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新クルマの教室:トヨタ・エスティマ 初代TCR10型(1) コンセプト編|自動車設計者 X 福野礼一郎 [座談] 過去日本車の反省と再検証 

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新クルマの教室:トヨタ・エスティマ 初代TCR10型(1) コンセプト編|自動車設計者 X 福野礼一郎 [座談] 過去日本車の反省と再検証 
初代エスティマTCR10型

本稿は本職の自動車設計者と一緒に過去旧車・過去名車を再検証する座談記事です。決して「過去の旧車をとりあげて現在の技術を背景に上から目線でけなす」などという意図のものではありません。根底にある意識は「反省」です。設計者が匿名なのは各意見に対する読者の皆様の予断を廃し、講師ご自身も誰にも忖度せず自社製品でも他社製品でも褒めるものは褒める、指摘するものは指摘できる、その自由度の確保のためです。よろしくお願いいたします。
(このコンテンツは著者の希望でTOPPERの「総合人気ランキング」には反映されません)

座談出席者

自動車設計者
 国内自動車メーカーA社OB
 元車両開発責任者

シャシ設計者
 国内自動車メーカーB社OB
 元車両開発部署所属

エンジン設計者
 国内自動車メーカーC社勤務
 エンジン設計部署所属

トヨタ エスティマ 2WD(1990年5月12日発表・発売 初代TCR10型)
⬛︎ 全長×全幅×全高:4750×1800×1780mm ホイルベース:2860mm トレッド:1560mm/1550mm カタログ車重:4速AT 1770kg 燃料タンク容量:75ℓ 最小回転半径:5.7m(MFRTによる実測ウォールtoウォール値:6.3m) MFRTテスト時の装着タイヤ:ブリヂストン SF-321 215/65-15(空気圧指定2.3kgf/c㎡)
⬛︎ エンジン:2TZ-FE型 水冷直列4気筒DOHC(各気筒4弁)総排気量:2438cc 電子制御燃料噴射装置 最高出力:135PS/5000rpm 最大トルク:21.0kgm/4000rpm
 2TZ-FZE型(1994年8月追加)水冷直列4気筒DOHC(各気筒4弁)スーパーチャージャー 総排気量:2438cc 最高出力:160PS/5000rpm 最大トルク:26.3kgm/3600rpm (net表記)
⬛︎ 4速ATギヤ比:①2.452 ②1.452 ③1.000 ④0.730 最終減速比:4.300 エンジン1000rpmあたり速度(4速AT車計算値):①11.3km/h ②19.1km/h ③27.7km/h ④38.1km/h
⬛︎ MFRT(*注)カタログ車重:1770kg 試験時車両重量:2114.0kg(前軸1025.5kg/後軸1088.5kg、前後重量配分48.5%:51.5%)
⬛︎ MFRTによる実測駆動輪出力:107.6PS
⬛︎ MFRTによる実測性能:0-100km/h 12.78秒 0-400m 18.73秒  最高速度:未計測
⬛︎ MFRTによる車内騒音計測値:40km/h時55.5dB/A、60km/h時58.5dB/A、100km/h時65.0dB/A
⬛︎ 公称空気抵抗係数:Cd=0.35 MFRTによる全面投影面積写真計測値:2.81㎡
⬛︎ 発表当時の販売価格(1990年5月発売時):296.5万円
⬛︎ 生産工場:トヨタ車体 富士松工場 販売:トヨタ・カローラ店


エスティマ ルシーダ/エスティマ エミーナ(1992年1月13日発表・発売 初代XR10型)
⬛︎ 全長×全幅×全高:4690×1690×1780mm ホイルベース:2860mm トレッド1560mm/1550mm カタログ車重:4速AT 1670kg 燃料タンク容量:75ℓ 最小回転半径:5.7m MFRTテスト時の装着タイヤ:ブリヂストン SF-321 215/65-15(空気圧指定2.3kgf/c㎡)
⬛︎ エンジン:2TZ-FE型 最高出力:135PS/5000rpm 最大トルク:21.0kgm/4000rpm
 3C-T型 水冷直列4気筒OHCディーゼルターボ 総排気量:2184cc 最高出力:100PS/4200rpm 最大トルク:22.0kgm/2600rpm
⬛︎ 生産工場:トヨタ車体 富士松工場 販売:トヨタ・カローラ店

⬛︎ エスティマ+エスティマ・ルシーダ/エミーナ合計国内登録台数:77万5143台(115ヶ月平均生登録台数約6740台/月) US仕様(「Previa」)販売台数:17万1026台(96ヶ月平均販売台数1781台:ただし発売初年度1990年は5万2099台販売=4341台/月)

(*注)「MFRTによる~」とあるのは1990年10月23~25日に雑誌「モーターファン」の「モーターファンロードテスト(=MFRT)」という連載記事のために、自動車技術会とモーターファン編集部によって日本自動車研究所の施設において計測したデータ




筆者より文字量について:長文です。本文文字量はおよそ14300字。雑誌は通常1ページあたり2000~2500字+写真数点ですから、写真を含めてだいたい8~10ページ分くらいのボリュームがあります。のんびりお読みください。

エスティマ(1990年5月発売)の概要

ー 皆様こんにちは。トヨタ自動車が1990年5月12日に発売、1999年12月まで9年7ヶ月間販売したしたミニバンである初代TCR10型「エスティマ」および、1992年1月に追加発売した5ナンバー仕様のXR10型エスティマ・ルシーダ/エスティマ・エミーナを取り上げたいと思います。前回のNSXは開発のチーフエンジニアだった上原 繁さんの回想録である書籍の内容を元に当時の事実関係をご紹介しましたが、今回はトヨタ自動車の設計OBの方に連絡を取って少しお話を伺うことができましたので、その内容も参考にさせていただきます。またTOPPERを運営している株式会社三栄が当時出版した「ニューモデル速報 第87弾 エスティマのすべて」、雑誌「モーターファン」1991年2月号掲載の「モーターファンロードテスト(=MFRT)」、そしてメーカー発行の新型車解説書なども参考にしています。

ー 初代エスティマの基本設計の最大の特徴は、75°横倒しレイアウトという特異な設計の2TZ-FE型2.4ℓDOHC4弁エンジン(135PS/21.0kgm)を新規開発、「エンジン全高440mm」というその低い姿勢を生かして前席直下のフロア下に搭載、北米市場などで当時ミニバンの居住性の特徴として喧伝されていた「座席間の隙間を通ってビジネスジェット機のように前席から後席まで歩いて移動できること(「ウォークスルー性」)をミドシップレイアウトで実現したという点でした。

75°横倒しにした2TZ-FE型2.4ℓDOHC4弁エンジン

ー 当時の国産1BOX車の主流はトラックから派生したキャブオーバー・スタイルでしたが、これに比べるとステアリング軸の角度が寝てドライビングポジションが乗用車に近くできること、また欧米ミニバンで主流だったFR縦置き/FF横置きレイアウトに比べてフロントノーズが短く視界や取り回し性が向上すること、これがアンダーフロアのミドシップレイアウトを採用したパッケージの最大のメリットでした。

初代エスティマのシャシ。ホイールベースの中央部に75°横倒しエンジンと変速機(4WDでは+トランスファー)で構成したパワーユニットを搭載、車両前方にはエンジンからシャフトで駆動する補機類をレイアウトした。このドライブトレーンをフラットなフロアを持つ3列シートのユニボックスタイプのモノコックと組み合わせた
著者
福野礼一郎
自動車評論家

東京都生まれ。自動車評論家。自動車の特質を慣例や風評に頼らず、材質や構造から冷静に分析し論評。自動車に限らない機械に対する旺盛な知識欲が緻密な取材を呼び、積み重ねてきた経験と相乗し、独自の世界を築くに至っている。著書は『クルマはかくして作られる』シリーズ(二玄社、カーグラフィック)、『スポーツカー論』『人とものの讃歌』(三栄)など多数。

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