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新クルマの教室:ホンダNSX NA1型(4)エンジン編C32B型|自動車設計者 X 福野礼一郎 [座談] 過去日本車の反省と再検証 

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新クルマの教室:ホンダNSX NA1型(4)エンジン編C32B型|自動車設計者 X 福野礼一郎 [座談] 過去日本車の反省と再検証 
ホンダNSX用3.2ℓC32B型エンジン

本稿は本職の自動車設計者と一緒に過去旧車・過去名車を再検証する座談記事です。決して「過去の旧車をとりあげて現在の技術を背景に上から目線でけなす」などという意図のものではありません。根底にある意識は「反省」です。設計者が匿名なのは各意見に対する読者の皆様の予断を廃し、講師ご自身も誰にも忖度せず自社製品でも他社製品でも褒めるものは褒める、指摘するものは指摘できる、その自由度の確保のためです。よろしくお願いいたします。
(このコンテンツは著者の希望でTOPPERの「総合人気ランキング」には反映されません)

座談出席者

自動車設計者
 国内自動車メーカーA社OB
 元車両開発責任者

シャシ設計者
 国内自動車メーカーB社OB
 元車両開発部署所属

エンジン設計者
 国内自動車メーカーC社勤務
 エンジン設計部署所属

ホンダNSX用エンジン
⬛︎ C30AB型:水冷90°V型6気筒ベルト駆動DOHC4弁(カム切り替え機構付き) ボア×ストローク:90.0mm×78.0mm 総排気量:2977cc  圧縮比:10.2  最高出力:5速MT車 280PS/7300rpm 最大トルク30.0kgm/5400rpm 4速AT車 260PS/6800rpm 最大トルク:30.0kgm/5400rpm (net表記) 5速MTギヤ比:①3.071 ②1.952 ③1.400 ④1.033 ⑤0.771 最終減速比:4.062 4速ATギヤ比:①2.611 ②1.466 ③1.025 ④0.777 最終減速比4.066
⬛︎ C32B型:水冷90°V型6気筒ベルト駆動DOHC4弁(カム切り替え機構付き) ボア×ストローク:93.0mm×78.0mm 総排気量:3179cc  圧縮比:10.2  最高出力:5速MT車 280PS/7300rpm 最大トルク31.0kgm/5300rpm (net表記) 6速MTギヤ比:①3.066 ②1.956 ③1.428 ④1.125 ⑤0.914 ⑥0.717 最終減速比4.062 4速ATギヤ比:①2.611 ②1.466 ③1.025 ④0.648 最終減速比:4.428

(本文文字量8200字) *通常は雑誌1ページで2000〜2500字

ー 皆様こんにちは。ホンダNSXの4回目です。

ー 前回は発売時に搭載していたC30AB型3ℓエンジンについて座談しましたが、今回は3.2ℓエンジンを中心にエンジニアの皆さんと座談していきたいと思います。毎回同様、資料として初代NSXのLPL(ラージ・プロジェクト・リーダー)を務められた上原 繁さんの著書「ホンダNSX(三樹書房刊)」を参考にさせていただいております。ホンダの企業サイトもご覧になってみてください。

(https://global.honda/jp/pressroom/products/auto/nsx/nsx_1990-09-13/)

参考文献:三木書房刊 上原 繁著「ホンダNSX 特別限定版―ホンダ初のミッドシップ・スポーツカー開発史」

空前の受注と「甘口対策」のタイプR開発(1992年11月27日発売)

ー 1990年9月にセンセーショナルに登場したホンダNSXは、バブル景気の真っ只中という状況の追い風に乗って、800.3万円という価格にもかかわらず人気沸騰。1990年11月5日に行われたMFRT(モーターファン・ロードテスト)の座談会では「『日産25台/年産6000台』という生産計画のうち国内割当2000台/年という見込みに対し、発売1ヶ月間の国内受注台数は約7000台」だったということです。年齢層は30代と40代を合わせて全体の6割だが20代も16~17%、ボディカラーは約半数が赤、続いてブラック、そしてシルバーという傾向だったそうです。当時は輸入車ではソリッドブラックの外装色がだんだん増えていましたが、黒=高級車の色というのがまだ常識だった日本車では、NSXのソリッドブラックの設定は新鮮でした。自動車評論家の方も何人かNSXを購入されましたが、海外経験の長い山口京一さんがブラック外装にオフホワイトの本革内装というアメリカ的なカラーリングを選んでおられて「さすが」と思いました。

ー 単純計算すれば7000台目に予約した人の納車は3年半後ということになってしまうわけですが、91年の年明けには早くもアメリカから逆輸入車が上陸してプレミア価格で販売された記憶があります。その後も高級輸入車やスーパーカーなどを扱っていた中古車業者がこぞってNSXの逆輸入をやってました。アキュラ・エンブレムをつけた左ハンドルのNSXは、レクサス・エンブレムのLS400とともにバブルの東京の夜の盛場ではお馴染みの存在でした。

ー 上原さんの著書によると、こうした人気の一方で「評論家からは甘口だという声が多く上がった」ということです。「甘口」の意味がよくわかりませんが、当時の自動車評論家の中には「アシが固ければいいアシだ」という原始的な評価軸を持っていた人もまだ少し存在していたので、乗り心地がよくバランスの取れたサスセッティングを「物足りない」と評したのかもしれません。ちなみに私は「甘口」などとはまったく思いませんでした。

エンジン設計者 「甘口」と言ったのはサーキットでレースをやってスポーティカーの優劣を競ってたレーサーやレーサー評論家でしょう(笑)。NSXはエンジンがNAということもあって、サーキットで競争すると広報チューンでブースト上げたR32のGT-R、3代目スープラ、三菱GTOなどに敵わなかった。でも黒沢 元さんは「ベストモータリング」の競争でも絶対NSXの悪口は言わなかったですね。ご自分でセッティングしたからでしょう。

ー 「ベストモータリング」の影響もあってか、NSXを購入したオーナーさんからも「サーキット走行できるクルマが欲しい」という要望がかなりあったようです。スポーツカーがどんどん高性能になってきて、公道じゃ思い切り踏めないので「市販車でサーキットを走る」という、いまに続く方向性がこのころから出てきたんですね。

ー とは言えエンジンについてはすぐに改良はできないので、上原さんらはすぐにできる性能アップ策として「軽量化」を採用します。これが1992年11月27日に発売した「NSX タイプR」です。

1992年11月27日「NSX タイプR」
著者
福野礼一郎
自動車評論家

東京都生まれ。自動車評論家。自動車の特質を慣例や風評に頼らず、材質や構造から冷静に分析し論評。自動車に限らない機械に対する旺盛な知識欲が緻密な取材を呼び、積み重ねてきた経験と相乗し、独自の世界を築くに至っている。著書は『クルマはかくして作られる』シリーズ(二玄社、カーグラフィック)、『スポーツカー論』『人とものの讃歌』(三栄)など多数。

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