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【海外技術情報】ルノー:巨大ドライビングシミュレーターを建設

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【海外技術情報】ルノー:巨大ドライビングシミュレーターを建設

ルノーでは過去25年間にわたって車両設計にドライビングシミュレーターを活用してきたが、 2023年春に稼働した新しい”ROADS”シミュレーターのプロジェクトは異次元の規模を誇る。次世代自動車会社の時代に乗り出すには、最高の加速性と没入型機能を備えた最先端のシミュレーターが必要である。その建設は困難を極めたという。

ルノーは“ROADS”シミュレーター建設にあたり、収納する建屋の建設に関する課題に直面した。最初の課題は、建屋の建設とシミュレーターの開発を、同時にかつタイトなスケジュールで実行することであった。”ROADS”を収納する建屋の建設には、土木工学の特殊性、設置性、それとメンテナンス上の制約、という要素が関わるため、正確な仕様に従って建設する必要があった。

強固かつ広大なフロアを確保する

課題の1つは、シミュレーターを設置するための、コンクリートスラブを敷設すること。シミュレーターが期待されるパフォーマンスを提供できるように、基板を十分に固くする必要があった。ルノーグループエンジニアリングのデジタルエクセレンスセンターで”ROADS”プロジェクトリーダーを務めるセルジュ・ディオプ氏は、技術的解決策について以下のように語った。

「厚さ1.5mものこの構造物は、30メートル下の固い基板上に張り巡らされた55本ものコンクリート製ピラー(幅1m)ネットワーク上に置かれた。これによりスラブは、シミュレーターが動的力(最大1G範囲の横方向および縦方向の加速度、それと9m/sの変位速度)を及ぼすことができる、約1400m2 (35×39m) の超安定領域を形成します」

安定した電源供給を確保する

シミュレーターが仕様のとおりに動作するには、安定した電源が不可欠である。ディオプ氏は、この巨大な電気機器(キャビネット長60m)を設置することで生じる課題についても説明した。

「当初、パネルは土木工学の制約に従って変圧器と空調システムの近くに設置しましたが、電源ケーブルの長さの関係で再検討しました。その結果、電力ケーブルは高さ6mを超える大きなガラス窓を通過する必要がありました」

“ROADS”シミュレーターにはエネルギー消費量の削減に役立つ革新的なエネルギー回収システムも装備されている。BEVで使用されているのと同じ原理で、減速およびブレーキ中に失われたエネルギーの一部が回収され、スーパーキャパシタに蓄えられる。保存されたエネルギーは後でシミュレーターの加速フェーズで使用できる。

輸送の問題

建屋が建設できたら、シミュレーターを設置する。”ROAD”シミュレーターは巨大だから、運搬も困難だった。シミュレーターは3つのコンポーネントで構成されている。内側の直径が7mの没入型ドーム、シミュレーターが置かれる6つのシリンダーで構成されるヘキサポッド、そしてレールを支え横方向と縦方向の移動を可能にするガントリーである。

ガントリーは鋼製であり、シミュレーターの最大の部品だ。長さ28m、幅4m、重量は12tある。この巨大なパーツはオランダ製であり、航路ではわずか15km/hで進み、陸路と合わせて533 kmを5日かけて輸送され、真夜中に到着した。

パズルのラストピースであるカーボンファイバー製ドームは、単体で建屋内に持ち込むことさえ不可能だった。そのため別々のピースとして到着した。そして6枚の花びら、床、屋根がシミュレーションルームで組み立てられ、ボルトで締められた。

既に”ROADS”は稼働しているが、その成功物語はまだ始まったばかりである。

著者
川島礼二郎
テクニカルライター

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系専門書の編集者等を経て独立。フリーランスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに執筆している。

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