力密度はリッターあたり約205馬力(150kW/L1)であり、このエンジンはモータースポーツで高い競争力を発揮するという。この高出力エンジンの実現には、燃焼を緩和するインテリジェントな PFI水噴射が関与しているという。
TEXT:川島礼二郎(Reijiro KAWASHIMA)

自動車用の水素燃焼エンジンは、古くから研究開発が続けられてきた。現在は水素のクリーンな燃料としての側面が注目されているが、そもそも水素はガソリンよりも燃焼特性が優れている。水素燃料は極めて広い可燃範囲を有しており、燃焼速度が速く、自己着火温度も高い。一方で水素燃焼エンジンは、性能が出しにくいこと、また希薄燃焼下で使われるものと言われてきた。AVL RACETECHは、これらを先入観であるとし、それを払拭することを目指した。

AVL初となる自社名を冠したレーシングエンジンを公開

AVL RACETECHは、過去数か月にわたりハンガリーのHUMDA 研究所と協力して、革新的なH₂レーシングエンジンを協同開発した。AVL RACETECH にとって、それは独自の名前を持つ最初のレースエンジンである。

AVLがプロトタイプのテストを行ったのは、グラーツ本社に設置された水素エンジン用に改造されたテストベッド。テストの結果、最高出力410hp(301.7 kW)@6,500 rpmを達成した。3,000~4,000 rpmで500Nmのトルクを発生する。これは平均圧力32barに相当する。

高性能の実現には、エンジンに損傷を与える可能性のある、望ましくない早期点火を回避するための、吸気中に水を噴射するインテリジェントPFI水噴射が寄与している。空燃比(ラムダ)は1(理論燃焼)であり、リーン領域ではない。希薄燃焼よりも少ない空気需要に対応するため、エンジンには特別に設計されたウェイストゲートターボチャージャーが搭載された。

次のステップは車両に搭載したテスト

開発の次のマイルストーンは、エンジンをレーストラックで車両に搭載してテストすること。プロジェクトリーダーであり、開発マネージャーを務めるポール・カパス氏は以下のように述べている。

「2022年末に、理論燃焼とPFI水噴射を備えた2Lの水素燃焼レーシングエンジンの開発に取り組むことを初めて発表しました。目標はトルク500Nm、出力300kW(比出力150kW/L)でした。私たちはテストベッドでこれらの数値を達成したことを検証しました。できた。誇りに思います」

またモータースポーツ部門ディレクターを務めるエレン・ローア氏は以下のように語った。

「当社の水素燃焼レーシングエンジンによって達成された結果は、このテクノロジーを競争力のあるパッケージとして提供できることを裏付けています。AVL RACETECH の目標は、モータースポーツを持続可能な未来に導くこと。当社の名前で開発された最初のレーシングエンジンである高性能水素燃焼エンジンにより、私たちはこのビジョンの達成にまた一歩近づきました」

著者
川島礼二郎
テクニカルライター

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系専門書の編集者等を経て独立。フリーランスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに執筆している。

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