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提案の主は日本ではなく、意外にも欧州だった|「CVT+電気モーター」は「あり」か?

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提案の主は日本ではなく、意外にも欧州だった|「CVT+電気モーター」は「あり」か?
市場ごとの走行環境の差はこんなにある

CVTとはまったく縁のない欧州から、新しいCVT提案が出てきた
電気モーターとCVTの組み合わせによるBEV(バッテリー電気自動車)のエネルギー効率向上策である
CVTには見向きもしなかった欧州で、なぜCVTが注目され始めたのだろうか……

TEXT:牧野茂雄(Shigeo MAKINO)
FIGURE:IHS Markit/国土交通省/Shigeo MAKINO

 低回転域のトルクが厚く、低〜中域での過渡トルクに余裕のあるエンジンにCVTを組み合わせれば、違った世界が開ける。
 本誌が10年前にCVTを特集した際、取材で話を伺った日本のエンジニアの方々はこう言った。欧州のエンジニア諸氏は「燃費のいい運転領域が広いエンジンならCVTは要らない」と言った。日本は当時、エンジンと電気モーターをきめ細かく強調させるフルHEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)、小型から中型までのFF車にマッチングできるステップAT、それと軽自動車(世界的に言えばAセグメント)からアッパーCセグメントまでをカバーできる多彩なCVT群をすでに持っていた。欧州はMT量産設備を活用できるDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)と、依然としてMTが多かった。

 しかし、その欧州からCVT+電気モーターという使い方が提案された。提案の主は独・ボッシュや独・シェフラーである。ともにCVT関連の部品を扱っているが、欧州での動きはこれだけにとどまらない。「いつでもCVTを設計できるよう基礎研究はやっている」と語るエンジニアリング会社もある。CVTに対してまったく無関心かと思われた欧州からのCVT提案は、ある意味で青天の霹靂である。

 なぜいま、CVTを提案してきたのか。発表されている論文を読むと「電気モーターを効率よく使うための手段」という目的があった。シームレス無段変速というCVTの特徴を生かし、電気モーターの高効率ゾーンを使い続けるという目的だ。また、本誌がつねにコンタクトを持っている欧州のエンジニアリング会社に訊くと「意外とCVTが『使える』道具になってきたから、提案は増えるだろう」と言う。論文発表以外にもそうした動きがあるそうだ。
 思いもよらぬ欧州からの反撃。これはCVTの逆襲ではないか。そう感じた我々は特集を組むことにした。もう一度、CVTを掘り下げる意味があるはずだ。

 その前に、ひとつ検証しておきたい。なぜ欧州はCVTを選択しなかったのか。
 上のグラフは、2000年代初頭に実際の路上で計測された「日常使われる加速度」と、その速度分布である。いろいろな計測方法があるが、一般的なのは路上で片っ端から追尾する方法だ。ターゲットを決め、真後ろに着き、そのクルマと同じように走り、加減速データを取る。ある程度の距離を追跡したらターゲットを変え、同じことを繰り返す。元データは点の分布だったが、それを面積で示すタイプに筆者が変換したところ、このようなアウトラインになった。点が複数重なっていても「ひとつ」に勘定し、全体の傾向として表した。

世界市場での変速機シェア|このグラフは調査・技術コンサルティング会社である英国のIHSマークイットが2018年に行なった変速機の将来予測である。2025年時点でもMTが最大勢力であり、ステップATは多段化の傾向を見せるという予測だった、そのなかでCVTは「日本を中心としたアジア圏」で一定数がコンスタントに販売されるものの「シェアとしては横ばい〜微増の傾向」だった。いまだに欧州では、ステップATは「老人のための装備」という見方がある。そしてCVTは「日本車特有の装備」である。

 日本とアメリカは似ているが、アメリカのほうが全体の90パーセンタイルが含まれる赤いラインは日本よりも上だ。つまり加速Gの平均が高い。日米ともに2ペダル(クラッチペダルのない自動変速機)車が圧倒的に多いことが発進時に高いGを発生させている要因である。ドイツでは低速域こそ日米より穏やかな加速が多いが、60km/h以上では逆に日米より加速Gが高い。そして使用速度域はまるで違う。使用される加速G領域はギヤ段一定でエンジントルクの増減によって車速を変える運転を反映して比較的穏やかである。

 こうしたデータは交通実態を表すのと同時に変速機の段数、ギヤ段の間のステップ比などのスペックを決めるときのデータベースとして活用されている。アメリカはステップATで、日本はステップATとCVTで、このグラフのような加速パターンに制御を合わせてきた。欧州は0.2G付近の加速Gと高い日常速度域をMTのギヤ比と最終減速比に投影してきた。

JC08モードのポイント|2008年に導入されたJC08モードは、シャシーダイナモに固定した試験車を1204秒間擬似走行させ、走行距離は8172m、到達最高速度81.6km/h、平均車速24.4km/h。試験時間全体の29.6%に当たる357秒間をアイドリングに当てている点は日本の交通事情を如実に物語る。

 いっぽう、このページのグラフは日本のJC08モード試験である。現在はWLTC(ワールドハーモナイズド・ライトビークル・テスト・サイクル)に変わっているが、このモードを策定するに当たっては数万kmの走行データを取り、その中から代表的な都市交通のパターンを抽出した。加速度は緩いが微妙な速度変化があり、1サイクル1204秒の試験中に許される速度逸脱は±2.0km/h以下、逸脱1回当たりの許容時間は1.0秒以下、1サイクルでの積算逸脱時間は2.0行以下である。

 ちなみにJC08モード策定作業時の2004年には、CVT車のシェアは約20%、ステップAT車は76%、MT車は4%だった。JC08導入以降にCVTが増加するが、その理由はこのグラフの複雑な試験パターンと、秒ごとに指定された速度からの逸脱±2.0km/hおよびその逸脱時間積算2.0秒という施行規則を利用した無段変速制御を確立した結果でもある。たしかに、日本の道路での使用速度域と加速GにはCVTが向いているかもしれない。同時に、エンジンごとの燃料費率良好な回転域に持って行きやすい変速機だという理由もある。

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