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【海外技術情報】ドゥカティ:新開発の単気筒ロードエンジンは新たなベンチマークを打ち立てる

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【海外技術情報】ドゥカティ:新開発の単気筒ロードエンジンは新たなベンチマークを打ち立てる

古くからのバイク好きならば、ドゥカティの伝説的な単気筒レーサー『スーパーモノ 550』をご存知のことと思う。ドゥカティ伝統のL型2気筒エンジンのリアバンクを切り取った単気筒エンジンを搭載した市販レーサーであり、当時ヨーロッパ選手権として開催された『ヨーロピアン・スーパーモノ・カップ』をターゲットとして市販された。あれから30年が経った今、ドゥカティがロード用単気筒エンジンを開発した。『スーパークアドロ モノ』と呼ばれる新エンジンの排気量は659cc。デスモドロミックシステムが装備されている。そのパフォーマンスは、このカテゴリーの新しいベンチマークとしての地位を確立する、とドゥカティは主張している。

1990年代の単気筒エンジン搭載の市販レーサー「スーパーモノ 550」

近年ようやくベーシックなロードモデルとして単気筒エンジン搭載車が再登場しているが、1990年代半ばから暫くの間、単気筒エンジン搭載車はスポーツモデルやレーサーとしても注目されていた。

その中心地はヨーロッパ。アラン・カスカート氏が設立した単気筒レーサーによる『ヨーロピアン・スーパーモノ・カップ』が開催されていた。2002年以降、毎年連続して行われる5~6回の国際ダブルヘッダーレースで構成されるこのレースのために、ドゥカティは市販レーサー「スーパーモノ 550」を投入した。

『スーパーモノ 550』の製造台数はわずか67台。水冷DOHC L型2気筒エンジンのリアバンクを取り除いた550cc単気筒エンジンを搭載していた。ボア×ストローク=100×70mm(ボアストローク比1.43)、最高出力は75 hp(55.6kW)@10,000rpm。『スーパーモノ 550』が搭載していた単気筒エンジンの面白いところは、Lツインの腰下を基本的に流用した点。後シリンダー側にもコンロッドを装着して、これをバランサーとして活用していた。オリジンがLツインであることを生かして、低コストで高回転型単気筒エンジンを開発したのだった。

車両重量については諸説あるが、ドゥカティ公式は「カーボンファイバーやマグネシウム合金などの複合材料の多用により、重量はわずか 100kgであり、最高速度は220km/hに達した」と説明している。

『スーパークアドロ モノ』はスーパーモト用エンジン

今回ドゥカティが開発した単気筒エンジンは、『スーパークアドロ モト』という名称が与えられた。ドゥカティ初の単気筒ロードゴーイング・スーパーモタード=市販車『ハイパーモタード698モノ』に搭載される。

各コンポーネントは、洗練された素材とソリューションを選択して設計されているが、ベースとされたのは『パニガーレ 1299』が搭載する1285ccの『スーパークアドロ』。これはドゥカティの公道走行可能な2気筒に採用されている最新技術が投入されていることを示す。具体的には、『スーパークアドロ モノ』には『スーパークアドロ』エンジンが採用しているボア116 mmピストン、燃焼室形状、46.8mm径チタン吸気バルブ、38.2 mm径スチール製排気バルブ、デスモドロミックシステムを継承している。

『スーパークアドロ』という名称はボアとストロークの極端な比率に由来している。極端なショートストロークにより、レーシングエンジンに必要とされるような回転速度に達することができる。『スーパークアドロ モノ』のボア×ストロークは116×62.4。ボアストローク比は1.86。116mmというビッグボアにより、大口径バルブの採用が可能になりパフォーマンスが向上するが、これを可能にするのがデスモドロミックシステムである。ドゥカティがMotoGPレーサーでも使用しているこのシステムは、バルブスプリングでは克服できない課題をクリアして、極端なバルブリフトを可能にする。デスモドロミックシステムは、エンジンの高回転速度への到達とパフォーマンス向上に貢献している。

これらのソリューションのおかげで『スーパークアドロ モノ』の最高出力は57kW(77.5hp) @9,750 rpmに、テルミニョーニ製レーシングエキゾーストを使用すると63kW(84.5hp)1@9,500rpmに達する。最大トルクは63Nm(6.4kgm)@8,050rpmである。リミッターは10,250rpmに設定されている。

さらに『スーパークアドロ モノ』は非常に長いメンテナンス間隔をも実現しており、これはカテゴリーにおけるベンチマークとなるはずだ。オイル交換は1万5,000kmごと、バルブクリアランス点検は3万kmごとに設定されている。そのうえヨーロッパにおいては、A2ライセンス所有者向けに最高出力を制限したバージョンも用意される。

パフォーマンスと軽量化を実現する技術と洗練された素材

ボア116mmのピストンは量産型単気筒エンジンとしては絶対的な記録である(ちなみにKTM『690 SMC R』エンジンは排気量692.7ccでボア×ストローク=105×80mm)。『パニガーレ V4 R』用ピストンのようなダブル・リブを備えた「ボックス イン ボックス」レイアウトを特徴としている。摩擦を抑えるという究極の目的のためにスラスト面を減らし、剛性と抵抗を組み合わせるダブルトラスベースを備えている。同じ理由により、ピストンピンにはダイヤモンドライクカーボン(DLC)表面コーティングが施されている。圧縮比は 13.1:1。

前述のとおり、質量および慣性を低減する直径46.8mmの大径チタニウム製インテーク・バルブと、スーパーバイクレーサーの2気筒エンジンで使用している直径38.2mmのスチール製エグゾーストバルブを継承している。

デスモセディチMotoGPエンジンと同じく、デスモドロミックシステムのロッカーアームにもDLC表面コーティングが施されており、これが摩擦を軽減し、疲労に対する耐性を高める。今さらながらだが、デスモドロミックシステムとは機械的にバルブを開閉する仕組みのこと。これによりスプリング式バルブ駆動システムの限界を克服し、大径バルブ+高エンジン回転域でも高精度なバルブリフト管理が可能となる。

燃料供給は直径62mmの楕円形セクションのスロットルボディが司る。アンダースロットルインジェクターは必要に応じて3つのパワーモード(高、中、低)を提供するライドバイワイヤシステムにより制御される。

クランクケースはシリンダーバレルの周りにウォータージャケットを統合しており、アルミニウム製。肉厚は薄く、重量と冷却の点でメリットを提供する。これによりヘッドをクランクケースに直接固定することも可能になり、エンジンをコンパクト化した。クラッチカバー、オルタネーターカバー、ヘッドカバーはマグネシウム合金鋳造品。高い機械抵抗を保証しながらエンジンの重量を最小限に抑えている。

クランクシャフトは非対称。重量を抑えるために特別なメインベアリングに取り付けられる。バランスについては、ギアにより駆動される2つのカウンターシャフト(フロント1つとリア1つ)により保証される。カウンターシャフトはウォーターポンプとオイルポンプも制御する。クランクシャフト側面に配置された2本のカウンターシャフトのレイアウトにより、一次慣性力のバランスを完全に保つ。これによりエンジンは90度Vツインに匹敵する振動レベルを維持しながら高速で動作することができる。

『スーパークアドロ モノ』の潤滑を司るのは2つのポンプ。1つはエンジンの効率的な潤滑を保証する送出ポンプで、もう1つはコネクティングロッドコンパートメントに配置され、オルタネーターとクラッチカバーのサイドコンパートメントからオイルを取り出してオイルを削減する、回収ポンプである。このポンプはブローバイ回路に配置されたバルブとともに、レーシングエンジンのようにクランクシャフトコンパートメントを減圧し、可動部品の抵抗を軽減し、あらゆる使用条件下でオイルを効果的に回収する。

トランスミッションは『パニガーレ V4』の知見をいかしたレーシングレシオを備えた6速ギアボックスを採用。最初のギアは低速コーナーでの使用を可能にするために長く、利用可能な最大の推力を活用できる。クラッチはプログレッシブインターロック油圧制御を備えたオイルバス内に配置された。特にレバー負荷が軽減されており、コーナー進入時のパワースライドを容易にするエンジンブレーキ管理のモジュール性を高め、直感的なブレーキ動作を提供する。

Superquadro Monoのデータ
659cc縦型単気筒エンジン
DOHC4バルブ・デスモドロミックバルブ駆動
ボア×ストローク:116×62.4mm
圧縮比: 13.1:1
最高出力:57kW / 9,750rpm (レーシングエキゾースト使用時は84.5hp / 9,500rpm)
最大トルク:63Nm (6.4kgm)@8,050rpm(レーシングエグゾースト使用時は6.8kgm)
アルミ製シリンダーバレル
ユーロ 5+ 対応
46.8mmチタン製吸気バルブ、38.2mmスチール製排気バルブ
非対称クランクシャフト
ウォーターポンプとオイルポンプの制御機能を備えたダブルバランスカウンターシャフト
吐出ポンプと回収ポンプによるセミドライサンプ潤滑
62mm楕円形スロットルボディ
Ducati Quick Shift (DQS) Up & Down を装着できる6速ギアボックス

著者
川島礼二郎
テクニカルライター

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系専門書の編集者等を経て独立。フリーランスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに執筆している。

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