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「エネルギー効率だけを考える電動化はしない」マイルドハイブリッドからBEVまで電動車こそAWD|スバルの電動化戦略を振り返る

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「エネルギー効率だけを考える電動化はしない」マイルドハイブリッドからBEVまで電動車こそAWD|スバルの電動化戦略を振り返る
BEVプロトタイプ発表|2021年11月にプロトタイプが発表されたソルテラは、トヨタと共同開発したBEV。具体的なスペックは公表されていないが、アメリカでは「スバルファンがポジティブに受け入れてくれた」ようだ。北米でのスバルはプレミアムブランドであり、社会的責任がある。

各国・各地域で燃費/CO2の規制が厳しくなってきた現在、電動化は必須である。スバルも例外ではないが「エネルギー効率だけを追いかける電動化にはしない」と、担当エンジニア諸氏は言う。(「BEVこそ正義」かのような風潮から「マルチパスウェイ」に世界的な風向きが変化した今、2022年1月発行のMotor Fan illustratedを振り返る。情報は全て当時のもの。)

TEXT:牧野茂雄(Shigeo MAKINO)
FIGURE:SUBARU/MFi/萬澤琴美(Kotomi MANZAWA)

BEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル)ありき、ではない。電動化は点ではなく面で広く構える——スバルで電動化、いわゆるxEV(何らかの電動駆動機構を持ったクルマ)開発を担当する技術者諸氏はこう言う。目標は2030年の段階で販売車両の40%以上をxEVにすること。そして2050年に向けWell to Wheel でCO2を90%以上削減することだ。

ポイントはWell とWheelである。和訳すれば「油井から車輪まで」だ。単純に走行段階でのCO2排出を削減すればいいということではない。車両の製造からエネルギーの製造・輸送・貯蔵といったプロセスも含めてのCO2低減である。そのための選択肢は、「絞り込む」のではなく「広く」である。当然、ICE(内燃エンジン)も含まれる。世の中の変化を読みながら、最適な組み合わせのxEVラインアップ構築をねらう。

その理由は、国・地域による規制の違いだ。規制達成手段として、どのような電動化技術をどの地域で利用するか。これを考えるうえでの指標はひとつではなく、アプローチもさまざまである。規制に合わせて最適なパワーユニットを展開する段階では、技術的に絞り込まない。これがスバルの考え方だ。

スバルが電動車両の研究を始めたのは1980年代後半である。まだ鉛酸電池とNi-Cd(ニッケルカドミウム)電池しかなかった時代だ。その後、LiB(リチウムイオン電池)を使えるようになり、出力密度(瞬間にどれくらいのエネルギーを取り出せるか)と電池のエネルギー密度(一定の出力をどれくらいの時間にわたって維持できるか)が上がったものの、BEVにすると車両価格が高くなりすぎ、HEVでは原価と動力性能のバランス(燃費の取り分)が目標に至らず、発売には至らなかった。

スバル初の市販xEVは、2013年の「XVハイブリッド」だった。当時の背景をスバル技術陣はこう語る。

「2013年は出力10kWの電動モーターとNi-MH(ニッケル水素電池)の組み合わせだった。LiBも検討したが、信頼性と供給面からNi-MHを選んだ。ねらった性能は『水平対向エンジンの良さを活かした動力性能』『燃費ありきではない、スバルらしいHEV』だった。ここでの開発が改良型を生み、その後システムを刷新した2018年のe-BOXERに繋がった」

「スバルのクルマは走破性、安全性、ユーティリティ、ブレーキフィールなどで高い評価をいただいている。これらはそのままに、電気モーターを使うことで軽快感を出そうと考えた。同時に燃費も改善する。そのためPCU(パワー・コントロール・ユニット)やDC-DCコンバーター、インバーターなどのユニットを一新し、バッテリーはLiBに換えた」

電池の選択は適材適所で|スバルは電池の使用を決める際にさまざまな検討を行なった。最初のHEVは信頼性と調達性でニッケル水素を採用したが、直近のxEVはリチウムイオン電池を採用する。マイルドHEVとストロングHEVでは瞬発力のある出力型電池、BEVとプラグインHEVでは持久力のある容量型電池をそれぞれ使う。電池調達先の選定も重要である。
スバルの電動車
ステラ・プラグイン2009年6月に車両価格472.5万円で発売された軽自動車「ステラ」のEV仕様には、138万円の補助金と自動車重量税および自動車取得税の免除という恩典が与えられたが、一般ユーザーが買える値段ではなかった。このあとHEVが企画されたが「原価と動力のバランスに苦労した」ものの、販売には至らなかった。ネックは電池価格だった。

ドライバビリティでは、HEVらしさ、電動車ならではのスムーズな加速をねらったという。どちらかというと高回転域が得意な回転出力型ICEである水平対向エンジンに低回転域での軽快感を上乗せする。2018年発売のe-BOXERを実際に運転してみた印象は、そのようなものだった。技術者氏はこう言う。

「LiBを使えるようになり、より出力密度型の制御を行なえるようになった。ICEはスロットルが開いて空気が入って燃料を燃やすというプロセスのレスポンスには限界があるから、この部分のラグをモーターで埋めてコントロール性を上げる。HEVのねらいのひとつはそこにある。トルクの薄い過渡部分に積極的にアシストを入れる。ただしアシストし続けていれば発電で取り返さなければならないから、無駄なアシストはしない。しかしアシスト感が弱くなる領域ではアシスト量をうまく調整する。こういう制御にこだわった」

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